【ロジスティクスレポート No.04】物流業務における電子タグ(UHF帯)の活用と課題~性能実験から見た技術課題と活用方向~
- UHF帯電子タグは、読取距離、読取範囲、複数同時読取性能、国際的な標準化の推進、などから、物流分野においても普及が進むものとして注目を集めている。
- 日通総研の実験の結果によると、UHF帯電子タグは従来の電子タグと比較して、読取距離が長い、読取範囲が比較的広い、複数同時読取性能に優れている、などの利点があることが確認された。しかしながら、電波の干渉により電子タグの読み取りができない現象が発生することや、複数同時読取において読取漏れが発生することなどの技術的な課題が存在することも確認された。
- UHF帯電子タグについては2度の省令改正により、日本国内においてもようやく本格的に普及が推進されるものとみられている。「共用化技術」の技術条件が定められたことにより、複数の読取装置の設置が可能となる。また「低出力型」電子タグ読取装置は、ハンディターミナルなどの製品化を可能とするものである。
- 電子タグのメリットを活かした、物流分野における一括検品・在庫管理・資材管理・ロケーション管理、通過履歴管理などの業務における省力化・効率化の推進、SCMにおける商品の個体管理やシステム全体をまたがる一連のデータキャリアとしての利用などに期待が膨らむ。
- 物流業務全般へのUHF帯電子タグの導入については、なお解決すべき課題は残されているが、運用形態によってはそのメリットを発揮しうる場合もあり、個別的な応用を通して全体的な利用拡大を目指していくことが、現実的なUHF帯電子タグへの対応と考えられる。
1.UHF帯電子タグの基本性能
日通総研では、UHF帯電子タグの基本的な読取性能を確認するための実験を行った。なお、実験においては、読取距離(指向性が異なる2種類のアンテナとサイズが異なる2種類の電子タグを組み合わせた)、電子タグを貼り付ける対象物による読取性能、複数枚の電子タグの一括読取性能、などの確認を行った。また、実験を行った環境は電波暗室などの特殊な環境ではないため、電波の反射や干渉などの影響が含まれている。
これらの実験結果から、以下のような現状の総括、評価ができると思われる。
【実験結果の概要】
- アンテナと電子タグの組み合わせにより、最大読取距離は1.5m~4m程度と変化する。
- アンテナ中心から直径1m程度の範囲に位置する電子タグを読み取ることが可能である。
- 読取可能と想定される範囲内において、読み取りができないポイントが断続的に発生する。
- 水や金属などを含む商品に電子タグを貼り付けた場合、読取距離が短くなるなど読取性能が著しく低下する
- 紙、木、プラスチックを遮蔽物としたときの読取性能の低下はあまりみられず、段ボールなどの梱包資材による影響は少ない。
- 人が歩く程度の速度であれば、20~30枚程度の電子タグを一括して読み取ることは可能である。ただし、移動速度や電子タグとアンテナの向きによっては読取精度は大きく変化する。
第1に「読取距離」に関しては、UHF帯電子タグは他の周波数帯の電子タグと比較すると長くなっており、読取距離が必要な場面においては優位性がある。ただし、読取距離はアンテナの種類や電子タグのサイズ、アンテナと電子タグの角度、などにより大きく異なってくるため、実際に利用する場面にマッチしたアンテナと電子タグの選択が必要である。
第3に「金属による電波の反射や水分による電波の吸収」に関しては、UHF帯の電子タグといえども避けられないものであり、金属製品や食品などの水分を含む商品への利用を検討する場合には、読取可能距離を十分に把握する必要がある。
第4に「電子タグの一括読取性能」に関しては、数十枚の電子タグを数秒間のうちに読み取ることができる性能があることは確認された。しかしながら、移動速度が速くなると読取漏れが発生することもあり、読取装置や電子タグの性能だけでなく、アプリケーション側でも対応が必要となるものと考えられる。
2.UHF帯電子タグに関する動向
UHF帯電子タグについては、2005年4月に総務省が省令を改正したことにより、952~954MHzの周波数帯の電波を電子タグに利用することが認められた。「構内無線局の免許が必要であり、無線設備の常置場所を届け出ること」「複数の電子タグ読取装置から発信される電波の混信を防ぐ共用化技術の基準が定められていないこと」などの条件はあるものの、日本国内におけるUHF帯電子タグの実用化についての第1歩となった。
さらに、2006年3月の省令改正により、実用化に向けてさらに1歩踏み出すものとなった。改正内容についての大きなポイントは2つである。1つ目は「共用化技術」の技術条件が定められたことである。これにより電子タグの利用が想定される倉庫や物流センターなどの現場において、複数の電子タグ読取装置を設置することが可能となった。2つ目は、低出力型電子タグ読取装置に関する技術条件が定められたことである。低出力型(10mW)電子タグ読取装置については構内無線局の免許が不要となるため、場所を移動して使用するドライバー端末(ハンディターミナル)などへの利用も可能となった。
これらのUHF帯電子タグに関する省令改正を受けて、日本国内においてもUHF帯電子タグ関連機器の本格的な製品出荷が複数のメーカーから開始されるものとみられている。
またコスト面については、経済産業省が現在推進している「響(ひびき)プロジェクト」の成果が待たれるところである。同プロジェクトは、UHF帯電子タグのコストを1枚5円(電子タグインレット:ICチップとアンテナを樹脂フィルムにてパッケージした状態)とすることを目指しており、すでに試作品が公開されるなど、本年中にもその成果が公表される予定である。
3.物流業務への電子タグ利用の動向
電子タグとは、商品などの情報を記録したICチップをつけて、電波や磁気で情報を読み取るものであり、荷物や商品に取り付けて識別するための荷札(タグ)として活用される。電子タグは、物流や流通における業務の省力化・効率化、商品管理精度の向上、消費者に商品情報を提供するためのトレーサビリティなどに役立つものとして期待されている。
電子タグは情報を読み取るために使用する電波の周波数帯により、読取性能においてそれぞれ異なる特徴がある。日本国内で利用可能な電子タグは主に4種類であり、(1)中波帯(120~130KHz)、(2)短波帯(13.56MHz)、(3)UHF帯(952~955MHz)、(4)マイクロ波帯(2.45GHz)である。なかでも、UHF帯電子タグは、読取距離が長いこと、複数同時読取性能に優れていること、などから物流分野に適しているものとして注目を集めている。短波帯の電子タグは、読取範囲は広いが、読取距離は最大でも1m程度である。また、マイクロ波帯の電子タグは読取距離は1m以上であるが、電波の直進性が強く広範囲に読み取ることはできない。UHF帯電子タグは、前記の2種類のタグと比較して、読取距離と読取範囲において優位性があり、一括読取性能の活用を含めて物流分野での利用が期待されているが、その性能は今回の実験でも確認することができた。
UHF帯電子タグは、既に米国では大手小売業ウォルマート社が検品や商品管理などの業務において導入を開始しており、国際的にも物流業務における商品管理においてUHF帯電子タグを採用する動きが進んでいる。日本国内においても、物流関連業務への活用事例も出てきている。ヨドバシカメラは入荷検品業務においてUHF帯電子タグを利用し、入荷検品業務の効率化およびデータ管理精度の向上などを目指している。また、日通商事においては、輸出梱包業務にUHF帯電子タグを採用しており、出荷検品業務の効率化および検品精度の向上などを目的として利用している。UHF帯電子タグの導入は、入荷(出荷)検品などの物流関連業務における導入事例からもうかがえるように、今後は日本国内においても増加してくるものと予想される。
4.物流業務におけるUHF帯電子タグ活用への期待と課題
現在の物流現場では、商品や荷物の識別においてはバーコードの利用が主流となっている。商品に付けられたJANコードやカートン・ケースに印刷されたITFコードなどは、入出荷検品などの業務においても商品の識別に利用されている。また、宅配貨物などの送り状には輸送履歴を把握するための固有の送り状番号が付けられており、バーコードとして印刷されている。
現在の商品識別の主流であるバーコードに対して電子タグは以下のメリットが考えられる。
- 非接触による自動認識が可能
- 遮蔽物を透過して識別が可能
- 複数一括読取が可能
- 汚れやかすれに強く悪環境(耐水、耐油、対汚れなど)でも動作可能
- 電子タグ1枚毎に異なる識別番号を付与することが可能
- データの書き換えが可能
改正省エネ法では、物流事業者に関しても、比較的規模の大きい事業者を対象に省エネの取組みを義務付けている。トラック運送事業者に関してはトラック200台以上を保有している事業者が義務対象者とされているが、2004年3月末現在では、200台以上のトラックを保有している事業者は266社と全体の0.5%に過ぎず、したがって、大半のトラック運送事業者は対象外となる。しかし、自社が対象外とはいえ省エの取組みを怠ると、省エネに対する意識の高い荷主企業から切り捨てられることも考えられる。
これらの電子タグのメリットを活かした、物流分野における一括検品・在庫管理・資材管理・ロケーション管理、通過履歴管理などの業務における省力化・効率化の推進、SCMにおける商品の個体管理やシステム全体をまたがる一連のデータキャリアとしての利用、などに大きな期待が寄せられている。
物流業務におけるUHF帯電子タグの活用分野としては、パレット・ロールボックス・オリコンなどのリターナブル容器、など繰り返し利用される輸送用資機材への活用が想定される。これらの輸送用資機材に電子タグを取り付けることにより、輸送用資機材の所在管理だけでなく、輸送商品情報との紐付けによる商品管理・輸送履歴管理への適用が可能となる。また、電子タグの一括読取性能を利用し、パレット積みされた商品のカートンなどに電子タグを取り付けることにより、入荷時あるいは出荷時における一括読取により検品業務の効率化・省力化が可能となる。いずれの場合においても、単なるバーコードとの置き換えだけではメリットが少ないため、データを有効活用するアプリケーションの構築と電子タグの特徴を活かした業務の見直しや再構築が必要となろう。
しかしながら、物流現場での活用については、実験の結果にも示しているように、いくつかの技術的な課題を解決する必要がある。
第1の課題としては、電波の反射や干渉により電子タグの読み取りが不安定になる現象の解決が必要である。想定している範囲内においても読み取りができない現状や対象外の電子タグを読み取る現象は、商品や貨物の識別精度を低下させるものであり、実用化に大きな影響を与えるものである。
第2の課題としては、金属や水などを使用した商品の読取性能低下への対策が必要である。対象とする商品によっては電子タグを活用することが困難となる。しかしながら、電波と素材という物理特性によるものであり根本的な解決は困難であるため、技術的な解決だけでなく、利用者サイドにおける運用面での対応が必要となる。
第3の課題としては、複数の読取装置を同時に稼働する場合に必要となる「共用化技術」の有効性の評価が必要である。「共用化技術」により電波の混信は防げるものとされているが、「共用化技術」の導入により読取性能が低下するなどの影響の有無が現時点で明確にはなっていないので、「共用化技術」に対応した製品の動向に注目する必要がある。
第4の課題としては、低価格の電子タグが求められていることである。現時点では電子タグのコストは1枚あたり数十円という水準であり、コスト負担力のある商品への装着あるいは再利用可能な場面に利用が限定されることである。
物流業務全般へのUHF帯電子タグの導入については、なお解決すべき課題は残されており、全ての技術的課題の克服は現状では難しい。しかしながら、現状においては運用形態によりケース・バイ・ケースでそのメリットを発揮しうる場面が想定されるため、個別的な応用を通して全体的な利用拡大を目指していくことが、現実的なUHF帯電子タグへの対応と考えられる。
(担当:ITソリューション部)
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