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着実に進展する物流分野のブロックチェーン活用~貿易分野の状況~

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シニア・コンサルタント

福井 康雅

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今年の4月に「進むブロックチェーン技術の物流分野への応用」という記事を書きましたが、この記事の中の2つのトピックで大きな進展がありましたので、今回はその進展を紹介いたします。

「トレードレンズ」~具体化されたブロックチェーンツール

最初に紹介するのは大手海運会社マースク(Maersk)とIBMの取り組みです。半年前の記事では両社は2018年1月17日に合弁会社を設立したと紹介しましたが、2018年8月に両社で共同開発したオープンプラットフォーム「トレードレンズ」(TradeLens)を発表しました。

オープンプラットフォーム「トレードレンズ」(TradeLens)

(出典:TradeLens Website)

両社は2017年3月に船荷主、海貨業者、貨物船業者、港湾関係者、税関と協力し、国境をまたがるトランザクション向けのブロックチェーンツールの開発を目指して力を合わせると発表し、今年の1月に合弁会社の設立をアナウンスしました。これが具体的な形になったのが今回の「トレードレンズ」です。このプラットフォームの中のクリアウェイ(ClearWay)と呼ばれる貿易書類モジュールは、荷主、通関業者、税関などの貿易関係者がプライバシー、機密性を損なうことなく、貿易手続きに関わるビジネス・プロセスを遂行し、情報交換することが可能とのことです。

プラットフォームには既に20社以上の港湾・ターミナルオペレーターが参加し、世界234拠点で運用される計画があり、オランダ、サウジアラビア、シンガポール、オーストラリア、ペルーの税関当局、船社ではマースク以外にHamburg SuedとPIL、フォワーダー・陸送業界からはクエートのアジリティ(Agility)、オランダのシーバ・ロジスティクス(CEVA Logistics)、マースクのフォワーディング会社であるダムコ(DAMCO)などが参加し、2018年度内に商業ベースの運用を開始するとアナウンスしています。

ブロックチェーンを活用した貿易情報連携基盤システムの構築

そしてこれも以前に紹介した日本企業の取り組みのアップデートです。2018年8月にNTTデータが国立研究開発法人である新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する「IoT技術を活用した新たなサプライチェーン情報共有システムの開発」の委託先に選定されたと発表しました。

同社は2016年に国内初となる貿易分野にブロックチェーン技術を適用した実証実験を行ない、貿易手続きに関わる事業者である輸出入者・船会社・銀行・保険等の大手企業による貿易コンソーシアムを発足させ、中堅・中小企業等を含む関係事業者で貨物や手続き等に関するデータを共有する実証事業を提案してきました。これらの活動によりNEDOより委託先として選定されたとのことです。

実証事業概要と取り組み範囲

<実証事業概要と取り組み範囲>
出典:(NTTデータ Website)

現在日本国内の各港で利用されているナックスと呼ばれる輸出入・港湾関連情報処理システム(NACCS:Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System)はNTTデータが開発・保守を行なっています。このナックスとデータ連携をするブロックチェーンを活用した貿易情報連携基盤システムを構築し、2019年1月から3月にかけて北米やアジア向けのコンテナ輸出を対象とした港湾での実証実験と効果検証を行う予定とのことです。上図の通り、このシステム自体は日本での輸出入通関を円滑に行なうためのシステムとなっており、海外との情報交換についての記載はありません。おそらく海外の他のプラットフォームと連携してやっていくのだと推測されます。また現時点ではEDI(電子データ交換)で行われているナックスも将来的にはブロックチェーンのAPIの中に組み込まれていくと考えられます。

加速するブロックチェーン利用による共同プラットフォーム化

このような一連の流れを見ると海運業界でのブロックチェーン利用による共同プラットフォームは現時点ではマースクとIBMの取組みが一歩リードしているように見えます。彼らが早急に商業ベースでの運用を急いでいるのには明確な理由があります。共同プラットフォームを利用する立場の会社は共同プラットフォームの開発者であるマースクとIBMに利用料を支払わなければなりません。これはIoTなどの最先端技術の世界においては、ブロックチェーン技術に限らずに言えることですが、最初に共同プラットフォームを構築した企業・組織が勝ち組になります。早く商業ベースでの運用実績を作って多くの企業に参加を促し、イニシアチブを取りたいという明確な目的があるのです。

第三者の視点で見れば、ブロックチェーンによる貿易関連の標準化において、最初から海運、陸運、航空での共同プラットフォームは作れないものかと考えるのですが、あまりにもプレイヤーが多く、利害関係の調整に時間がかかり過ぎるというハードルがあり、ある特定の業界で開始して、それが徐々に波及してつながっていくという流れにならざるを得ないのかもしれません。

物流業界におけるブロックチェーン技術が踏むことになる3つの段階

物流業界におけるブロックチェーン技術は3つの段階を踏んで進んでいくだろうと言われています。第一段階はブロックチェーンを統合する共同プラットフォームが形成され、現在の複数会社間でフォーマットの異なるデータのやりとりをしている非効率なEDI(電子データ交換)が徐々に置き換わっていく段階。今はまだこの段階の手前にいます。第二段階ではこの共同プラットフォームを使った貨物追跡が行なわれます。輸送中の品質管理を高め、偽造品や貨物損失のリスクを低減し、特に医薬品・食料品のサプライチェーンに大きな効果をもたらします。ブロックチェーンの共同プラットフォームで貨物追跡が安全、確実にできるようになると第三段階に入り、貨物に対する保険の手続き、輸送サービスの支払いができるようになります。特に傭車(ようしゃ)と呼ばれる外部委託のトラック運転手への運賃の支払い手続きが効率化され、低コストで迅速・確実な支払いができます。以前の記事でUPSとFedExがブロックチェーン標準化団体「Blockchain in Transport Alliance」(通称BiTA:輸送業向けブロックチェーン同盟)への参加を表明したと紹介しましたが、彼らがアメリカの陸上輸送会社主体の団体に参加したのはこの部分が大きいと考えられます。

まとめ

このようにわずか半年の間ではありますが、物流分野におけるブロックチェーン利用は着実に進展しており、「トレードレンズ」の例に見られるように特に国際貿易取引において急激に進むことが予想されます。物流事業者は自分の会社はどのプラットフォームに参加すべきなのか、あるいはこの分野での勝ち組になるために自分達でイニシアチブを取ってプラットフォームを作っていくべきなのか、そういったことを考える段階にきているように思います。

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