実際の改善事例に基づいた海外物流ネットワーク見直しの視点
これまで多くの日系企業がコスト削減目的での海外進出が多く見られましたが、急速な賃金の上昇・物価高で進出先の見直しを迫られるケースも増えています。また、複数の国に生産拠点を設置している進出企業においては、国をまたがる複数の物流導線が非効率なのではないかと疑問を感じており、海外ネットワークを見直す動きが目立ってきています。弊社にも様々なお客様から、「安定した海外ネットワークを構築したい」「できるだけコストを抑えながら海外拠点を結びたい」といった相談が日々舞い込んでいます。今回のブログでは、実際の海外物流の改善事例を元に、海外ネットワークの見直しの視点のお話をしたいと思います。
海外ネットワークの可視化
ある日、これまで国内物流のコンサルティングでお付き合いのあった企業の物流担当者の方から、「海外の物流コストが下がらないので、一度会って話したい」と相談がありました。すぐにその担当者と打ち合せを行い、現在の海外物流ネットワークがどうなっているのかを細かくヒアリングしてみると、以下のことが分かってきました。
(改善前の物流ネットワーク)
・シンガポールを国際ハブ拠点とし、各国からの製品を在庫している。
・調達先国の複数の生産委託工場から、それぞれコンテナ単位で購入し、同じ港から複数コンテナをシンガポールへ輸入している。
・シンガポールのDCからは、各国の受注に基づきそれぞれの国の倉庫へ再輸出している。
・繁忙期にはシンガポールのDCに輸入貨物が集中し、キャパシティーが足りなくなったら近隣の倉庫も借りている。
このような状況下において、この担当者は「海外物流のコストが高い」「DC在庫が無くならない」という悩みを抱えていました。
問題の洗い出し
そこで、筆者は担当者と一緒に現状を整理し、次の問題に焦点を当てました。
問題① 調達先国の物流コストが見えない。
問題② 発注が大ロット(コンテナ単位)である。
問題③ 重複している海上輸送(原産地であるA国 → シンガポールDC → A国など)
問題④ シンガポールDCの賃料が高く、溢れた貨物があれば周辺の倉庫も借りている。
対応策と結果
これらの問題を解決するために、保管や輸送といった物流の部分だけでなく、物流に影響を与えうる調達の部分も含めて、海外ネットワーク全体を改める必要があるという共通認識に達しました。そして以下のような対応策の取り組みを行いました。
(対応策)
1 ベンダーとの仕入れ条件(契約)を見直し、CIF(海上運賃保険料込み)からFCA(運送人渡し)やFOB(本船渡し)に切り替える。(下図参照)また、発注単位もコンテナ単位から小ロットでの発注とする。
2 原産国の保税倉庫に、各々のベンダーの輸出貨物(商品)を集約する。
3 原産国からの直送化を図る。
FCA、FOBとCIFの費用負担の範囲
(期待効果)
1 商品の原価と物流費(各国倉庫への搬入まで)が可視化できる。また、小ロット発注により余分な在庫がなくなる。
2 原産国の倉庫で一旦貨物を集約するため、これまで各ベンダーからバラバラに輸出されていたコンテナをまとめることができる。
3 各国の物流倉庫へ直接送ることで、これまでシンガポールDC経由で重複していた海上輸送コストが削減できる。そして、シンガポールに貨物が集中しなくなるため、繁忙期にDCの周辺に借りていた倉庫が不要になる。また、直送化によって全体的に物量が減り、過剰在庫が解消される。
解決のための注意点
上記対策を行うには、以下のことに注意をしなければなりません。
① ベンダーとの折衝
仕入れ条件を変える、発注単位を変えるためには、仕入先であるベンダーの理解が必要となります。現地倉庫渡しの金額へ仕入れ価格の見直すということは、これまで商品自体のコストにどの程度の海上運賃と保険料を加算していたのかが分かってしまうので嫌がるベンダーもいるかもしれません。また、少ロットでの発注に切り替えるためには、ベンダーの工場の最低生産ロットに発注量を合わせるといった折衝も必要になるでしょう。これらはお互いに納得ができるまで、ベンダーと粘り強く折衝しなければなりません。
② 社内における部署間の綿密なコミュニケーション
仕入れ条件の変更、発注単位の変更にともなって、受発注のタイミングも変わります。また、直送化によって安全在庫のルールの変更も必要になるでしょう。そのため、社内における部署間の綿密なコミュニケーションを行い、お互いの業務内容を理解し、全体を把握することが必要となります。
③ 仕組みを変えることによって発生しうる影響
原産国での集約倉庫の設置、仕分け作業などの物流コスト、特恵関税利用への影響など、変更によって影響が出てくると思われる内容をきちんとシュミレーションしておく必要があります。これが抜けていると、せっかく下げることができた物流コストを余計な費用で相殺してしまうことにもなりかねません。
最後に
海外ネットワークの改善は、単純に海上輸送のコストや倉庫の賃料を見るだけでは大きな削減効果は期待できません。今回のコンサルティング事例では、各ベンダーへの発注単位が大ロットであったことや、一度シンガポールDCにエリア在庫を集約していたことで、おのずとDC在庫が膨れ上がり、それが海上輸送の費用や倉庫賃料を押し上げていました。
今回のコンサルティングでは、原産国での集約倉庫の設置、仕分けや混載作業などによって、一部の物流コストは上がってしまうものの、全体の物流コストを下げることができました。海外ネットワークの再構築をお考えの方におかれましては、ぜひ「調達~物流までの全体の流れを整理する」といった視点を念頭に改善に取り組んで頂ければと思います。
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