(物流2024年問題)ラストワンマイルデリバリー改革に向けたスモールスタート
私は、昨年末(2023年)にシンガポールから帰国し、本年(2024年)よりNX総合研究所代表取締役社長のポジションに就きました。その以前も国際物流担当であったため、日本国内の物流事情についての情報に接する機会が極めて限られていました。着任後、弊社のコンサルタントが、「物流2024年問題」を語る講師として、日々全国津々浦々、飛び回っていることを聞き、事の重大性、問題の深刻さを知ることとなりました。それ以降、街を走るトラック、小口貨物配送のドライバー・配達員の仕事ぶりなどが、目の中に自然にどんどん飛び込んでくるようになってきたのです。
さて、早いもので師走となり、米国発祥のお祭り・イベントである10月末のハロウィン、11月末のブラックフライデー、形はどうであれ日本でも定着してきた感があります。また、クリスマス、お正月と多くの行事が続き、消費も一気に盛り上がる晩秋から年末・年始です。その盛り上がりは、経済の活性化のために歓迎すべきですが、2024年問題を知った私にとっても、通販等のラストワンマイルデリバリーのドライバーへの負荷が非常に気になる季節です。
また、今年8月に公開された映画「ラストマイル」はEC事業者と宅配の世界を舞台とする「サスペンスエンタテインメント」のことを思い出しました。大ヒットとなったことから、ご覧になった方も多いのではないかと思います。宅配の個人事業主と思われる親子のドライバーが、昼食の時間を惜しんで車内で弁当をかきこみ、荷物を待つ顧客のために1個150円の対価として荷物を必死に届けるシーンが印象に残っています。再配達となると150円はもらえません。一体、何時間働けば多少なりとも余裕のある生活ができるのでしょうか。私自身も消費者の一人として、行動変容が必要だと、改めて認識しました。
通販を含めた小口貨物のパッケージ数が年々増加していることは、想像に難くありません。少し古いデータですが、2019年から2021年のパッケージ数の月別波動は、最も取扱件数の少ない2月を100とした場合、12月は、何れの年も50%以上アップの150となっています。どの宅配業者とも、12月は、パートナー企業、個人事業主の協力を仰ぎ配送能力の拡大を図っているものの、この増量を全て賄える戦力を確保できている事業者は皆無であると言えます。言い換えれば、ラストワンマイルデリバリーが何とか実行されているのは、従前から各ドライバー・配達員が長時間労働、休憩時間の短縮、少しでも効率的に配送するための取組などで、支えられているのが実態です。
しかしながら、「物流の2024年問題」を端に発し、政府、各物流関連団体などが連携した継続的な情報発信によりこの問題を取り上げるマスメディアも大幅に増加し、物流事業者以外の企業、また、物流サービスのユーザーである個人にもその状況への理解が徐々に深まり、状況打開のための機運が芽生え始めていると、個人的に感じられるようになってきました。
どのような点から、そう感じとったのかを例を少し紹介させていただくと、一つは、大手宅配業者が、今年10月末から11月上旬に「置き配」にかかわる利用状況・利便性に関するアンケートを実施、「置き配」利用経験者は、78.5%(その利用者の4人に1人が在宅時に利用)に上ったことが発表されました。これは社会的にも「置き配」の認知やニーズが広まりつつあると言えます。2つ目の動きとしては、大手建築メーカのグループ会社が、マンション管理会社と宅配会社が「マンション内配送サービス」の実証実験を開始するとの発表が11月にありました。このような取り組みは、以前からあったとも考えられますが、多くのマンションで同様の取組の検討が進めば、効率が悪いと言われ、ドライバー・配達員泣かせであった大型マンションへの配送業務の効率化が進むことは、間違い無いと言えます。3つ目の動きとしては、11月15日に、国土交通省が、新たに建てる一定の規模以上の大型マンションに荷さばき用の駐車場を設けることを義務づける考えを示したことです。私の住まいの近くでも、大型マンション近くにトラックの駐車場所の確保が困難であったことから、数百メートル離れたところへの駐車を余儀なくされ、雨天であっても、そこから荷物を濡らさないような工夫の上で、台車を使って大量の荷物を何回にも分けて配達する姿を日々目にします。既に建てられた大型マンションにおいても、相違工夫により駐車場所の確保を進めていただきたいと思います。
将来自動運転、また、ロボットの活用で、ラストワンマイルデリバリーも進化すると考えられますが、大型車の幹線輸送に比べると、その実現は、随分先になると思います。それまでの繋ぎとして、今後も色々な対策が講じられ、それ複数の対策を活用することにより、利便性が高く、高品質な配送サービスを持続的に受けられる状態であって欲しいと思っています。
物流の課題解決に向け、多くの取組が開始され始めましたが、来年は、その動きが相当加速すると見ています。それは、今年成立・公布された改正物流総合効率化法で、一定事業規模以上の事業者には、物流統括責任者(CLO)の設置が義務付けられ、来年以降、そのCLOのリーダーシップの下、物流課題発掘、改善・改革が進められることとなるためです。
このような動きの中、弊社は、物流・ロジスティクスを中核として、先進的なコンサルティングやリサーチを通じ、革新的なソリーションを全ての関係者に提供し、高品質で効率的且つ持続的な物流システムの構築に貢献できる存在であり続けたいと思います。
最後になりますが、私は、2024年12月31日付けで株式会社NX総合研究所の代表取締役社長を退任することとなりました。非常に短い間でしたが、物流課題を深く考える良い機会で、とても充実した1年でした。皆様からの多くの情報、ご意見に加え助言、アドバイスを頂戴したことに大変感謝をしております。このブログを読んでいただいている皆様のアイデアと実行力により、日本の物流システムが更に発展することを祈念しています。
(この記事は2024年12月11日時点の状況をもとに書かれました。)
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