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ECRS再考 ~持続可能な物流に向けて~

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シニア・コンサルタント

片山 徳宏

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ECRS:業務改善の方法論

多くの製造・流通業において、物流の効率的な運営は企業の競争力を左右する重要な要素です。そのため、より効率的な物流を目指した改善活動に、多くの企業が取り組んでいます。こうした改善活動に取り組むに際によく用いられるフレームワークに「ECRS」というものがあります。これは改善の4原則とも呼ばれ、物流に限らず、多くの様々な業務における効率化の手法を一般化し、整理したものです。

ECRSは改善において必要となる以下の四つの要素から頭文字を取ったものです。

・排除(Eliminate): 不要な業務や手順を省略する
・結合(Combine): 似た業務をひとまとめにする
・再配置(Rearrange): 業務の優先度や配置を見直す
・簡素化(Simplify): 業務をシンプルにし、簡単にできるようにする

ECRSは効率化を促進するための原則といえるもので、これらの要素をもつ改善策を導入することで、企業は生産性が向上し、コスト削減や競争力の強化が図れるといわれています。

物流現場においてECRSは、業務効率化というよりもそれを通じたコスト削減や品質向上のための手法として用いられてきました。また業務の属人化を防ぎ、組織全体の生産性を向上することにも役立つといわれています。例えば、倉庫内の出庫作業フローを見直すことで、作業時間を短縮し、誰でもミスなく作業ができるようにする、といった場合、ECRSの視点があれば、より合理的で効果的なフローが案出できるのです。

物流改善の目的とは

物流現場では、こうした改善活動を通じたコスト削減や競争力強化の取り組みが長く行われてきたのですが、その一方で、物流業界全体としては、非効率や、長時間労働に繋がる低い生産性が長い間見過ごされてきたことも事実です。これはこれまでの物流改善が「コスト削減」「品質向上」といったゴールに重きを置き過ぎており、物流現場における長期的な負担や構造的な問題があまり深刻に捉えられていなかったことの裏返しといえるかもしれません。

そのためか、物流業界が直面する2024年問題、また業界全体の人手不足といった課題が顕在化するに伴い、近年の顧客の動向などを見ていると物流改善のゴールが「コスト削減」「品質向上」一辺倒ではなく、いかにして物流の持続性を確保するのかという点で語られることが多くなったように感じています。

「持続可能性」の観点は、従来企業の活動における環境負荷(CO2排出など)に着目するという意味で近年用いられるようになりましたが、物流においては、現在享受している物流サービスや品質を将来においても維持する、または将来(逼迫が)予測される変化に備え、物流の仕組みを見直すという意味で使われています。こうした動向も踏まえ、物流における改善の取組を中長期的に維持するためには、「持続可能性」は物流改善活動における忘れてはならないテーマに加える必要があるといえるでしょう。

持続可能性と物流ECRS

これからは、ECRSを効率化だけでなく、物流の持続可能性を図るためにも活用していくことが必要です。そこで、持続可能性の観点から物流改善に取り組む際、ECRSの原則をベースに、よりこうした目的に沿うように物流改善のアプローチを再定義し、これを仮に「物流ECRS」と名付けてみたいと思います(図表1)。

図表1:物流改善の手法分類(物流ECRS)

物流ECRSは以下の7つの手法により構成されます。

・廃止 : 本当に必要なのかを再検討し、長続きできない業務はやめる
・簡素化: 複雑な業務をシンプルにし、業務遂行に係る負担や工数を減らす
・遵守 : 不適正・不明瞭運用や属人的な判断をやめ、客観的なルールに基づく業務を遂行する
・分散と統合 : 役割分担を再編し、限りある人的資源、インフラを有効に活用する
・平準化 : 業務の波動やバラツキを減らし、業務負荷や必要な資源を一定の範囲に抑える
・標準化 : 属人的な要素や個別対応を除き、共通の方法で誰でも業務を行えるようにする
・自動化 : 機械や情報処理技術によって高度かつ負荷の高い業務を代行させる

物流ECRSの活用

言うまでもなく、改善活動はアイデアを検討するだけでなく実行することが大切です。物流ECRSは、「廃止」や「簡素化」といったシンプルな手法から、「標準化」「自動化」といった、詳細な検討や一定の投資が必要になるものへと、後段にいくほど実行の労力や投資が大きくなる(つまり実行の難易度が高くなる)ように分類・整理しています。改善活動に投入できる労力や予算規模は、取り組む企業や状況により様々であるため、自分の身の丈に合わない提案をしりぞけ、いま必要でかつ実行可能な改善策を見つけ出すためにも物流ECRSのアプローチは活用できるのではないでしょうか。

また、物流改善において新技術の活用は近年避けて通ることはできません。物流ECRSと新技術との関係も考えてみましょう。「自動化」や「標準化」において活用される技術とは一定の範囲の仕事をより精密・迅速かつ大量に処理するための技術を意味します。これには、各種自動化機器、ロボティクス、RPAといった技術が当てはまるでしょう。これに対し「廃止」「簡素化」「遵守」「分散と統合」「平準化」はまだ新技術の活用があまり進んでおらず、業務を熟知した人間の知見や(あるいは当社のような物流コンサルタントから得た知見を元に)活動していた領域です。

しかし、今後はこれらの領域においても新技術の活用が急速に進むと考えます。センサーを用いたIoT技術、ビッグデータの活用、また大量の学習データを基にした生成AIの活用により、熟練の経験や専門家の知見に頼らずとも改善にむけた有益な示唆を得るといったことが可能になりつつあります。こうした新技術の活用によって物流改善のための分析やアイデアの検討はより迅速かつ幅広となります、また物流改善活動の中心がルーチン化された仕事を精密・迅速に処理するところから、短いスパンで物流の仕事のやり方そのものを柔軟に見直すことへと移っていくことになるのかもしれません。

最後に、物流ECRSは個々の事業における競争力の強化よりも、効率化によって物流の仕組み全体の持続可能性を高めることを目指します。そのため改善の取り組みは個別の部門や企業にとどまることなく、部門横断、企業や業界の枠を超えた改善にも取り組むことが可能となるでしょう。物流が従来関わってきた「コスト削減」「品質向上」を目的とした改善は今後も求められ続けますが、それだけでなく、改善を持続可能なものへと変化・定着させるためのアイデアが今後より重視されていくと考えています。

(この記事は2024年7月1日時点の情報をもとに書かれました。)

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