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SDGsから読み解く物流の「2024年問題」シリーズ Ⅱ

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リサーチフェロー

田阪 幹雄

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前回の記事は、「日本の物流業界における相対的貧困層の潜在化」、「なかなか改善されない貨物運送事業者の経営状況」に焦点を当てて、「2024年問題」に向けて日本が乗り越えなければならない課題を、SDGsの観点から述べました。
 本稿は、物流事業者と荷主の取引関係、標準化・デジタル化のトレンドを取り上げて、引き続きSDGsの観点から「2024年問題」の課題について述べたいと思います。

日本の物流事業者の労働生産性と荷主との取引関係

ご覧の通り図表1は、これまで日本生産性本部が行ってきた複数回の調査のいずれにおいても、日本の運輸業の労働生産性が米国の半分以下であり、同じ時間をかけても日本の運輸業は米国の運輸業の半分未満の“金”しか生み出せていないことを示しています。

図表 1 日米運送事業者の労働生産性比較

図表 1 日米運送事業者の労働生産性比較

(出所:公益財団法人日本生産性本部「産業別労働生産性水準の国際比較米国及び欧州各国との比較」、「産業別労働生産性水準の国際比較米国及び欧州各国との比較」、「日米運輸業等の労働生産性比較」及び経済産業省「通商白書2013年版」をもとにNX総研が作成)

この問題は、SDGsのゴール8「生きがいも経済成長も」とゴール9「産業と技術革新の基盤をつくろう」が、日本の物流事業にとって重要であることを示しています。
2015年9月に1,252社の運送事業者、5,029名のドライバーを対象に国土交通省により実施された「トラック輸送状況の実態調査」によると、発着荷主の戸前・庭先での手待ちがある運行が全体の半分近い46%で、その1運行当り拘束時間の13時間27分のうち運転時間が半分以下の6時間41分しかなく、手待ち時間が1時間45分、手待ち後の荷役時間が2時間44分もありました。また、手待ちのない運行の場合の1運行当り拘束時間11時間34分のうちでも、2時間49分の発着荷役が発生し、運転時間が半分強の6時間21分にしかならないことが判明しています。また、80%以上の荷主が時間或いは時間帯を指定しているにもかかわらず、前述の通り半分近い運行で手待ちが発生していることも判明しました。
表2(A)は、そのような手待ちにより荷主から収受すべき車両の留置料が90%前後で収受できておらず、その手待ちの後で発生する荷役の対価についても75%前後で収受できていないこと、指定時間或いは時間帯を守るために有料道路を利用した場合にも、65%前後で有料道路料金を収受できていないことを示しています。

図表 2(A) 荷主との取引関係に関するトラック運送事業者の認識(1)

図表 2(A) 荷主との取引関係に関するトラック運送事業者の認識(1)

(出所:国土交通省「トラック輸送状況の実態調査結果(全体版)」の中「事業者調査結果」から抜粋)

更に問題なのは、図表2(B)が示す通り、20%以上の事業者が「協力を依頼したいができない」と回答しており、日本の荷主とトラック運送事業者の間には、平等且つ対等なパートナー関係が構築されていないことを示しています。
その背景には、1990年以降の規制緩和により日本の貨物運送市場が荷主にとっての買い手市場となったため、手待ちや荷役が差別化のためのサービス役務となり、以降30年間に亘って商慣行として定着してしまったという経緯があります。
日本のロジスティクスを持続可能な事業とするには、荷主と物流事業者の間の平等且つ対等なパートナーシップの構築、発荷主と着荷主の協力による新たな商慣行の構築が不可欠です。

図表 2(B) 荷主との取引関係に関するトラック運送事業者の認識(2)

図表 2(B) 荷主との取引関係に関するトラック運送事業者の認識(2)

(出所:国土交通省「トラック輸送状況の実態調査結果(全体版)」の中「事業者調査結果」から抜粋)

DXに進む前に標準化・デジタル化が必須の日本の物流業界

日本の多くの人は、世界のロジスティクス同様、日本のロジスティクスも図表3の如く、Logistics 1.0以降、Logistics 2.0、3.0を経て、現在では、AI化やIoT化、そしてデジタル化による変革(DX)も順調に進んでおり、Logistics 4.0がまさに進行中であると考えているでしょう。
しかしながら、実際には図表3の下部に赤字で示したLogistics 2.0におけるトレーラー、コンテナ、パレット等輸送容器・デバイスの標準化や、Logistics 3.0におけるデータ形式、コード体系の標準化は、日本では欧米の先進国と同次元で進展しなかったのです。

図表3 ロジスティクスにおけるパラダイムシフトの変遷

図表3 ロジスティクスにおけるパラダイムシフトの変遷

(出所:ローランド・ベルガー「ロジスティクスにおけるイノベーションの変遷」の図をもとに、NX総研が作成)

Logistics 2.0の時代に北米を中心とする欧米では、コンテナやトレーラー、その中に積載されるパレットと言ったユニットロードデバイスの標準化、そしてそれにもとづくロジスティクスのオペレーションの標準化が展開し、貨物輸送の生産性が飛躍的に向上し、Logistics 3.0の時代にはデータ形式やコード体系がグローバルレベルで標準化されました。
この二つの時代を通じて現出しロジスティクスのデジタル化に直結した二つの標準化が昇華した時に初めて、デジタル化による変革(DX = Digital Transformation)というパラダイムシフトが実現できるのです。
一方日本では、欧米の標準化とは別に、コンテナはJR貨物の12フィート(5トン)と31フィートが、トレーラーは13メートル(42フィート8インチ)が主流となり、Global Standardとは同期が取れていません。また、日本の国内総貨物量の90%以上を占める貸切りトラック輸送についてもトレーラーやコンテナは部分的にしか普及しませんでした。
更に、パレット等のユニットロードデバイスについては、1990年の貨物自動車運送事業の規制緩和以来、ドライバーによる発着の積み降ろし荷役がサービス役務として定着して来たため、トラックの積載効率という部分最適が優先され、パレット利用でさえも普及していないのが実情です。
また、日本のロジスティクスにおけるデータ形式やコード体系については、取引関係の中で垂直方向には連携されてきましたが、業界内・業界横断的な水平方向の標準化はほとんど行われて来なかったため、欧米の先進国と同次元のサプライチェーンの全体最適化は実現できていません。
SDGsのゴール9「産業と技術革新の基盤をつくろう」のターゲット9.2「包摂的かつ持続可能な産業化を促進し、2030年までに各国の状況に応じて雇用及びGDPに占める産業セクターの割合を大幅に増加させる。」、9.5「2030年までにイノベーションを促進させることや100万人当たりの研究開発従事者数を大幅に増加させ、また官民研究開発の支出を拡大させるなど、開発途上国をはじめとする全ての国々の産業セクターにおける科学研究を促進し、技術能力を向上させる。」を着実に推進しておかなければ、日本のロジスティクスは、欧米の先進国ばかりでなく、アジアの新興国の後塵を拝することになるでしょう。

(この記事は2023年10月6日の状況をもとに書かれました。)

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