「2023年度の経済と貨物輸送の見通し」改訂版が4月に公表 -国際輸送の見通しはどのように変わった?注目すべき点は?
当社が年4回定期的に発表している「経済と貨物輸送の見通し」の改訂版が、2023年4月5日に公表されました。今回の改訂版は、23年1月に公表した前回の見通しを、その後に公表された統計・実績や新たな動向を踏まえて、シナリオや予測値(貨物輸送量と対前年伸び率)を見直したものです。
公表資料は当社HPに掲載されていますが、本稿では日本発着の国際貨物輸送量(外貿コンテナおよび国際航空)の見通しについて、前回の見通しから変更・見直した点や注目すべき点について整理、補足説明します。
※見通し改訂版の公表資料は以下に掲載。https://www.nx-soken.co.jp/report
航空輸入を除いて前回から下方修正/航空輸出は増加から減少に変更
図表1は、今回の改訂版と前回の見通しにおける輸出・輸入貨物量の予測値(対前年伸び率)を比較したものです。23年度の航空輸入を除いて、すべて前回見通しから下方修正しており、とくに23年度の航空輸出については3.9ポイントと大幅に引き下げ、プラス(増加)の見通しをマイナス(減少)に変更しています。これは、航空から海運への貨物シフト・海運回帰が進んでいることや、21年度における航空貨物輸送量の急拡大をけん引した主要2品目;自動車関連貨物(自動車部品)と半導体関連貨物(製造装置・電子部品)の荷動きが、22年後半から23年にかけて失速・停滞していることを踏まえたものです。
図表1 今回改訂版と前回見通しの予測値(対前年伸び率)の比較
出所)㈱NX総合研究所「2023年度の経済と貨物輸送の見通し(改訂)」(2023年4月5日公表)、
同上「2022・2023年度の経済と貨物輸送の見通し」(2023年1月11日公表)より作成。
暦年ベースの予測伸び率は年度ベースを下回る見込み
図表2は、22年4月の拙稿と同様、今回改訂版の年度(4月~翌年3月)ベースの予測値と、NX年度(暦年;1月~12月)ベースの予測値を比較したものです。これをみると、23年度については、海運・航空、輸出・輸入とも、NX年度(暦年)ベースの予測値が、年度ベースの予測値を下回っています。とくに航空の場合、輸出が年度ベース1.8%減に対して暦年ベース9.3%減、輸入が年度ベース0.6%増に対して暦年ベース6.6%減(符号・増減も逆)となっており、暦年ベースの予測値が年度ベースの予測値を大幅に下回っています。
今回の改訂版では、23年度後半に世界経済の減速が緩和、徐々に回復基調に転じる中で、荷動きも尻上がりに回復して伸び率が拡大するシナリオを想定しており、24年1-3月期にかけて伸び率が高まっています。暦年ベースでは、この伸び率が高まる24年1-3月期のプラスが外れて、逆に23年1-3月期の大幅マイナス(航空は輸出・輸入ともに20%台の大幅減)を取り込んでしまうため、年度ベースに比べて伸び率が低くなっています。とくに航空輸入では、22年後半からの急激な円安進展・円安基調による下押しが23年1-3月期も続いたため、年度ベースでは小幅ながらプラスの見通しですが、暦年ベースではマイナスとなります。23年度下期は前年度よりは円高水準となり、円安圧力が緩和するとの想定のもと、年度ベースはプラスの見通しとしています。
図表2 年度ベース(一般年度)と暦年ベース(NX年度)の予測値比較
注1)外貿コンテナは2022年7-9月期まで、国際航空は2022年10-12月期まで実績値。
注2)年度ベースは上期:4月-9月、下期:10月-翌年3月。暦年ベースは上期:1月-6月、下期:7月-12月。
出所)㈱NX総合研究所「2023年度の経済と貨物輸送の見通し(改訂)」(2023年4月5日公表)
23年度も引き続き海運の伸び率が航空を上回る見込み
図表2から、海運(外貿コンテナ)と航空(国際航空)の年度ベースでの予測伸び率を比較してみると、22年度・23年度とも、海運の予測伸び率が航空を上回っています。23年度の輸出については、海運の1.8%増に対して、航空は1.8%減と、符号(増減)も逆になっています。NX年度(暦年)ベースでみると、海運と航空の明暗はより鮮明となり、海運では23年度が輸出入とも小幅ながらプラスとなっているのに対して、航空では輸出入ともマイナス、とくに輸出は9%台の減少で、前年(10.2%減)からわずかな改善にとどまる見込みです。
海上輸送混乱と港湾混雑の緩和・収束/航空から海運への貨物シフト・海運回帰
上記のように海運と航空の荷動きの明暗が分かれるのは、海上輸送混乱と港湾混雑の緩和・収束と、それに伴う航空から海運への貨物シフト・海運回帰の進展を踏まえたものです。
21年度までは、海上輸送混乱と港湾混雑の激化が、海運から航空への貨物シフト・航空輸送特需につながっていました(21年5月・6月の拙稿参照)。22年度からは、海上輸送混乱と港湾混雑の緩和・収束を受けて、逆に航空から海運への貨物シフト・海運回帰が加速しています。航空は海運に比べて、重量ベースでみた市場規模がきわめて小さい(海運の1~2%程度と目される)ことから、海運への貨物シフト・海運回帰に伴うマイナス幅が大きくなります。
自動車関連貨物の回復後ずれと半導体関連貨物の失速・停滞
図表3は、22年度後半から23年度にかけての、自動車関連貨物(自動車部品)と半導体関連貨物(製造装置・電子部品)の荷動き(対前年伸び率)イメージを示したものです。
自動車関連貨物については、車載半導体部品不足は足元で緩和が進みつつあるものの、解消には至らず、自動車工場の減産が長期化し、正常化が後ずれしているため、水面下の荷動きが続いています。今回の改訂版では、23年度下期における工場生産正常化に伴う増勢回復を見込んでいますが、挽回生産に伴う需要拡大については、控えめにみています。
半導体関連貨物については、22年後半からの半導体市場全体の需給・市況軟化や、米中対立の激化の中で、米国が中国向け半導体輸出規制を強化(22年10月~)したことにより、中国側の生産・設備投資が抑制され、日本発中国向け輸出にも影響が波及しています。
自動車関連貨物と半導体関連貨物の荷動きを比べてみると、自動車関連の回復・拡大よりも、半導体関連の減速・落ち込みの方が大きいとみて、航空輸出についてはマイナスと予測しました。
図表3 自動車関連貨物と半導体関連貨物の荷動き(対前年伸び率)イメージ
公表直前の新たな動き①:日本が半導体製造装置等の対中輸出規制導入方針を発表
今回の改訂版の公表を翌週に控えた3月末、①日本政府が半導体製造装置等の対中輸出規制導入方針を発表、②英国のTPP11(環太平洋経済連携)加盟について加盟国が合意、という新たな動きが相次いでみられました(図表4参照)。
①は具体的には、半導体製造装置23品目を対象として個別の輸出許可制を導入、事前に経済産業大臣からの許可を必要とするもの。外為法の関連省令・規則を改正し、関係企業からのパブリックコメントを受け付けた後、7月にも施行される予定です。
今回の改訂版では、23年度下期(10月以降)の規制導入・実施を想定していたため、公表見通し本文に記載したとおり、規制が想定よりも早く導入・実施されることで、航空輸出は公表予測値(1.8%減)よりもマイナス幅が拡大する見込みです。
図表4 日本のFTA・EPAと対中半導体輸出規制に関する動向
注)FTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)
EPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)
TPP(Trans-Pacific Partnership:環太平洋経済連携)
RCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership:東アジアの地域的包括的経済連携)
公表直前の新たな動き②:英国のTPP11加盟について加盟国が合意
TPP11の経済圏規模は英国の加盟により、世界のGDPの12%から15%に拡大しますが、最大規模の市場を擁する米国が離脱したままなので、RCEP(東アジアの地域的包括的経済連携)の半分程度の水準にとどまります。また、日本は英国のEU離脱(ブレグジット)に伴い、日EUEPA(経済連携協定)を補完する二国間EPAを締結・発効済みのため(2021年2月)、日本にとってはそれほど大きなインパクトはありません。英国のTPP11加盟は、国内での承認・批准手続きを経て、23年7月以降に発効する見込みです。
TPP11やRCEP、日EUEPAなど、新型コロナウイルスの感染拡大前後に締結したFTA(自由貿易協定)・EPAの効果は、これまでコロナ禍や世界経済減速の影響の中に埋没して、見えにくくなっていました。今回の改訂版で想定しているように、23年度後半に新型コロナが収束、世界経済が減速緩和、回復基調に転じると、徐々にその効果が見えてくるものと思われます。
なお、次回の見通し改訂版については、7月上旬の公表を予定しています。
(この記事は2023年4月17日の状況をもとに書かれました。)
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