コロナ禍前後における日本発輸出航空貨物の荷動きの変化~自動車部品と半導体製造装置を中心に
2021年は輸出航空貨物量の対前年比と航空分担率が過去最高水準に
2021年は新型コロナウイルス禍(コロナ禍)からの輸送需要回復や海上コンテナ輸送混乱・港湾混雑が続く中で、海上コンテナ輸送から航空輸送への貨物シフトが進み、航空貨物輸送量は大幅に回復・拡大。2021年の輸出航空貨物量は暦年ベース(1月~12月)で対前年比45.4%増、年度ベース(4月~翌年3月)で29.7%増と、2000年以降では過去最高水準の伸びを示しました。
また、日本発輸出貨物の航空分担率(航空化率)も上昇傾向にあり、2021年は金額ベースで42.1%とコロナ前(2019年;39.6%)を上回り、過去最高水準となっています。ここでいう航空分担率(航空化率)とは、航空輸送量(金額)が、海上コンテナ輸送量(金額)と航空輸送量(金額)の合計値に占める割合のことです。
自動車部品と半導体製造装置が輸出航空貨物の急回復に寄与
日本発輸出航空貨物の回復・拡大に大きく寄与し、代表的なエアカーゴと目されているのが、①自動車部品と②半導体製造装置です。
本稿では財務省貿易統計で公表されている実績値・データから、自動車部品(HSコード8708)と半導体製造装置(同8486)に焦点を当てて、その荷動きの増減率や航空分担率、航空貨物に占めるシェアの動向を整理、比較分析してみます。財務省貿易統計では、重量ベース・単位の統計が公表されていない品目も多いのですが、自動車部品と半導体製造装置については、金額ベースと重量ベースの両方の実績値・データが揃います。
輸出航空貨物に占めるシェアの推移
:自動車部品は以前の航空シフト時の水準に届かず、半導体製造装置は上昇傾向が続く
自動車部品についてみると、金額ベースのシェアは1%未満にとどまり、ここ数年は0.3~0.4%で推移。重量ベースのシェアは金額ベースよりは高く、2018年までは3~4%台で推移していましたが、2019年・2020年は2%台に低下。2021年は3.1%と2019年・2020年からは上昇していますが、以前自動車部品の緊急輸送特需・航空輸送へのシフトが発生していた2015年や2018年(いずれも4.9%)に比べると、低水準にとどまっています。
半導体製造装置については、金額ベースのシェアは上昇傾向が続き、コロナ前の2019年に5%台に上昇、2021年は6%を超えました。重量ベースのシェアは、2018年までは2%台にとどまっていましたが、2019年~2021年は3%台に上昇、安定的に推移しています。
このように輸出航空貨物に占めるシェアをみると、自動車部品は低下傾向、半導体製造装置は上昇傾向がみられ、重量ベースでは2019年以降、半導体製造装置が自動車部品を逆転、上回るようになっています。
図表1:輸出航空貨物に占めるシェアの推移(2015年~2021年)
注)黄色は自動車部品の航空による緊急代替輸送・航空シフト発生年
出所)財務省貿易統計より作成
航空分担率(航空化率)の推移
:自動車部品は以前の航空シフト時の水準に届かず、半導体製造装置は高水準で安定
自動車部品についてみると、金額ベースの航空分担率(航空化率)は2018年まで3~4%台で推移していましたが、2019年・2020年は2%台に低下。北米向けで海上輸送混乱と港湾混雑に伴う海上輸送からのシフトが発生した2021年は3%台に上昇・回復しましたが、以前の航空シフト発生時;2015年(4.1%)や2018年(4.0%)よりも低い水準にとどまっています。
重量ベースでみてもほぼ同様の傾向となっており、2019年・2020年は1%台前半で停滞した後、2021年は1%台後半(1.7%)に回復・上昇していますが、やはり以前の航空シフト発生時:2015年(2.0%)や2018年(2.3%)の水準を下回っています。
半導体製造装置についてみると、金額ベースの航空分担率は60%台半ばの高水準で安定的に推移しており、重量ベースでは2019年・2020年に30%台後半に回復・上昇、2021年には40%を超えました。半導体製造装置の航空分担率は自動車部品よりも高い水準で安定的に推移しており、重量ベースでは近年上昇傾向が鮮明になっています。
図表2:航空分担率(航空化率)の推移(2015年~2021年)
注)黄色は自動車部品の航空による緊急代替輸送・航空シフト発生年
出所)財務省貿易統計より作成
対前年比・伸び率の推移
:両品目とも2021年は2桁台のプラスに転換
自動車部品については、金額ベースでは2019年から2020年にかけて2年連続の2桁減となりましたが、2021年は78.6%増と大幅増に転じています。重量ベースでみてもほぼ同様の推移になっており、2019年・2020年は2桁減が続き、とくに2019年は半減超のマイナスとなりましたが、2021年は一転8割台の大幅増に。海上輸送の混乱・供給不足や港湾混雑の悪化により、航空による緊急代替輸送需要が高まり、北米向けを中心に海上コンテナ輸送からのシフトが進んだことが伺えます。
半導体製造装置については、金額ベースでは2020年(0.5%減)を除いて増加基調を維持しており、2021年には3割超のプラスに転換。重量ベースでも2021年は4割近くの大幅増に転じています。伸び率回復・拡大の背景・要因としては、AI・IoT・5Gの普及本格化やDXの進展、経済安全保障の観点からの半導体の重要性の高まりがあげられます。
対コロナ前(2019年)の輸出金額・貨物量水準
:両品目ともコロナ前(2019年)の水準を上回り、1.3倍に拡大
自動車部品については、2021年の輸出金額は3年ぶりに1000億円台に回復し、コロナ前(2019年)の水準の1.3倍に拡大しています。貨物量水準(重量ベース)も同様の推移となっており、2021年に3年ぶりに4万トンを超え、コロナ前(2019年)の水準の1.3倍に拡大しています。
半導体製造装置については、2021年の輸出金額は1兆6000億円台に拡大、過去最高水準となり、コロナ前(2019年)の水準と比較すると、1.3倍に増加しています。貨物量水準(重量ベース)でみても、2021年の輸出貨物量は4万6千トン台に拡大、やはり過去最高水準となり、対コロナ前(2019年度)比で1.3倍に増加しています。
このように、両品目とも2021年に輸出金額・貨物量が大幅に回復・拡大しており、コロナ前(2019年)の水準を約30%上回っています。
なお、両品目の輸出金額・貨物量水準を比較すると、半導体製造装置は金額ベースで自動車部品の15~30倍の水準で推移しており、貨物量(重量ベース)では2019年に自動車部品を逆転、上回るようになっています。
図表3:対前年比・コロナ前(2019年)水準の推移(2015年~2021年)
注)黄色は自動車部品の航空による緊急代替輸送・航空シフト発生年
出所)財務省貿易統計より作成
2022年における対前年同月比(増減率)の月別推移
:自動車部品は海運からのシフトの反動減が本格化、半導体製造装置は堅調
2022年における対前年同月比の推移をみると、自動車部品は重量ベースで2桁台のマイナスが続いています。北米向けを中心に海上輸送混乱・港湾混雑が緩和・改善したことに伴い、航空輸送にシフトしていた貨物の海運回帰が進み、前年におけるコロナ禍からの回復・航空シフトの反動減が本格化・継続しています。
半導体製造装置については、重量ベースでは前年に比べて伸び率は鈍化しているものの、2桁台の増加を維持しており、半導体関連の中長期的需要に支えられて、引き続き堅調に推移しています。
図表4-1:2022年における対前年同月比(増減率)の月別推移
出所)財務省貿易統計より作成
2022年における輸出航空貨物に占めるシェア・航空分担率の月別推移
:両品目で傾向・明暗が分かれ、足元では違いが鮮明に
上記の荷動き(増減率)を反映して、自動車部品の航空貨物に占めるシェアや航空分担率も、足元では低下傾向が強まっています。重量ベースでみると、航空貨物に占めるシェアは7月以降1%台半ばに、航空分担率も7月以降1%未満に低下しています。
半導体製造装置については、航空貨物に占めるシェアは重量ベースで4~5%台、金額ベースで7%台に上昇。航空分担率は7月以降やや落ち着きがみられるものの、重量ベースでは30%台後半、金額ベースでは60%台後半の水準を維持しています。
このように2022年の月別推移をみると、両品目で傾向・明暗が分かれ、足元では違いが鮮明になっています。
図表4-2:2022年における輸出航空貨物に占めるシェア・航空分担率の月別推移
出所)財務省貿易統計より作成
(この記事は2022年10月14日の状況をもとに書かれました。)
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