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フランス・パリのモビリティと都市物流事情

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シニア・コンサルタント

綿貫 麻衣香

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サステナブルな社会の実現のため、モビリティの考え方は広がりを見せています。東京中心部でも、シェアサイクルや電動キックボード等、新たな移動手段を見かけるようになりました。また、コロナ禍のEC荷物の増加により都市部ではラストマイル配送もひっ迫し、環境にやさしい手段で効率的にどう配送するかで、物流事業者やEC事業者は四苦八苦しています。海外のモビリティは一体どんな状況なのだろうということで、観光ついでに見てみたフランス・パリのモビリティ、都市物流の状況についてレポートしたいと思います。

フランス、パリの運輸分野の政策

まず簡単に、フランス政府が打ち出しているモビリティ関連、都市物流に関する方針を簡単に見てみましょう。2019年12月に施行された「モビリティ指針法(LOM)」は、運輸部門のCO2排出量を低減することで、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを最終目標に掲げ、今後5年で134億ユーロの投資を実施すると決定しました。既存の公共交通手段の強化に加え、新しいモビリティーサービスを導入しオープンデータ化することで、フランス国民の移動を保障するとしています1。自動車セクターに関しては、化石燃料(ディーゼル、ガソリン、天然ガス)を使用する自動車の販売を2040年に禁止する条項が定められています2。また、パリ市では、2030年までにガソリン・ディーゼル車の市内への乗り入れを全面禁止すると計画した3のも、同法施策の一環でしょう。

また、新型コロナ感染拡大でロックダウンを実施したパリですが、ロックダウン解除後は「グリーン・リカバリー4」として官民挙げて移動サービスの回復に取り組み、新しい街に生まれ変わりつつある状況です。なお、グリーン・リカバリーとは、新型コロナウイルス感染拡大からの経済復興にあたり、環境に配慮した回復を目指す景気刺激策のことを指します5

では、現在のパリを、(1)パーソナルモビリティ、(2)宅配モビリティ、(3)河川物流に分けてご報告します。

(1)パーソナルモビリティ

現在のパリは、シェアバイク(自転車)、シェア電動スクーターが溢れています(写真1)。2020年5月のロックダウン解除直後から、密を回避するためにバスの増便、自転車専用レーンの拡充(市内新設50km)、歩行者空間の拡充などの復興プランが次々に実施され6、公共交通手段利用、シャアリングが市民に浸透してきている様子が見られました。また、見かけた回数は少ないですが電動一輪車も車道を走っています。そして、シェア自転車(通常・電動)、スクーターは乗り降りできるスポットがパリ市内のいたるところにあります。また、ちょっとしたスペースにスクーターや個人所有の自転車を気軽の駐輪できるスペースが多数設置されています(写真2)。これら自転車やスクーターの乗り降りスポットや、使える自転車の情報は、アプリから簡単に検索することができます7(図1)。

写真1:シェアバイク(自転車)Velibの乗り降り場

写真1:シェアバイク(自転車)Velibの乗り降り場

写真2:シェア電動スクーター(LIME、TIER)と街中の駐輪スポット

写真2:シェア電動スクーター(LIME、TIER)と街中の駐輪スポット

図1:シェア自転車Velibサービスのアプリ

また、自転車専用レーンの多さには驚きました。時には自動車専用よりも多くのスペースが、自転車やスクーター専用レーンとして整備されています。明らかに以前は自動車用道路だったことが見て取れる自転車専用レーンが多数みられました(写真3、4)。中には、コロナ禍で自転車利用が高まった際に暫定的に整備され、今は自転車専用として定着したポップアップレーンと呼ばれる専用レーンもあるようです。以前のパリは多くの国同様に自動車が移動手段の中心でしたが、ロックダウン解除後、パリ市長は「グリーン・リカバリー」として、自動車需要が回復する直前の空いている時期に一気に政策を実行し、モビリティ転換を実現したとのこと。何年もかけて転換するのでなく、一気に推進するという思いっきりの良さは、カーボンニュートラルへの取組の本気度を感じます。

写真3、4:自転車専用レーン

シェアバイクやシェア電動スクーターの利用者は、明らかに通勤と思われる市民が数多く見られました。観光客ももちろん使えますが、猛スピードで運転している市民に交じっての利用はかなり怖いです。また、ルールがあるようなないような感じなので、観光客は安心して走行できるレーンを選ぶ必要がありそうでした。
他にはEV車用の充電スポット(写真5)も見かけました。2030年のガソリン車乗り入れ全面禁止が迫る中、EV車対応が進んでいます。たった1台分の充電機器ですが、街中にあればEV車を利用するドライバーの利便性が高まり、EV車へ切り替える後押しにもなりそうです。

写真5:EV車の充電スポット

街中に突然1台分の充電スポットが現れる。

(2)宅配モビリティ―ラストマイル配送

東京都心では自転車による配送は見かける光景ですが、パリでも自転車による配送を頻繁に見かけ、一般的なラストマイル配送の手段になっているようでした。日本よりも多様な車両があったので紹介します(写真6)。

写真6:様々な種類のカーゴバイク

写真6:様々な種類のカーゴバイク

いずれもCO2を排出しない手段として導入されているカーゴバイク(自転車)配送です。自転車専用レーンがない場合は、カーゴバイクは自動車用レーンを自動車に混ざって走行しています。何を運んでいるのかまでは分からなかったのですが、宅配業者はもちろん、郵便局、スーパーマーケット、等のラストマイル配送のようでした。このような自転車で配送しているということは、自転車で配送カバーできる範囲内にマイクロデポ(クロスドックターミナルから荷物が転送されるミニ配送センター)があるということになります。しかし、マイクロデポがどこにあるのか特定できませんでした。賃料の高いパリにおいてデポの賃料はやはり障壁となるようで、マイクロデポの経済性を分析した研究もあります9。区画の密度等、一定の条件が揃う場合にのみ、カーゴバイクでの配送は採算がとれるようです。

また、その他のラストマイルの手段としては宅配ロッカーも見かけました(写真7)。商業施設の中にアマゾンのロッカーがあり、日本同様にラストマイル配送に関して多様な工夫がなされています。

写真7:ショッピングセンター内に設置されている
アマゾンの宅配ロッカーAmazon HUB

(3)河川物流

パリ市の中心を流れるセーヌ川は、河川物流で活用されています。パリ中心部にもいくつも「港」があることが、以下の図から分かります(図2)が、実際には港でなく荷下ろしができる沿岸、といったところです。コンテナターミナルが1か所ありますが、小さなリーチスタッカー(クレーン)(写真8)で荷役ができるただのスペース(写真9)、という感じでした。荷役時には柵を張って、歩行者は入れなくなるようです(写真10)。ただ、何も作業がない時間帯は、一般人が散歩できるセーヌ川沿いの歩道の一部となっています。この港を利用し、2012年からfranprixというスーパーが河川を利用したコンテナ輸送を実施しています。筆者が訪れた時は荷役はしていませんでしたが、船にそのスーパーのコンテナが積載されている船が停泊しており、市内へ/からとfranprix店舗間のラストマイル輸送を行うトラックが停車していました(写真11)。実はこのターミナルは、写真11から分かるように、エッフェル塔から至近距離にあります。市民生活や観光地の普通の場所にターミナルがあること、この程度の設備で河川輸送インフラとして使えるのかと、とても驚きました。

図2:パリ市内の港の位置

出所:HAROPA Ports of Paris 資料(2018)10 から抜粋

写真8:荷役に使用するリーチスタッカー・写真9:PORT DE LA BOURDONNAIS

写真10:荷役中の様子

出所:HAROPA Ports of Paris 資料(2018)から抜粋

写真11:対岸から見たコンテナターミナル

左側にコンテナを積んだトラックが多数停車

また、パリ市内の東側に行ってみると、バージ船が着岸できる港があります。バルク貨物を取扱っている港でした。歩行者は入れないエリアになっていましたが、川沿いの比較的狭いスペースを利用して荷役が行われていました(写真12)。セーヌ川の河川物流では他にも自動車等の輸送がセルフ荷役可能な船で行われているそうで、狭いスペースかつ最小限の機材で荷下ろしできる工夫がなされているようです。また、廃棄物の輸送も行われています。CO2排出が少なく道路渋滞も関係ない河川物流は、様々な用途で利活用が進んでいることが分かります。

写真12:PORT DE TOLBIAC(共用公共ふ頭)

バージ船からバルク貨物を荷下ろしする様子。
並木の奥は道路を挟んで住宅街でした。

サーキュラーモビリティ

筆者は前回、サーキュラーエコノミーと物流について共有しましたが、欧州ではサーキュラーモビリティという考え方に発展しています。モビリティ・ロジスティクスをサーキュラーエコノミー実現の「手段」と捉えています。欧州投資銀行内に設置されたThe Circular Economy Centreは、サーキュラーモビリティを体現するケース・スタディをカタログとしてまとめていますが、「15分都市―コンパクトシティ」の代表例としてパリを挙げています11。徒歩、自転車、公共交通手段を使って、住民は15分以内に行きたい場所にたどり着ける、というアイディアです。このアイディアを都市デザインに盛りこんで、公共施設や交通機関、住宅、オフィス等の開発が進められているそうです。以前は自動車の駐車スペースであった場所が、15分都市デザインの開発によって用途転換され、都市の公害を低減、安全性の向上を目指しています。パーソナルモビリティ、配送モビリティの充実は、15分都市を形作る手段の一つと言えます。

まとめ

パリの例は、新たなモビリティーオプションと都市計画(コンパクトシティ)が一体的に進められている例です(例:シェアバイクやスクーターを導入するなら、専用レーン整備や駐輪場の確保をする)。そして、CO2排出量の削減と市民のモビリティ権利の保障を同時に達成する方法です。一方、パリが急進的にモビリティ施策を進めているのは事実ですが、現実はまだまだ自動車中心であることは否めません。朝晩のラッシュ時、自動車渋滞に自転車やスクーター、ラストマイル配送が入り混じるカオスは、そう簡単には解決できないように見えます。ただし、急速に都市の変換を進める姿勢は、見習うべきものがあると思います(2024年のパリ五輪を意識して変換を急いでいるのかもしれませんが…)。

日本では、新たなモビリティーオプションが登場しても、それをサポートするための都市計画が追い付いていないように見えます。シェア自転車やスクーターが既に登場しているのに、自転車専用レーンは少ないですし、利用者である私たちも、自転車専用レーンを歩行したり逆走したり、自転車専用レーンをよく理解して使っているとは言い難いと思います。

しかし、都市計画側に動きが出てきたようです。東京都ではコロナ禍の経験から、自転車を新しい日常に対応した手段と位置付け、2040 年代までに自転車通行空間(専用レーンとは限らない)約 1,800km(都道)の整備を目指すことを表明しました12。都市計画がこれから追いつくことで、自転車や電動キックボードによるパーソナルモビリティ、宅配モビリティが促進されるかもしれません。静岡県の実験都市「ウーブン・シティ」のような都市開発のように、日本で新たなモビリティを普及させるには都市との一体開発なしには社会にモビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)は根付かないように思います。都市の一部を少しずつ改善させるというよりも、思い切った用地転換等の施策が導入されないと、日本は「移動(モビリティ)」困難な都市だらけになってしまいかねない、と感じたフランス訪問でした。

写真の出所表記がないものは全て筆者撮影
(この記事は2022年9月25日の情報をもとに書かれました。)

  1. https://newspicks.com/news/5045374/body/
  2. https://ecocar-policy.jp/article/202001015/
  3. https://businesschief.eu/technology/paris-ban-all-petrol-vehicles-2030-all-diesel-vehicles-2024
  4. https://newspicks.com/news/5027223/body
  5. https://ideasforgood.jp/glossary/green-recovery/
  6. https://newspicks.com/news/5027223/body
  7. https://apps.apple.com/us/app/v%C3%A9lib-app-officielle/id577807727
  8. https://velab.pro/
  9. “Delivering Paris by Cargo Bikes: Ecological Commitment or Economically Feasible? The Case of a Parcel Service Company – TRB 2022” (Robichet, Niérat, and Combes, January 2022)より
  10. “Urban Logistics by Waterways” (HAROPA Ports of Paris, 2018) より
  11. “A CATALOGUE OF CIRCULAR CITY ACTIONS AND SOLUTIONS- DRAFT May 2022”. European Investment Bank.
  12. 「東京都⾃転⾞通⾏空間整備推進計画」(東京都、2021年5月)

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