トラック運賃のトレンドをいち早くキャッチしよう!【労働力編】
物流に関係する企業や部署にとっては、労働力不足に起因するドライバー不足から、今後も継続した高騰が予想されるトラック運賃への対策は、避けて通ることができない課題です。新型コロナで荷動きが停滞した時期には、値上げ基調は多少緩和された期間もありました。しかしながら、荷動きの回復に合わせて、労働力不足の問題は一層厳しさを増しており、それに伴う運賃高騰は、もはや必然といえます。
荷主企業としては、運送事業者からの値上げ要請に対する対応力の強化が必要となります。一方、運送事業者としては、荷主企業への値上げの必要性を論理的に伝える説明力が問われます。その要請や必要性が自助努力の限界を超えており、外部環境変化を踏まえたとして、妥当性なものであるのか否かを判断する力を併せ持つ必要があります。
本ブログではドライバーの運賃に限定した内容で、運賃へ影響を及ぼす要因の構造化や値上げ・値下げ動向をいち早くキャッチするための情報源や数値の見方を紹介します。
運賃交渉の判断材料を構造化する!
図表1は、運賃の決定に際して影響をあたえる構成要素と関係性を構造化したものになります。一般的に、運賃は荷動きが増えることで荷物を運ぶドライバーが必要となり、ドライバーを確保するための求人が増えるため人件費が上がります。この場合、運送事業者は、人件費上昇分の負担を解消するため(赤字とならないためや赤字の幅を縮小するため)に、運賃を値上げせざるを得ない傾向にあります。
運賃の決定には多岐に渡る影響因子があるため、このような関係性が必ずしもきれいに成り立つわけではありませんが、理論上は何らかの影響や関係性があるといえます。そのため、運賃動向に関するひとつの判断材料として利用することができます。今回は、トラック運賃のトレンドを労働力面から把握する情報として、図表1の赤枠の情報について、情報源の取得先やそれらが運賃へ与える影響について解説したいと思います。
図表1.運賃交渉の判断材料と構造化
年齢構成から運賃トレンドをキャッチする!
年齢構成に関する情報は、政府統計の総合サイトであるe-Stat(イースタット)から取得することができます。e-Statのポータル画面には様々な情報があり、慣れない方には希望する情報源まで辿り着くことが困難なことがあります。以下のURLをクリックすると労働力人口の表示画面まで飛ぶことができます。表示された画面から条件を指定することで目的の情報を取得することができます。道路貨物運送業における時系列の年齢構成を確認してみたいと思います。EXCELのピポッドやACCESSのクロス集計と同じ要領で集計を行うことが可能です。
図表2の画面が表示されたら「レイアウト編集」を選択して、レイアウトの設定を行います。今回は、産業分類をフィルターで選択(ページ上部)して、行(縦軸)に年齢階級、列(横軸)に時間軸(月次)を選択します。また、時間軸が直近の年月まで表示されるように、1画面に表示する列数を少し多めに「500」と選択します。「設定して表示を更新」を行うと、年齢等級別の人口が時系列に表示されます。最後に産業別分類から「道路貨物運送業」で絞り込みを行います。
表示された画面をコピー&ペーストでEXCELに貼り付け、少し加工を行うことで、図表3のような道路貨物運送業の年齢階級の就業者構成の月次推移のグラフを作成することができます。これを見ると緑色の15歳~39歳の人口は一定して減少を続け、40歳以上の構成比が年々増加していることが分かります。トラックドライバーの高齢化の状況が数値として把握できました。若年層が年々減少しているということは、将来的に運賃がどのような方向へ向かうのかも予想できるのはないでしょうか?
図表2.道路貨物運送業の時系列の年齢構成の確認方法
図表3.道路貨物運送業の年齢階級の就業者構成の月次推移
荷動き指数から運賃トレンドをキャッチする!
残念ならが、荷動き指数をご存じない方は多いと思います。残念ながらと申し上げたのは、荷動き指数は、NX総合研究所(NX総研)が四半期毎に行っている企業物流短期動向調査(NX総研短観)の中で、国内向け出荷量の動向や輸出入貨物量の動向を示したものをいうためです。もしご存じない方が多いのであれば、多くの方に知っていただけるように一層努力致します!
荷動き指数(動向判断指標)とは、「増加すると回答した事業所割合」-「減少すると回答した事業所割合」で算出され、国内や輸出入における荷動きの傾向を把握することができます。あくまで一般的な考え方となりますが、荷動きが鈍化するとドライバーが確保しやすくなり運賃も安価となる傾向にあり、逆に荷動きが活性化するとドライバーの確保が難しくなり運賃も高騰する傾向になります。
図表4はNX総研の企業物流短期動向調査(NX総研短観)調査結果(抜粋)2021年12月調査の抜粋です。内容を確認すると、2022年1月~3月の見通しとして「荷動きが増えそうだ」と回答した事業所の割合が高いことが分かります。今後も荷動きが活性化すると予想する事業所が多いことから、この状況がドライバーの確保や運賃へどのような影響が生じそうか、みなさまのそれぞれの立ち位置で注意した方が良さそうです。
図表4.荷動きの実績(見込み)と見通しの『荷動き指数』
出典)NX総合研究所ホームページの研究レポートサイト
有効求人倍率や新規求人倍率から運賃トレンドをキャッチする!
有効求人倍率と似たような言葉で、新規求人倍率があります。新規求人倍率は、その月に申し込まれ求職者数と受け付けられた求人数を用いて算出しています。一方で、有効求人倍率は、前月からの繰り越された求職者数と求人数に、新規求人倍率分の求職者数と求人数を加算しています。そのため、直近のトレンドを把握したい場合は、新規求人倍率の方が適しており、長期的なトレンドを把握したい場合は有効求人倍率の方が適しているといえます。
有効求人倍率の取得には、先ほど構成年齢を把握するために労働力人口の調査で使用した、政府統計の総合サイトであるe-Statを使います。一般職業紹介状況(職業安定業務統計)の職業別労働市場関係指標(実数)から取得することができます。トップページのキーワード検索で「職業別労働市場関係指標」と入力すると対象のEXCELがダウンロードできます。ただし、職業別の分類が「自動車運転の職業」となっており、必ずしも貨物運送に従事するドライバーというわけではありませんので、その点は注意が必要です。
図表5はダウンロードしたEXCELデータを使い、自動車運転の職業の新規求人倍率を作成したものです。2022年1月の新規求人倍率は2.90倍であり、2021年12月の3.68倍と比べるとかなり低下しています。ただし、2020年4月の緊急事態宣言の落ち込み以降は、徐々にドライバーの新規求人倍率が高まっており、その傾向は今後も継続するといえそうです。
図表5.自動車運転の職業の新規求人倍率
まとめ
本ブログでは、トラック運賃のトレンドをいち早くキャッチしよう!【労働力編】として、労働力に関する数値である「従業者の構成年齢」、「荷動き指数」、「有効求人倍率(新規求人倍率)」について解説しました。この中でも有効求人倍率や新規求人倍率は、月次で情報が開示されており、直近のドライバーの賃金や最終的な運賃へも影響を与える可能性のある要因といえます。
今回は紹介できませんでしたが、トラック運送事業者の2大原価である人件費と燃料費といった情報は、賃金センサスや東京都トラック協会のHPに掲載されています。トラック事業者の原価や業績については全日本トラック協会の経営分析報告書から把握することができます。
実際の運賃動向としては、スポット運賃動向が分かる「WebKIT」という求貨求車の仕組みがあります。これは、基準年(平成22年4月)に対する成約運賃の増減を開示しておりスポット運賃動向を把握するのに役立ちます。
有償とはなりますが、物流の専門誌であるLOGI-BIZを発行しているライノスパブリケーションズ社が、2年に1回ではありますがトラック実勢運賃調査データを販売しています。ベスロジドットコムという独自のアルゴリズムで運賃計算して、見積もり時の参考として利用したり、契約している運賃の相場感を判断したりすることができるサイトもあります。
これらについては、次の機会に紹介させていただく予定です。冒頭にもお伝えしたとおり、荷主企業としては、物流事業者からの値上げ要請に対する対応力の強化、物流事業者としては、荷主企業への値上げの必要性を論理的に伝える説明力が問われます。この機会に運賃を取り巻く環境を客観的に捉えた上で、みなさまの立ち位置に応じた対応力の強化にお役立ていただければ幸いです。
(この記事は2022年3月27日の情報をもとに書かれました。)
掲載記事・サービスに関するお問い合わせは
お問い合わせフォームよりご連絡ください
井上 浩志が書いた記事
-
ブログ / 1,355 views失敗しない物流情報システム導入のポイント! (序章)
情報システムの開発や導入に関わるトラブルを回避するためにはポイントを押えた上流工程が欠かせません。特に上流工程といわれる要件定義と基本設計は、現状の正しい理解と…
-
ブログ / 9,665 viewsトラック運賃のトレンドをいち早くキャッチしよう!【原価・実勢運賃編】
荷主企業や運送事業者は、運賃に影響を与える要因の動向をいち早く客観的に捉えることが求められます。双方の立ち位置における運賃変動への対応力の強化を目指したブログ、…
-
ブログ / 1,981 views
この記事の関連タグ
関連する記事
-
ブログ / 123 views(物流2024年問題)ラストワンマイルデリバリー改革に向けたスモールスタート
「物流の2024年問題」を端に発し、政府、各物流関連団体などが連携した継続的な情報発信により露出も増え、物流事業者以外の企業、また、物流サービスのユーザーである…
-
-