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自由貿易地域(Free Trade Area)のもとで通関手続きはどう変わる?

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リサーチフェロー

田阪 幹雄

日通総研ニュースレター ろじたす 第11回ー②(2016年3月22日号)

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【News Pickup】自由貿易地域(Free Trade Area)のもとで通関手続きはどう変わる?

4回シリーズで解説する TPP で日本は、物流は、どう変わる!? ②

本年2月4日ニュージーランド北部の都市オークランドに、TPPに参加する12カ国の閣僚が集まり、協定に署名しました。
今回はTPPが物流に与える影響について、国際間物流に最も大きく関連すると思われる第5章「税関当局及び貿易円滑化」の内容をもとに解説いたします。

TPPの第1章第A節第1.1条は、「締約国は、(中略)ここに協定の規定に基づいて自由貿易地域(Free Trade Area)を設定する」(出所:内閣官房TPP政府対策本部HP)と高らかに謳っています。この「自由貿易」という言葉を聞いて、欧州共同体(EU)のようなヒトやモノが自由に出入りできる統一市場が出現する、と考えた方がひょっとするといるかも知れません。実は、1994年に北米自由貿易協定(NAFTA)が発効する前にも、昨年末にASEAN共同体(AEC)が発足する前にも、欧州共同体のような統一市場が出現すると考えた方がかなりいたのです。

しかし、TPPが発効してもEUのような自由市場は出現しません。域内関税率については、「協定発効と同時に即時撤廃されて0%になる場合」、「一定の年月を経て0%になる場合」、「数年にわたり段階的に関税率を下げていき、最終的には0%になる場合」等色々ですが、大きな流れとしては関税撤廃の方向付けが明確になったといえるでしょう。

一方、締約各国における通関手続きは、TPPがEUのような関税同盟でない以上存在し続けます。第5章第5.1条は以下の通り述べています:

Each party shall ensure that its customs procedures are applied in a manner that is predictable, consistent and transparent.

この条文の主旨は、どのような場合に通関が許可され、どのような場合に許可されないのか、誰でも明確且つ具体的に分かるよう、首尾一貫した整合性のある通関制度の確立を目指していこう、ということでしょう。

以降の12カ条にわたる具体的な条文の中で、物流にとって最も重要なのは、①第5.3条「事前教示」、②第5.6条「自動化」、③第5.10条「物品の引取り」の3カ条でしょう。「事前教示」とは関税分類や原産地規則等に関する様々な質問に、事前に税関が答える(教示する)制度のこと、「自動化」とはIT技術により申告から許可までの通関手続きのスピードアップを図ること、「物品の引取り」とは「自動化」による通関のスピードアップ等により輸入者への貨物の引き渡しのリードタイムを短縮することです。特に、「事前教示」については、「要請を受領した後150日以内に事前の教示を行う」、また「物品の引取り」については、「貨物の引き渡しを48時間以内に行う」という具体的目標数値も示されています。

新興国に進出した日本企業からは、「税関に対して質問しようとしても受け付けてもらえない」、「質問しても全く回答が返ってこない」、「輸入通関が許可されるまで何日かかるのか分からない」、「貨物がいつ引き取れるのか分からない」といった生の声をよく耳にしますので、これらの目標が達成できれば、国際間物流の最も大きなボトルネックのひとつが解消され、物流が活性化し、日本産品の各締約国市場へのアクセスも飛躍的に向上するのではないかと期待したくなります。

一方、現状はどうなっているのかを表で見てみましょう。

表:Logistics Performance Index 2014

表:Logistics Performance Index 2014
出所:World Bank

これは、世界銀行が毎年発表しているLPI=Logistics Performance Indicatorsにもとづく世界160カ国の物流実力ランキングです。紙面の関係上詳細な説明は省略しますが、LPIとは世界銀行独自の指標で、このTPP第5章に関わるCustomsのスコアを見ると、TPP締約(予定)国は第3位から第96位まで、また総合評価であるLPIを見ると第5位から第71位まで、それぞれ幅広く分布しています。

つまり、米国や日本のように目標数値をすでにほぼ達成している国と、達成にはほど遠い新興国の間には、相当大きな較差があるということです。
それでは、TPPが発効すればこの較差が解消されるのかというと、そう簡単には行きそうもありません。

第5章には、努力するという意味の「endeavour」という用語が9回、できる限りという意味の「to the extent possible」、「as possible」等の句が7回出てきます。
つまり、この第5章全体が締約(予定)国間の較差を踏まえた努力目標であり、その実行は長い目で見守る必要があるということでしょう。


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