世界が注目するアジアのペリッシャブルズ需要
日通総研ニュースレター ろじたす 第6回ー②(2015年10月19日号 )
【News Pickup】世界が注目するアジアのペリッシャブルズ需要
世界各国から参加者が集まった「クール・ロジスティクス・カンファレンス」in アジア
9月2日に香港のランタオ島にあるアジア・ワールド・エキスポで、「クール・ロジスティクス・アジア・カンファレンス」が開催されました。
「クール・ロジスティクス・カンファレンス」は、文字通り冷凍・冷蔵物流(コールドチェーン物流)に関する業界の方々が情報交換を行う会合で、今まで欧州で6回開催されております。
今回は分科会のような形ですがアジアで初めて開催され、世界各国から約120名が参加、ほぼ丸1日かけて複数のトピックについて討議を行いました。
当社も取材のため参加してきましたので、その様子をレポートしたいと思います。
◆1.コールドチェーン物流のカンファレンス開催
参加者の方々と空き時間を利用して情報交換を行いましたが、来場者の中には、遠くは南米ペルーから来たコールドチェーン物流会社の社長さんがいて、ビックリしました。
筆者は最近アジアでのロジスティクス関連のカンファレンスによく出ていますが、やはりアジアをキー市場と見ているようで、皆さん遠路はるばるやって来ています。
すぐ横の展示ホールでは「アジア・フルーツ・ロジスティカ」と呼ばれるフルーツビジネスの展示会・商談会が開催されていました。
写真 1:香港のアジア・ワールド・エキスポ
写真 2:カンファレンス会場
こちらは主に生産者や国・地域(例えばニュージーランドの生鮮食料品をアピールするブース)が出展しており、物流関連のプレーヤーは少なかったのですが、会場は大勢の人で活気に満ち溢れていました。
試食も多数出ていましたが、筆者はあまり時間がなく、食べることができませんでした(泣)。
写真 3:アジア・フルーツ・ロジスティカ
展示会場の様子
◆2.市場はアジア
コールドチェーンといえば、メインの貨物は食料品です。温度管理が必要な化学品や医療品、電子部品などもありますが、やはり物量が多いのは食料品です。
フルーツに限らず、肉、野菜、魚などは「ペリッシャブルズ(Perishables、生鮮などの食料品)」と総称され、2014年のデータでは1億2100万トンが全世界(海運のみ)で運ばれています(Seabury社プレゼン資料より)。
この数値は2000年からほぼ2倍に拡大しており、新興国の経済成長のおかげでペリッシャブルズの需要が大きく伸びたことや、リーファーコンテナ(冷凍・冷蔵用のコンテナ)などの技術が発展したことで、大量長距離輸送ができるようになったことなどが要因として挙げられます。
ちなみに2014年の輸送量1億2100万トンのうち、67%がリーファーコンテナを使用しており、食料品の輸送でもコンテナ化が進んでいます(2000年は47%)。
全世界の生産者が市場として目を向けているのはアジア、中でも特に中国です。これは当然のことで、食料品は人の口に入る物ですから、人口がどれだけいるかがマーケットのサイズになってきます。会場でよく聞かれたのは、「中国市場の伸び率は落ちついてきてはいるが、マーケットの規模はまだまだ大きいので、やはり一番重要な市場である」ということでした。
なお、中国はペリッシャブルズの最大の輸入国であり、かつ輸出国でもあります。
中国に次いで世界第二の人口を擁するのはインドですが、インドは今のところ中国のような「輸入者」というよりは「輸出者」としての注目度が高く、今後インド産のペリッシャブルズ輸出が増えると予測されていました。
ただし、インドの業者に話をきくと、コールドチェーン物流のインフラの未整備、生鮮食料品等の取扱いスタンダードと標準作業手順(SOP)の不備など、インド市場では依然課題が多いことが指摘されていました。残念ながら生産地および輸送中に、ペリッシャブルズの30%がダメージを受けたり腐ったりなどして、廃棄されているとのことです。
大変もったいない話ですが、こうした部分を改善できると新しいビジネスの芽になるのかもしれません。
地域別輸送量としては、アジア域内が最大(中国とインドを含む)で、2015年の実績値で大きく伸びているのは「アジア域内」と「中南米からアジア向け」の2つとのこと(Seabury社プレゼン資料より)。ペルーからわざわざこのカンファレンスに参加しているのも納得です。
あるシンガポールの船社の方は、フィリピンのダバオからバナナを世界各国へ輸送していますが、やはりアジア域内へのビジネスが伸びており、以前は自社を含めて3社しかダバオに寄港していなかったが、最近ではそれが7社に増え、競争も激しくなったとコメントしていました。
余談ですが、バナナの輸送には基本的にリーファーコンテナを使用しますが、日本と韓国だけは受け手側の希望によりバルク船が使われるそうです。
なぜなのでしょうか?ご存知の方がいれば教えて下さい。
3.コールドチェーン物流は投資額が高い
2014年末時点で世界には242万TEUのリーファーコンテナがあり、2018年には305万TEUまで増えると予測されています(Seaco社プレゼン資料より)。
しかし、この伸び率はリーファーコンテナによる貿易量の予測伸び率(需要)を上回るとのことで、供給過剰にならないか少し心配です。
昨今の海運業界は、各社ともコンテナ船の大型化を進めており、しばらくは供給過剰の状態が続いて大変そうですから、個人的にはリーファーコンテナも同じ轍を踏まないことを祈ります…。
2014年の242万TEUのリーファーコンテナのうち、42%は船社ではなくリース会社が所有しています。また、2009年のリーマンショック以降、リース会社のコンテナ所有比率が増えています。
これはリーマンショックで貨物が急激に激減した際、キャッシュに大変苦しんだ船社が、キャッシュフローを重視して採ったリスク回避戦略の一つです。
リーファーコンテナを含めコールドチェーン物流は、ドライと比べて投資額が格段に高くなってしまうため、こういったファイナンスを上手く活用することも物流会社には求められます。
その他のトピックとしては、「欧州-中国間を海運ではなく鉄道で輸送(45ftのリーファーコンテナを使用)し、リードタイムを短縮する輸送サービス」や、「中国に進出したドイツのスーパーマーケットのコールドチェーン管理手法」、「中国国内に複数の冷蔵・冷凍倉庫を建設し、サービスを提供している物流会社」、「CA(Controlled Atmosphere)というリーファーコンテナに使われている各種技術や、IoT(Internet of Things、もののインターネット)、リーファーコンテナの位置・温湿度などをトラッキングする技術」などがあり、非常に盛りだくさんでした。
しかし、残念ながら誌面の制約上、これ以上の詳細情報はお伝えすることができません。
申し訳ありません。
コールドチェーン物流の技術とIoTに関しては、当社の物流技術エンジニアがテーマとして研究しておりますので、別の機会にお伝えできればと考えております。
今後とも注目される展示会やカンファレスには、出来る限り出席し、皆様に業界のホットな情報をお伝えしていきたいと思います。
写真 4:展示会場は生産者の展示が多く、ロジスティクス関連は船社が数社のみ
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