発展と停滞が混在する中国
日通総研ニュースレター ろじたす 第5回ー②(2015年9月24日号 )
【News Pickup】発展と停滞が混在する中国
天津市で起きた大爆発。中国を不安視する声も高まるなか、その安全性は!?
8月中旬、中国の天津市浜海新区で危険物を保管する倉庫が爆発し、114 人の死者と 700 人以上の負傷者のほか、多数の行方不明者が出るという大事故が発生しました。世界第 5 位の貨物取扱量を誇る天津国際港でこのような大惨事が起きたことにより、この地域に立地する企業及び物流にも非常に大きな影響が出ています。
メディアを通じてこうしたニュースを聞き、「危ないね、中国。出張は大丈夫でしたか。」と、筆者に声を掛けてくれる方が少なくありません。この事故を契機に、中国の安全と品質について、今一度振り返って考えてみました。
中国の経済規模は、日本の2倍強となり、アメリカに続く世界第2位の経済大国へと成長しております。経済成長率 2桁の時代が終焉し、この1月~6月の経済状況は、昨年同期に比較すると実質7%増に止まっています。また、輸出入ともに世界最大の貿易国になったものの、今年上期の海外貿易額は、約7%減となりました。今回の天津の事故は、このような状況のもとで、「危険化学品安全管理条例」などの法令を無視し、許認可を必要とする危険品倉庫業の運営を「人的な力」でくぐり抜けようとして大惨事となったものです。中国経済・社会に対する大きな不信感を抱かせるものになっております。
中国は、これまでの30年間の発展プロセスにおいて、その広大な国土の中で発展を遂げた部分と停滞したままの部分に分かれ、様々な矛盾を露呈してきました。このような状況も含め、紆余曲折しながらも、結果として中国の経済は全体的に上向きに伸びてきました。
それと同時に、生産市場と消費市場が併存する国として、中国港湾の国際貨物取扱量も急激に拡大し、上海港は、シンガポール港を抜いて世界最大のコンテナ港となりました。
また、深セン港も香港港を抜き、シンガポールに続き3位にランキングされました。どの港湾を見ても、60トン以上の重量物に対応できるガントリークレーンなどの荷役設備が整備され、充実しています。また、港湾の「作業品質」も、過去の状態から見ると、飛躍的な進歩を遂げています。
出典:CONTAINERISATION INTERNATIONAL YEARBOOK 1982
CONTAINERISATION INTERNATIONAL March 2014 より
国土交通省港湾局作成
とくに、筆者が最近見た香港港と競合関係にある、深センの蛇口港における港湾荷役作業品質には、目を見張るものがあります。熟練したオペレーターが巨大なガントリークレーンを使いこなし、一般コンテナのなかでもとりわけ困難な作業が必要となる貨物の吊り降ろしにおいても、衝撃は極めて小さく抑えられ、衝撃音がほとんど出ないほど丁寧に行われていました。また、一つ一つのコンテナ荷役の作業時間を明確にしており、効率的でかつ質のよい港湾サービスの提供に尽力する現場作業者と管理者が存在しています。港湾物流の「プロの心と技」に感心させられるようなオペレーションが実現されているのです。卓越した作業の「質」の良さで、荷主の心を掴んでいます。
このような技術を目の当たりにすると、数年前の中国のオペレーションから大きく進歩したとの感慨を抱かずにはいられません。しかしその一方で、中国では今回の天津の事故から伺えるような、質の低い安全管理や日常作業が行われているという実態もあり、発展と停滞が混在している状況と言えるでしょう。
写真:蛇口港のガントリークレーン
最近、上海市場での株式の大幅続落から、中国経済の減速懸念が世界的に広がり、欧米市場、日本市場等も全面安の展開となっています。中国の経済事情が世界経済に与える衝撃が極めて大きいということを、今回改めて痛感させられました。
そしていくつもの転機を乗り越えながらも、確実に実力を付けていく中国の経済や社会、物流の状況に、引き続き注目していく必要があります。
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