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TPPにおけるExpress Shipment / Express Delivery Serviceとは?

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リサーチフェロー

田阪 幹雄

日通総研ニュースレター ろじたす 第14回ー②(2016年6月20日号)

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【News Pickup】TPPにおけるExpress Shipment / Express Delivery Serviceとは?

4回シリーズで解説するTPPで日本は、物流は、どう変わる!? ④

前回は、農林水産物や工業製品といった品目毎の関税撤廃がTPPによりどのように実行され、それによりどのような影響が出るのかについて述べさせていただきました。
関税撤廃と聞くと、品目ごとに定められた関税率の撤廃を思い浮かべますが、TPPには品目の枠を超えた国際宅配便分野における関税撤廃も含まれておりますので、最終回ではその辺りに焦点を当てたいと思います。

TPPのChapter 5“Customs Administration and Trade Facilitation”のArticle 5.7に“Express Shipment”という条文、Chapter 10“Cross-Border Trade in Service”の Annex(附則)10-B に“Express Delivery Services”という条文、そしてTPPの本文ではありませんが、「非関税措置に関する日米間書簡」には“Express Delivery”という条文が、それぞれ設けられています。“Express”という共通の単語を含むこの3つの異なる条文のタイトルは、実は全く同じひとつの概念を示しているのですが、一般的に日本では「急送便」あるいは「急送便サービス」と訳されており、一体何を意味するのかよく解りません。
Chapter 5 Article 5.7の1.(d)に「通常の状況において、急送貨物が到着していることを条件として、必要な税関書類の提出の後、6時間以内に当該急送貨物の引取りの許可を行うことについて定める」(内閣府HPより転載)と定められているからだと思われますが、TPPに関する外部のセミナー等でも、「TPPでは、急送便という所謂お急ぎ便の輸入通関については、早く貨物がリリースされる措置を取ることになっています」というような訳の解らない説明を聞くことがあります。

それでは、このExpress Shipment/Express Delivery Service/Express Deliveryとは本当は何なのか?
実はその定義が、Chapter10のAnnex(附則)10-Bに以下の通り記載されています:

For the purposes of this Annex,express delivery services means the collection, transport and delivery of documents, printed matter, parcels, goods or other items, on an expedited basis,while tracking and maintaining control of these items throughout the supply of the service.

この条文を見て、米国の物流や通販に詳しい方はお気づきになったと思いますが、この定義は米国における宅配便の定義とほぼ一致しています。すなわち、TPPにおけるExpress Shipment/Express Delivery Service /Express Deliveryとは、国際宅配便とほぼ同義なのです。

この国際宅配便とほぼ同義のExpress Shipmentに対してChapter 5 Article 5.7の1.(f)は、以下の通り各国の法令で「一定の免税額」を設けるよう規定しています:

provide that, under normal circumstances, no customs duties will be assessed on express shipments valued at or below a fixed amount set under the Party’s law.

米国の“The Trade Facilitation and Trade Enforcement Act of 2015”に要注目

ここで注意しなければならないのは、上述の「一定の免税額」が現時点では決まっていないことであり、TPP発効以降に締約国間で交渉のうえ、決まるであろうということです。そして更に注目すべきなのは、昨年12月に米国下院を通過し、TPPの署名と相前後する本年2月初旬に米国上院を通過し、TPP署名の直後の本年2月24日にオバマ大統領が署名した“The Trade Facilitation and Trade Enforcement Act of 2015”という法律です。何故この法律に注目すべきなのかというと、同法のSec.601で米国への輸入における「一定の免税額」が、従来の一申告当たりUS$200からUS$800へと大幅に引き上げられたからです。

出所:米国連邦通商代表部HPより転載

一見、この免税額の大幅引き上げは米国にとってではなく、米国向けに自国の産品を輸出する他の締約国にとって有利な措置のように思われるかも知れません。しかし、上に示した米国通商代表部ホームページ上のバナーの通り、米国はTPPを米国産品の輸出や米国サービス産業の海外進出の好機と認識しており、他の締約国に対しても同様の措置を取るよう要求してくる可能性が高いと考えるべきでしょう。

US$800という金額は、国際宅配便一件当たりの申告価額の大半をカバーしてしまう金額であり、TPP締約各国がこれに近い免税額を設定した場合、越境ECと国際宅配便事業の成長にプラスの影響をもたらすことになると予想されます。

それだけではありません。TPPのChapter10のAnnex(附則)10-Bには、締約各国で独占的立場にある郵便事業者に、その地位を濫用させないための複数の条項が設けられています。例えば、日本の主要郵便局6カ所には税関の外郵出張所が設けられており、国際郵便物に対する極めて簡易かつ安価な通関サービスが提供されておりますが、国際宅配便事業者はそのようなサービスは享受できていません。しかし米国では、U.S.Postal Service(米国郵政公社)以外の民間の国際宅配便事業者であっても、ECCF=Express Consignment Carrier Facilityという免許を各地域税関長から取得することにより、安価で簡易かつスピーディな通関サービスを享受できるような仕組みがあるのです。TPP発効の暁には、締約各国でもこのような仕組みを設けるよう、米国が働きかけてくる可能性は十分あるでしょう。

そして、このような国際宅配便の免税額引き上げや通関の簡素化がTPP締約各国で実現した場合、米国の通販事業者・国際宅配便事業者(≒インテグレーター)の環太平洋地域での活躍の場が大きく拡大し、同地域の物流に大きなインパクトを与えるものと思われます。


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