米国の通商政策がグローバルロジスティクスに与える影響
2016年11月の大統領選挙勝利以来、毎日休むことなく発言し行動する米国のトランプ大統領ですが、その発言や行動の対象は通商政策・移民政策・銃器規制・安全保障・人種差別・性差別等々多岐に亘り、ちょっと聞いただけでは整合性もないように感じられ、方向性を把握することは困難でしょう。そこで今回は、トランプ政権の打ち出している政策の中から特に物流に関連の深い事項を抽出・整理して、以下に述べてみたいと思います。
米中貿易摩擦はグローバルトレード、グローバルロジスティクスにも影響
2018年7月より米国は、中国の知的財産権侵害に対する制裁として、中国からの輸入品に対して段階的に順次制裁関税を発動中です。9月中には「第3弾」(家具や家電など消費財を広く含む輸入品2千億ドル分)を発動しました。それに対して中国も、米国からの輸入品に報復関税を順次発動しています。
影響を受けるのは基本的に米中間トレードであり、それ以外のトレードには直接的な影響はありません。しかし、米国向け輸出産品を生産する中国内工場に部品・材料を供給している日本・欧州・アジアのメーカーはマイナスの影響を受ける可能性大でしょう。
また、中国企業の設備投資が弱ることが予想され、そうなると中国向けに設備機械を輸出している日本・欧米・アジアの機械メーカーにとっては大打撃となるでしょう。日本発中国向けの設備機械について見ると、輸出の減少が予想されるだけでなく、日本国内の機械メーカーの設備投資・生産ペースが低下し、それに伴い海外から日本への部品・部材類の輸入も鈍化していくことも考えられます。
2018年10月23日に日本工作機械工業会が発表した9月の日本発中国向け工作機械受注額(確報値)は、前年同月比22.0%減の189億円であり、7カ月連続で前年を下回ったことになります。これにより、今後日本発中国向け工作機械の輸出量が減少していくことは確実でしょう。欧米やアジアの機械生産国・地域でも、今後同じような現象が発生すると予想されます。
北米自由貿易協定(NAFTA)から米国・メキシコ・カナダ協定 (USMCA)へ
2018年8月27日に米国・メキシコ間の貿易に関する基本方針につき暫定合意が成立し、続いて同9月30日には米国・カナダも合意し、三ヶ国協定を維持した上での再交渉が妥結しました。「USMCA(the United States-Mexico-Canada Agreement=米国・メキシコ・カナダ協定)」と呼ばれる新貿易協定の主たるポイントは、主要品目である自動車及び自動車部品に焦点を当てて見ると凡そ下の表の通りです。
上表に基づきUSMCAの本質を読み取れば、1)従来欧州・日本・アジア等から米国・カナダ・メキシコの三国が輸入してきた自動車部品を減らし、同三ヶ国産部品を増やす、2)特に米国産部品を増やす、3)それら部品を組み込んで生産する完成車については、これまで急速な成長を見せてきたメキシコ生産を抑えて、米国生産を増やしていく、という三点に集約されるでしょう。
米国・欧州・日本の自動車メーカーは近年、全米自動車労組 (UAW) との摩擦を避け、労務問題リスクの低いメキシコでの生産を加速度的に伸ばし、それに伴って、メキシコに生産拠点をシフトする部品メーカーも、多く出て来ました。そのような状況にもとづき物流も、メキシコ国内・欧州・日本、そして米国から調達した部品で生産された完成車を、主として米国に輸出するという流れをベースに組み立てられてきましたが、早晩その流れが変わるかも知れません。
これまで日本や欧州からメキシコに供給されてきたエンジン・サスペンション・変速機等の重要部品についても、徐々に米国に生産拠点を移して行く必要が出てくる可能性が高いでしょう。そして、メキシコに生産拠点をシフトしてきた部品メーカーの中には、最悪の場合メキシコ生産から撤退する企業も出てくる可能性もあるでしょう。
但し、このUSMCAは関係参加国の議会承認を経て発効することを忘れてはいけません。少なくとも米国については、中間選挙前に事務手続きを終えて議会承認まで持ち込むことは不可能であり、選挙結果とその後の政局を見守る必要があるでしょう。
米国による自動車・同部品への追加関税措置の行方
米国商務省は、1962年通商拡大法232条に基づき、鉄鋼・アルミニウムに続いて自動車・同部品の輸入が米国の安全保障に及ぼす影響に関する調査を開始しています。調査の対象は自動車のほか、スポーツ用多目的車(SUV)、バン、小型トラック、自動車部品となっています。
調査結果の提出期限は2019年2月(調査開始日から270日以内)となっていますが、2018年11月の中間選挙を有利に進めるため、同選挙前に調査結果と追加関税措置の発動を発表する可能性もあると言われています。
この追加関税措置が発動された場合、欧州・アジア発米国向け自動車(完成車)および部品に25%の追加関税が掛かることになり、欧州・アジアに進出している米国メーカーを含む世界の自動車業界に大きな影響を与えることになります。
2018年7月にパブリックコメントや公聴会が実施され、自動車関連の業界団体や企業、各国政府など40以上の企業・団体が発言しましたが、全米自動車労働組合(UAW)以外の全ての発言者がこの調査開始に反対の意見を述べたと言われています。
日米物品貿易協定 (TAG) 交渉入り合意-日本製自動車・部品への追加関税保留
日米両政府は、以下の両政府の立場を尊重することを前提に、2018年9月26日、日米間のモノの貿易を自由化する物品貿易協定(TAG = Trade Agreement on Goods)の締結に向けた交渉を始めることで合意しました:
・日本は農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること。
・米国は自動車について、市場アクセスの交渉結果が自国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指すものであること。
先に述べた自動車および部品に対する25%の追加関税については、日本に関する限りTAG交渉中は発動が見送られることとなりました。この記事が公開される頃には、米国の中間選挙の結果も出ていると思いますので、上述の内容がその時点でのトランプ大統領の発言や行動を読み解く際の一助になれば幸いです。
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