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どうなる日本の物流?〜最終回 日本における物流人材の採用と育成の実態は?

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リサーチフェロー

田阪 幹雄

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これまで本シリーズ「どうなる日本の物流?」で述べて参りました通り、日本の物流は今後多くのハードルを越えて行かねばならないと、筆者は考えています。それらのハードルを越えて日本の物流が発展を遂げて行くためには、優れた人材を確保し育成して行くことが極めて重要と思われます。それでは、日本における物流人材の採用と育成の実態はどうなっているのでしょうか?

専門知識と語学力を重要視しない傾向

些か以前のことにはなりますが、2013年に流通経済大学は、流通・物流・ロジスティクスを学ぶ学生の就職活動と企業の人材採用活動を支援するための「物流人材マッチングプロジェクト」の一環として、流通・物流企業の大学新卒者の採用実態と人材ニーズに係る調査を実施しました。当該調査で行われたアンケートによると、採用を決定する上で重要視する知識や能力、取得資格に関する質問への回答結果は、凡そ以下の通りでした。

流通経済大学「物流人材マッチングプロジェクト」より日通総研作成

出所:流通経済大学「物流人材マッチングプロジェクト」より日通総研作成

当該調査の対象は関東地域に本社所在地のある物流業、流通業、物流関連ソフトウエアハウス等の本社事業所であったのですが、物流に関する専門知識を”重要視する”と回答した企業は8.6%に過ぎず、逆に”重要視しない”と回答した企業が約4分の1の25.7%に上りました。

語学力を”重要視する”企業が8.6%、”重要視しない”企業が35.7%というのも、今の時代では些か気になるところです。

一方、同アンケート中の求める人材像に関する別の質問に対しては、60.0%が「協調性、バランス感覚」、50%が「コミュニケーション」と回答しています。どうやら日本の物流関連企業は、専門知識や国際感覚を身に着けた人材よりも、素直で協調性が高く多少のことには折り合って行ける人材を採用したいと考えているようです。

人材採用に関するその他の調査を見ますと、この傾向は何も物流関連企業に限ったことではなく、日本の企業全般に共通する傾向のようです。

入社後の能力開発に力を入れているのか?

では、そのような人材を採用した企業は、その後それら人材の能力をどのように評価しているのでしょうか?

OECDの “Assessing and Anticipating Changing Skill Needs(2016)” をもとに厚生労働省が作成した「労働者の能力不足に直面している企業割合の国際比較」の概要は下記のグラフの通りです。

厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」_1

出所:厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」_1

ご覧の通り日本では、人材の能力不足に直面している企業の割合が、先進7ヶ国中ダントツに高いのです。

能力が不足している人材に対しては、能力開発を実施して行くということになるのですが、内閣府「国民経済計算」、JIP データベース、INTAN-Invest database を利用して学習院大学経済学部が推計したデータをもとに作成した「GDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費の割合の国際比較」は、下記のグラフのような結果をしめしています。

厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」_2

出所:厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」_2

即ち、日本のGDP に占める企業の能力開発費の割合は、米国・フランス・ドイツ・イタリア・英国等先進国と比較すると、これまたダントツに低い水準にあると言わざるを得ないのです。

まとめ

以上ご紹介した三つの調査は、異なる機関により異なる時期に異なる対照群について行われたものであり、それを一緒くたにして論ずるべきではないかも知れませんが、それでもある如実な傾向が見て取れます。日本の物流企業は、専門の知見やスキルを身に着けたエッジの立った人材ではなく、専門能力は乏しいが素直で協調性のある人材を採用しながら、それらの人材に対する十分な能力開発を行っていないのではなかろうか、ということです。

欧米の物流企業が大学・大学院でロジスティクスの専門的知見やスキルを身に着けた人材をどんどん採用し、IoT/AI 等を駆使し、物流のプラットフォーム化・標準化を推進しているこの時代、日本の物流企業は世界市場で生き残って行けるのか、今後も引き続き注視していく必要があるでしょう。

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