“特需”に沸いた太平洋線の航空貨物。その背景と、その時日本は!?
日通総研ニュースレター ろじたす 第3回ー③(2015年7月21日号 )
【Global Report】“特需”に沸いた太平洋線の航空貨物。その背景と、その時日本は!?
2015年1~3月期、太平洋線の航空貨物輸送量が前年の2倍超に急増しました。その原因は、ロサンゼルス港などの北米西岸港の港湾労働協約改定を巡る労使紛争にあります。港湾労組が荷役怠業・遅延に踏み切り、港で貨物の滞留や船の沖待ち(滞船)が発生したため、北米航路の海上コンテナ貨物が航空便に切り替えて緊急輸送されたのです。
その影響は日本にもありました。日本から米国向けの輸出において、その多くは自動車セットメーカー・組み立て工場向けの自動車部品でしたが、海上輸送から航空輸送に一時シフトしました。米国内向けの貨物のほか、米国港湾経由でメキシコの自動車工場向けに陸上輸送されていた貨物も、航空輸送に切り替えて、米国空港経由で現地の自動車工場まで輸送されました。米国経済が回復、自動車販売が好調だったこともあり、2015年1~3月の北中米向けの自動車部品の航空輸送量は、前年同期の10倍超に急増しました。太平洋線の航空スペースだけでは不足したため、一部の貨物は欧州・アジアの空港経 由で輸送されました。また、ハワイまで海上輸送した後、ホノルル発の航空便に積み替える「シーアンドエア方式」での輸送も行われました。
米国から日本向けの輸入貨物でも、海上輸送からの航空シフトが生じていました。これまで海上リーファーコンテナで輸送されていた米国からの輸入冷蔵品・食料品の一部が、やはり米国港湾混雑への緊急対応として、航空輸送に一時シフトしたのです。
輸入における航空シフト貨物の多くはいわゆる生鮮食料品であり、なかでもとくに高い伸びを示していたのが牛肉、豚肉などの肉類です。2015年1~3月期における北米からの肉類の輸入量は、前年同期の5倍以上に拡大しています。生鮮食料品以外のドライ食料品、ファストフード店用のフライドポテト(店舗での一時販売停止でニュースになりました)や酒類、タバコなども、今回の緊急航空輸送の対象となりました。
今回の突発的な航空輸送需要の担い手として大きな役割を果たしたのが、チャーター便、航空機の貸切り輸送です。定期便・臨時便のスペースだけでは、とうてい今回の突発的な輸送需要急増に対応することはできませんでした。2010年から 2011年にかけて、国土交通省航空局の通達により、フォワーダーや航空会社が用機者(借主)となったチャーター輸送(フォワーダーチャーター、エアラインチャーターと言います)が相次いで解禁され、突発的な緊急輸送需要に対応しやすい環境が整っていました。北米港湾混雑が悪化、需要が急増した 2015年2月から3月にかけて、国内外のフォワーダー・航空会社により、成田国際空港や中部国際空港から米国向けに約 400 便ものチャーター便が運行されました。
路線別輸出混載航空貨物の伸び率の推移
注)前年同月比
資料:(一社)航空貨物運送協会(JAFA)
今回の米港湾労使紛争は、荷役の完全停止・ロックアウトまでには至らず、2 月に労使が暫定合意、5 月に新労働協約が発効しました。コンテナターミナルのオペレーションは正常化、貨物の滞留や滞船も改善し、労使紛争以前の状態に回復しています。4月以降の太平洋線の貨物輸送量は落ち着きを見せており、今回の港湾労使紛争・混雑にともなう航空輸送特需は、ほぼ収束したとみられます。米港湾労働協約の改定交渉は6年ごとに行われるため、少なくとも来年に同様の労使紛争・港湾混雑が発生することは考えられません。ただし、北米西岸港湾混雑の根本的な原因とされている、コンテナシャーシやドライバー不足の問題が解決されたわけではなく、利用者は今後も港湾混雑への対応を検討しておく必要があります。また、マニラ港など東南アジアの港湾でも混雑が悪化しており、グローバルロジスティクス、サプライチェーンへの影響が懸念されています。
今回の北米港湾混雑・航空輸送特需は、輸出入企業にとって、特定の混雑港湾に依存したサプライチェーン、物流体制・ルートを見直す契機になるでしょう。航空輸送が再評価され、海上輸送との使い分けが変わっていく可能性もあります。
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