海運から航空への貨物シフト、今回はいつまで続く?
海運から航空への貨物シフトが航空貨物輸送量急増の一因
日本発輸出航空貨物量の伸びは2021年度に入っても衰えず、4月の対前年同月伸び率は103.9%増と一段と加速。路線別にみると、とくに太平洋線(北米向け)の伸びが突出しており、3月は前年の2.2倍(120%増)、4月は同3.2倍(220%増)に達しています。路線別構成比でも、太平洋線のシェアは2月に2割台に上昇し、4月まで25%前後で推移しています。
伸び率が急拡大した要因としては、前年のコロナ禍による大幅減の反動増のほか、海上コンテナ輸送の混乱と供給不足に伴う、海運から航空への貨物シフトがあげられます。海上輸送では、船腹スペースとコンテナ不足に伴う運賃高騰とブッキング困難、世界の主要港湾における混雑や滞船状況の悪化、スケジュール遅延の常態化など、混乱と供給不足が続いており、現在も改善の兆しが見えません。一方、航空輸送では、国際定期便の運航停止・減便により遊休化した旅客機も活用して、旅客機貨物便を含む貨物専用便が多数運航され、貨物輸送の供給力が拡大しています。
こうしたなかで、海上輸送を利用してきた荷主企業が航空による代替輸送を利用するようになり、海運から航空への貨物シフトにつながっています。
図表1:日本発輸出航空貨物の路線別伸び率・構成比の推移
①伸び率の推移
注)前年同月比
出所)(一社)航空貨物運送協会(JAFA)
②構成比の推移
注)重量ベースの路線別構成比
出所)(一社)航空貨物運送協会(JAFA)
太平洋線では2015年に北米西岸スト・荷役遅延に伴う航空シフトが発生
海運から航空への貨物シフトが起きるのは、今回が初めてではありません。これまでの航空シフトの発生動向を、路線別に振り返ってみます。
太平洋線(北米向け)では2015年1~3月期に、北米西岸港湾労使協議・紛争の長期化により、港湾ストライキ・荷役遅延が発生。日本から北米自動車工場向けに海上輸送されていた自動車部品を中心に、航空による代替輸送が行われました。
2月から3月にかけて輸送量は前年の2~3倍に急伸しましたが、労使紛争の解決・荷役再開に伴い、航空シフトは収束して貨物も海運に回帰。4月の伸び率は1桁台に落ち着き、5月はマイナスに転じました。
欧州線では2018年に特定自動車部品の緊急航空輸送が続く
欧州線では、2017年末から2018年11月にかけて、特定自動車部品の航空輸送が急増。
日本から欧州に供給していた環境規制対応車向けの特定の自動車部品について、日本側の生産・供給が現地の需要に追い付かなくなり、納期に間に合わせるために航空による緊急輸送を行わざるを得なくなりました。背景には、同時期に日本国内でも同じ部品の需要が高まっていたこともあります。
このときの航空シフトは、同自動車部品の需給ギャップが解消されるまで、1年近くにわたり継続しました。
アジア線では2020年3~4月にコロナ禍でマスク・医療関連品の緊急航空輸送を実施
アジア線では、2020年3月から日本向けにマスク・医療関連品の緊急航空輸送が実施されました。
マスクは付加価値が低く運賃負担力が小さい貨物であり、従来海上輸送されてきましたが、コロナ感染拡大のなかで世界的な生産・供給不足と日本側での需要急増を受け、緊急航空輸送されることに。マスクは軽量・小型貨物のため、旅客機貨物便によりマスクを詰めたカートンを旅客機上部の座席上に載せて運ぶケースもみられました。
このマスクの緊急航空輸送・航空シフトは、マスクの生産・入荷増に伴い、2~3か月で収束しました。
図表2 路線別にみた海運から航空への貨物シフト・航空特需の発生/収束状況
出所)各種報道資料等より日通総研作成
現在は太平洋線での航空シフトがもっとも大きく
現在、もっとも大きな航空シフトが生じているのは、太平洋線(北米向け)です。
航空シフトの大きな要因となっている、海上輸送での船腹スペース・コンテナ不足や運賃高騰は、2020年秋にアジア発北米向け輸送から始まりました。2021年に入ると米国港湾における港湾混雑(コロナ感染拡大による荷役労働力不足も一因)や滞船が深刻化。2月の寒波襲来による工場生産停止に伴う部品・部材類の供給不足も発生し、北米向けでの緊急航空輸送需要が一段と高まりました。
港湾混雑・滞船や運賃高騰は、ロサンゼルス・ロングビーチ港から北米西岸港湾全体、さらにはカナダや米国東岸港湾にまで広がり、収束・緩和にはまだ時間がかかりそうです。
また、今回の航空シフトの対象には、自動車部品のほか、一般機械・工作機械部品、化学品など、生産材・重量貨物が幅広く含まれており、対前年同月の伸び率も前回シフト時に比べて大きくなっています。
欧州線では日本向けにコロナワクチンの緊急航空輸送・航空特需が発生
欧州線では今年2月以降、欧州から日本向けにコロナワクチンの緊急航空輸送が逐次行われています。
ワクチンは高度な温度管理と安全性・セキュリティの確保、短期間での輸送が求められます。ワクチン輸送はもとより航空輸送「一択」で、海運からのシフトではなく、「航空特需」というべきものです。ただ、輸送容器を含めてもそれほど重量のある貨物ではないため、重量ベースではそれほど大きな押上げ効果はありません。
また、今年3月下旬に発生したスエズ運河のコンテナ船座礁事故により、同運河経由で欧州に向かっていた船舶が通行不能となり、航空による代替輸送が行われる可能性もありました。しかし、事故後の対応としては、航路・ルート変更(喜望峰回りや北極海航路等)が主体で、1週間で運河通行が再開されたこともあり、航空による代替輸送を手配する動きはあまり目立ちませんでした。
太平洋線(北米向け)のような大規模の航空シフトは発生しませんでしたが、事故への対応のため、海上輸送混乱の収束・正常化への取り組みが遅れ、航空シフトの長期継続につながるという、間接的な影響はあったと思われます。
アジア線では半導体製造装置等で航空から海上へのシフトも
アジア線は太平洋線・欧州線に比べて輸送距離が短く、航空輸送の時間面での優位性が小さいことから、航空シフトは発生しにくく、逆に海上輸送の運賃・コスト面での優位性を生かした海運シフトの方が目立ちます。
最近では、RORO船・フェリーを活用して、これまで航空輸送が主体であった大型の半導体製造装置の海上輸送への取り組みが進んでいます。これは、オンシャーシ・短時間での積卸しが可能で、クレーン荷役がなく振動による貨物ダメージが少ないという、RORO方式の利点を生かした取り組みです。
また、最近では欧州との航空輸送の代替輸送手段として、シベリア鉄道や中欧班列などの国際鉄道輸送と海上輸送を組み合わせた複合一貫輸送も行われています。これも、日欧間の航空輸送の一部が、アジア近海航路の海上輸送にシフトしたものと言えます。
今回の航空シフトはいつまで続くのか
今回の航空シフトの要因となっているのは、海上コンテナ輸送の混乱・供給不足であり、その正常化・収束が遅れると、航空シフトも継続することになります。
現時点では、海上輸送の混乱が正常化・収束に向かうのは、今年度下期(10~12月期)になってからとみており、航空にシフトした貨物が海運に回帰してシフト前の状態に戻るのは、早くて来年初め(22年1~3月期)と見込まれます。
また、海上輸送の混乱が正常化・収束して、航空シフト貨物が海運に貨物回帰した後は、航空輸送量の反動減が避けられません。シフトの規模が大きければその反動も大きくなり、シフト期間が長ければ反動減も長期間にわたることになります。
図表3:航空シフト発生時における伸び率の拡大と収束後における反動減
注)前年同月比の増減率、赤字表記はマイナス。
出所)(一社)航空貨物運送協会(JAFA)
次回の「経済と貨物輸送の見通し」改訂版(7月公表予定)においても、海上輸送混乱の正常化・航空シフトの収束時期と、航空シフトの反動減をどの程度見込むかが大きなポイントとなります。
(この記事は2021年6月4日の状況をもとに書かれました。)
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