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「年度」と「暦年」で、日本の国際貨物の荷動きの見え方はどう変わる?

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シニア・コンサルタント

浅井 俊一

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当社の「経済と貨物輸送の見通し」は年度ベース(4~3月)で実施・公表

当社が年4回公表している「経済と貨物輸送の見通し」では、年間貨物輸送量と対前年の増減率を、年度ベース(4~3月;4月1日~翌年3月31日)で算出・公表しています。
現時点における最新版(2022年3月31日公表)では、2021年度と2022年度の予測値と、各年度の上期(4~9月)と下期(10~3月)の内訳を示しています。
暦年ベース(1~12月)ではなく、年度ベースでの実績値・予測値を公表しているのは、多くの日系企業・官公庁が、年度ベースでの事業・決算としていることを踏まえたもの。
実績値の整理や予測値の策定作業は、四半期単位(1~3月/4~6月/7~9月/10~12月)で行っており、公表数値はこれを年度ベースで組み直して合計したものです。

年度ベースと暦年ベースで数値が大きく異なる年も

外資系企業やNXHD(Nippon Expressホールディングス)など、事業・決算年度を暦年ベース(1~12月;1月1日~同年12月31日)としている企業にとっては、暦年ベースの数値の方がわかりやすく、参考となると思われます。そこで、四半期単位の実績値・予測値を、暦年ベースに組み直し、年度ベースの数値と比較してみることにします。
図表1-1は、外貿コンテナと国際航空の日本発輸出貨物の対前年伸び率を、年度ベースと暦年ベースで比較したものです。同じ年次で年度ベースと暦年ベースの伸び率を比較し、その格差(暦年伸び率-年度伸び率)をポイントとして算出・整理しています。
海上コンテナでは年度と暦年で伸び率にそれほど大きな違いはみられませんが、国際航空では年度と暦年で伸び率に大きな違いがある年がみられます。
2021年は暦年ベースの伸び率が4割台半ばに達しており(45.4%増)、年度ベースの伸び率(29.2%増)を16.2ポイント上回っています。一方、2020年は暦年ベースのマイナス幅が2桁台となっており(15.9%減)、年度ベースのマイナス幅(1.8%減)よりも14.1ポイント大きくなっています。

図表1-1 日本発輸出貨物の年度ベース・暦年ベースの対前年伸び率比較

図表1-1 日本発輸出貨物の年度ベース・暦年ベースの対前年伸び率比較

注)㈱NX総合研究所「2022年度の経済と貨物輸送の見通し」の国際貨物輸送実績・予測値より作成。
出所)㈱NX総合研究所「2022年度の経済と貨物輸送の見通し(改訂)」(2022年3月31日公表)

1~3月期の変動が大きいと、年度・暦年間の格差・ズレが大きく

年度ベースと暦年ベースで大きな伸び率格差が発生している年は、1~3月期の増減率の振れ幅が大きく、急激に変動しています。図表1-2に示すように、同期は年度と暦年で異なる年次に入り、年度と暦年の数値がずれる要因になっています。
2021年の1~3月期は41.5%増と4割超の大幅増となっており、2020年度のマイナス幅を縮小させ、2021年暦年のプラス幅を拡大させています。この期は、海運からの航空シフトの拡大が始まった時期です。一方、2020年の1~3月期は19.5%減と2割近いマイナスとなっており、2019年度と2020年暦年の減少幅を拡大させています。この期は、新型コロナウイルス禍(COVID-19)の第1波による経済・荷動きの下押しが始まった時期です。

図表1-2 年度と暦年の包含時期の違い

図表1-2 年度と暦年の包含時期の違い

注)FY:Fiscal Year(年度) CY:Calendar Year(暦年)

2015年1~3月期は北米西岸港湾労使交渉の難航に伴い、北米向け航空輸送が急拡大

2014年から2016年にかけても、1~3月期の増減率が急激に変動し、年度ベースと暦年ベースの数値に大きな違いが出ました(図表2参照)。
2015年の1~3月期は、北米西岸港湾の労使交渉の難航に伴い、港湾の荷役遅延や混雑、船舶の沖待ち等が発生。北米向けの海上コンテナ貨物が、航空により緊急輸送・代替輸送されることとなりました(海上貨物の航空シフト、2021年6月投稿の拙稿参照)。
2015年1~3月期におけるTC1(米州向け・太平洋線)の伸び率は、118.5%増と倍増超の伸びとなり、2014年度(43.6%増)と2015年暦年(20.9%増)の伸び率を大幅に拡大、押し上げました。
港湾労使交渉は2015年3月までに最終合意・妥結し、これに伴い海上輸送の混乱や港湾混雑・荷役遅延は解消、航空による代替輸送需要・航空シフトも収束。伸び率が急拡大したのは2015年3月までで、4~6月期以降は伸び率も落ち着きました。
翌年2016年の1~3月期は、前年同期の急増・大幅増の反動により、半減近くのマイナスに(49.1%減)。その結果、2015年度は2割超のマイナス(21.8%減)、2016年暦年も2桁減(16.9%減)となりました。

図表2 日本発輸出航空貨物量と対前年伸び率の推移(2014-2016年)

図表2 日本発輸出航空貨物量と対前年伸び率の推移(2014-2016年)

出所)国土交通省航空局「日本出入航空貨物路線別取扱実績」

2022年の北米西岸港湾労使交渉難航・長期化の影響は4~6月期以降に

現在の北米西岸港湾労使協定は2022年7月1日に期限を迎え、5月12日に第1回の労使交渉が行われる予定となっており、今後交渉が本格化します。一度、使用者側から現在の協定期限延長の申し入れがありましたが、港湾労組側が拒否しています。
今回も港湾労使交渉が難航・長期化すると、北米航路における海上輸送・北米西岸港湾混雑が継続・悪化し、航空による代替輸送・航空シフトが再拡大する可能性があります。
ただし今回の場合、伸び率が急増するのは4~6月期以降となり、2022年度と2022年暦年に共通する時期なので、2022年の年度・暦年間の数値の違いにはつながりません。
また、前年2021年の4~6月期は、北米航路の海上コンテナ輸送の混乱・供給不足に伴う航空シフトが本格化し、TC1(米州向け・太平洋線)は倍増超の伸びを記録していました。2022年は前年大幅増を受けての「2巡目」となるため、前回ほど伸び率が急拡大することはないと思われます。

年度と暦年で符号(増加/減少)の逆転が生じる年も

当社の「経済と貨物輸送の見通し」が参照・基礎データとしている、財務省貿易統計や空港税関速報は、毎月月間速報値を公表しており、12月分速報値と同時に、暦年ベース(1~12月)の年間実績を公表しています(例年1月上中旬に公表)。
また、JAFA(航空貨物運送協会)の航空貨物輸送統計は、年度ベースと暦年ベースの両方で年間実績値を公表しており、年度ベースの実績値は3月分実績と同時に公表されています(例年4月中下旬に公表)。
このJAFA統計から年度ベースと暦年ベースの年間実績を比較してみると、2020年と2021年の輸出で、年度と暦年の実績値の違いが大きくなっています(図表3参照)。
また、プラス/マイナスの符号(増加/減少)が逆になる年もみられます(TC3:アジア向け輸出の2020年と2018年、輸入の2018年)。1~3月の増減率が大きいときには、このような符号の逆転も起こりえます。

図表3 JAFA統計による国際航空貨物の年度ベース・暦年ベースの対前年伸び率比較

図表3 JAFA統計による国際航空貨物の年度ベース・暦年ベースの対前年伸び率比較

出所)(一社)航空貨物運送協会(JAFA)

次回の見通し改訂版では、航空輸送のみ2021年度の数値が確定

次回の「経済と貨物輸送の見通し」改訂版は、6月末から7月初めの公表を目指して、5月末から見直し・改訂作業を始める予定です。
航空輸送と海上輸送(各港港湾統計)では、統計公表のタイミングに違いがある(航空の方が1~2か月早い)ため、年間数値を確定できる時期も異なります。
航空輸送については、今回の改訂作業期間中に2022年3月分の実績値が公表されるため、2021年度の数値は「確定値」として公表。一方、海上輸送については、改訂作業期間中に予測の対象としている8大港の2022年3月分コンテナ統計が出揃わないため、2021年度の数値は「予測値」として公表することになります。

※「経済と貨物輸送の見通し」最新版は以下のURLご参照。
https://www.nx-soken.co.jp/report#outlook

(この記事は2022年4月28日の状況をもとに書かれました。)

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