【ロジスティクスレポート No.05】物流分野における改正省エネ法の概要と貨物輸送事業者の対応~取組むべき対策とエネルギー使用量算定方法等の課題~
- 規制対象を物流分野に拡大した改正省エネ法が4月に施行された。これにより、一定規模以上の貨物輸送事業者と荷主に対して、年間の貨物輸送で使用するエネルギー量の削減目標が課せられ、エネルギー使用量等の国への「定期報告」が義務化された。
- 「定期報告」では、「燃料法」「燃費法」「トンキロ法」のいずれかの算定方法でエネルギー使用量を計算することになる。算定方法により、エネルギー使用量の計算結果が異なるため、各事業者が算定したエネルギー使用量や原単位は、直接相互に比較することはできない。
- 輸送事業者は、自ら省エネ対策等に積極的に取組むとともに、荷主に提供できるデータを示すことや改正省エネ法で示された取組むべき対策の具体的な提案など、輸送の実務者として積極的に荷主にアプローチすることが必要となる。このような荷主への省エネ対策対応が、これからの輸送事業者としての大きなセールスポイントになると思われる。
- 貨物輸送で使用したエネルギー使用量の把握には、荷主別の発注に対応した使用トラック、輸送距離、積載率などの個別の輸送データが必要となり、その算出には膨大な事務作業が伴う。そのコスト負担の帰属と消化が大きな課題になるとともに、今後荷主、輸送事業者の相互の連携による効率的で簡易な算定手法やデータ交換ツール、システム等の開発が必要である。
- 国においても省エネを目的としたモーダルシフト推進に向けた環境整備や実効性のある具体策の推進、さらには低公害車の普及や関連機器の導入も含めたエコドライブ対策推進への支援等を進めていくことが求められよう。
1.改正省エネ法(4月施行)の概要
規制対象を物流分野に拡大した改正省エネ法が4月に施行された。同法は、貨物を運ぶ貨物輸送事業者はもちろん、実輸送を行わない荷主に対しても、年間の貨物輸送で使用するエネルギー量の削減目標が課せられ、エネルギー使用量等の国への「定期報告」が義務化された。貨物の輸送を物流業者に委託している荷主まで法の網を広げた環境規制(改正省エネ法)は、世界で初めての試みである。これは、荷主が貨物輸送の業務に大きな影響力を持っていることから、規制の実効性を高めるという意味で画期的な措置であるといえる。なお、貨物輸送事業者と荷主は平成18年度中に改正省エネ法で必要なデータを収集し、一定規模以上の事業者は平成19年度から定期報告書や計画書を作成することになる。これらの書類の提出先は、貨物輸送事業者が地方運輸局、荷主が地方経済産業局になっている。
- 改正省エネ法の対象事業者
貨物輸送事業者はトラック200台以上、鉄道300両以上等、荷主は年間の貨物輸送量3,000万トンキロ以上の事業者が改正省エネ法の規 対象になり、それぞれ「特定貨物輸送事業者」、「特定荷主」として「特定事業者」に指定される。特定荷主としては約2,000社が該当し、国内の貨物流動の約7割をカバーするものと想定されている。また、「特定貨物輸送事業者」には、自家物流を行っている事業者も含まれる。 - 特定事業者の取組むべき対策
改正省エネ法では、2006年3月に経済産業省と国土交通省の告示によって特定事業者に指定された貨物輸送事業者と荷主が取組むべき対策が示された。これらの対策への取組みが著しく不十分な特定事業者については、「勧告」、「社名公表」、「命令」、「100万円以下の罰金」などの法的措置がとられる。 取組むべき具体的対策として、貨物運送事業者に対しては、低燃費車等の導入、エコドライブの推進、貨物積載効率の向上など、荷主に対しては、モーダルシフト、3PL(サードパーティーロジスティクス)の活用、営自転換などがあげられている。荷主には、貨物輸送事業者と着荷主との定例的な懇談会、輸送状況に関する情報交換、商取引の適正化など、貨物輸送の関係者間の連携を深めるための対策も盛り込まれている。 - 特定事業者の報告義務
特定事業者に指定されると、貨物輸送事業者には、エネルギー使用量の削減に関する「中長期計画」、荷主には中長期計画に代わる毎年の計画書の提出が義務付けられる。また、計画書のほかに年間の輸送量(輸送トンキロ)、エネルギー使用量、エネルギー使用原単位(エネルギー使用量÷輸送トンキロなど)、取組むべき対策の遵守状況、さらにはエネルギーの使用に伴うCO2排出量等を、毎年、「定期報告書」に記載して提出しなければならない。
改正省エネ法の概要
2.エネルギー使用量の算定方法
「定期報告書」においては、「燃料法」「燃費法」「トンキロ法(「改良トンキロ法」と「従来トンキロ法」がある)」のいずれかの算定方法でエネルギー使用量を計算することになる。トラックと内航船舶の輸送は、燃料使用量の実績値からエネルギー使用量を求める「燃料法」を用いることができ、最も正確な算定方法である。しかし、複数の荷主の貨物を混載して輸送する場合は、荷主ごとに輸送トンキロなどにより按分する必要がある。「燃費法」は、予め定められたトラックの燃費による燃料消費量を算出し、発熱量原単位を乗じてエネルギー使用量を求める方法である。「改良トンキロ法」は、輸送に用いるトラックの最大積載量と積載率からトンキロ当りの燃料消費量を算出し、それに貨物輸送量(トンキロ)を乗じて燃料消費量を求める。混載貨物でも把握可能であり、車両の大型化や積載率向上がトンキロ当りの燃料消費量に反映できる。鉄道、航空機、および燃料法が使えない内航船舶の輸送については、「従来トンキロ法」を用い、トンキロ当り発熱量の原単位にトンキロを乗じて求めることとなる。
改正省エネ法で定められた3つの方法によるエネルギー使用量の算出結果は、それぞれ異なってくる。例えば、最大積載量10トンのトラックに6トンの貨物を積載して100km輸送した場合のエネルギー使用量を算出してみると、燃料使用量の実績値から求めたエネルギー使用量を1とすると、燃費法は1.05、改良トンキロ法は0.94になり、算出方法によってエネルギー使用量が異なる。同じトラック、輸送区間、輸送重量でも、把握しているデータによって使用する算定方法が違い、エネルギー使用量の計算結果も異なることになる。そのため、各事業者が算定したエネルギー使用量や原単位は、直接相互に比較することはできない。また、エネルギー使用量の削減効果を継続的に評価するには、同じ算定方法を用いて計算する必要がある。
算定方法によるエネルギー使用量の違い
3.輸送事業者に求められる対応と課題
特定貨物輸送事業者が提出する「定期報告書」においては、トンキロ当りのエネルギー使用量を記入することになるが、貨物輸送事業者は通常の場合、個別の貨物ごとの輸送重量に輸送距離を乗じた「輸送トンキロ」については算出していないのが実態である。
また、荷主側においては、貨物の「重量」と「出荷先」はわかるが、委託した貨物がどのような輸送機関、経路で、どのような車両、積載率で輸送されたかというデータはなく、これらのデータは貨物輸送事業者から入手しなければならないものと思われる。
現状においては、特定業者になることが想定される荷主企業は、どの程度までデータを把握すべきなのかを模索している状況と思われる。輸送事業者側においては、荷主別の発注に対応した使用トラック、輸送距離、積載率などの個別の輸送データの把握が必要となるが、その算出には膨大な事務作業が伴い、そのコスト負担の帰属と消化が大きな課題となる。そのため、今後荷主と輸送事業者が相互に連携を図り、できるだけ効率的で簡易な算定手法やデータ交換ツールやシステム等の開発が必要となる。
物流業界にとって今回の改正省エネ法は、輸送の効率化、省エネ化を図ることが求められことになり、こうした輸送サービスを提供できない貨物輸送事業者は淘汰されるおそれがある。一方、荷主に対しては、貨物輸送のエネルギー使用量の算出に必要なデータの提供や算出方法の提案、あるいは具体的な輸送効率策や省エネ対策を提案することが、新たな輸送を獲得するチャンスでもある。今後、貨物輸送事業者には、省エネ対策に積極的に取組むことが一層求められることになり、荷主への省エネ対応が大きなセールスポイントになる。改正省エネ法の施行を契機に、荷主との連携を図りながら、これまで以上に省エネ対策の推進を図ることで、自社のコストダウンにつなげるとともに、改正省エネ法の着実な実施による物流業界全体の環境負荷低減につなげていく必要がある。
国においても民間サイドの省エネ対策が実行しやすくなるように、荷主、輸送事業者の相互連携をバックアップするとともに、省エネ効果の高い鉄道や海運へのモーダルシフト推進のための環境整備や実効性のある具体策の推進、さらには低公害車の普及や関連機器の導入も含めたエコドライブ対策推進への支援等を進めていくことが求められよう。
【参考】
改正省エネ法に対応するためには、データの把握、エネルギー使用量の算定、取組むべき対策の効果の試算など、大きな事務負担が生じる。今後、荷主企業、輸送事業者ともにエネルギー使用量を把握、管理するための社内の体制づくりやエネルギー使用量の算定システム、さらには各種省エネ対策の計画、実施とその効果の算出等が必要となり、これらをトータルにサポートするサービスが求められるものと思われる。当日通総合研究所ではこうしたニーズに対応するため、今後エネルギー使用量等の「算定支援サービス」の提供を計画し、検討を進めている。
(担当:物流技術環境部)
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