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モーダルシフトの主役、日本のコンテナ輸送の本質的課題

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1.はじめに

「物流2024年問題」対策の一環として政府は、2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を、そして同年10月に「物流革新緊急パッケージ」を取りまとめ、鉄道(コンテナ貨物)、内航(フェリー・RORO船等)の輸送量・分担率を今後10年程度で倍増させ、トラック輸送からのモーダルシフトを推進する方針を打ち出したことは、皆さんご承知の通りです。
そこで今回は、日本のコンテナ輸送の歩みをグローバルな視点で直視し、その課題を洗い出してみたいと思います。

2.国際海上とは生い立ちが異なる日本のコンテナ

現在国際標準となっている国際海上コンテナは、米国のトラック運送会社の経営者であったマルコム・マクリーンが、中古軍用タンカーを改造したコンテナ船”Ideal-X”に、58個の金属製コンテナを搭載して、1956年にニュージャージー州ニューアークからテキサス州ヒューストンまで運航を開始したのが始まりとされています。
当時既に米国のトラックの標準となっていたセミトレーラーの“箱”をシャーシから分離して、船でも鉄道でも、そしてシャーシに搭載してトラックでも輸送できるコンテナという“箱”を生み出し、並行してコンテナ船、港湾でコンテナを揚げ下ろしするガントリークレーン等のコンテナ荷役システムも発明したマクリーンの功績は、革命的なものでした。
その10年後の66年には、マクリーンが創業した船社シーランドが、オランダ向けコンテナサービスを開始し、コンテナが大西洋を越えて欧州にも流通することなりました。その後、同一のサイズ・仕様のコンテナという“箱”を船や鉄道、トラックで輸送するインターモーダル輸送が、北米だけでなく欧州にも拡大していくことになったのです。
一方、太平洋航路においては、68年に日本郵船が日本最初のコンテナ船を米国航路で就航し、相前後してシーランドが横浜~西海岸航路で月6回の定期コンテナサービスを開始し、国際海上コンテナによるインターモーダル輸送が日本にも拡大するかに思われました。
しかし、下表に示した通り、日本では当時既に、鉄道によるコンテナの国内輸送を前提にした小型のコンテナが独自に発展しており、その独自性が現在に至るまで受け継がれています。日本の貨物輸送は、欧米を中心とする世界とは根本的に異なる途を辿っていたのです。

表1  世界でも類例を見ない日本独自のコンテナの発展過程

表1  世界でも類例を見ない日本独自のコンテナの発展過程

出所:「貨物列、車のあゆみ ~鉄道貨物の歴史と未来~」(2024年、小島英俊著)、「コンテナ物語 ~世界を変えたのは『箱』の発明だった」(2019年、マルク・レビンソン著)等をもとにNX総合研究所が作成

3.国際海上コンテナの普及が世界に与えた影響

マルコム・マクリーンが最初に製作したコンテナは、当時のトレーラーのサイズに合わせた、長さ35フィートのコンテナでしたが、その後様々な過程を経て、現在流通している国際海上コンテナの仕様は、下図の通りです。

表2 国際海上コンテナの形式・サイズと流通量

表2 国際海上コンテナの形式・サイズと流通量

出所:”Drewry Container Census & Leasing, Annual Report 2022/2023″をもとにNX総合研究所が作成

これらの標準コンテナは、トラックから船へ、船から鉄道へ、鉄道からトラックへと輸送モードが変わる度に貨物自体の積み替えが発生していた従来の国際間貨物輸送を、根本から変革しました。貨物をあらかじめ詰め込んだコンテナという標準化された “箱”を、中身の貨物自体を積み替えることなしに、トラックから船へ、船から鉄道へ、鉄道からトラックへと、ガントリークレーンやトランスファークレーン(コンテナの積み替えをする特殊車両)により標準化された荷役方法で、載せ換えれば済むようになったのです。
このような貨物積み替えなしのインタクト方式を通じて、港湾・鉄道ターミナル等の物流の結節点におけるリードタイム・労力・コストが大幅に削減されることになったのです。

4.欧米各国のコンテナ標準化

このような国際コンテナ輸送のメリットは、北米・欧州域内やそれら地域の国内の貨物輸送にも影響を与えることになり、下表が示す通り、各域内でもコンテナの標準化が推進されてきました。

表3 欧米各地域のコンテナ仕様概要

表3 欧米各地域のコンテナ仕様概要

出所:”Drewry Container Census & Leasing, Annual Report 2022/2023″をもとにNX総合研究所が作成

欧米各地域のコンテナのサイズは、長さと幅を中心として、国際海上コンテナと同等或いはそれ以上となっており、特に北米地域については、1990年代に長さ48フィートの時代に入り、21世紀には53フィートの時代に移行していいます。これらコンテナ仕様の変化は、北米のトレーラーのサイズの変化を反映しているのです。
いずれにしても欧米では、国際間輸送のみならず、域内輸送および各国内輸送においても、貨物をあらかじめ詰め込んだコンテナという標準化された “箱”を、中身の貨物自体を積み替えることなしにDoor-to-Doorで輸送するコンテナ・インタクト方式により、インターモーダル輸送のメリットが発揮されているのです。

5.根本から見直すべき日本の貨物輸送の本質的課題

それに対して日本のコンテナおよびコンテナ輸送システムは、先に表1で示した通り、JR貨物の12フィートの5トン積みコンテナに至る極めて独自の発展を遂げ、現在に至っています。そのような独自の発展を通じて独自に標準化されたJRコンテナの仕様は、下表の通りです。

表4 JRコンテナ形式別仕様一覧

表4 JRコンテナ形式別仕様一覧

出所:日本貨物鉄道株式会社「JRコンテナ形式別一覧表」(2017年1月5日現在)をもとにNX総合研究所が作成

上表が示す通り、20フィートコンテナや11トントラックの荷台の仕様に合わせた31フィートコンテナもわずかながら運用されてはいますが、ほとんどが長さ12フィート5トン積みの小さなコンテナなのです。これを見てガリバー旅行記の小人の国を想起する方もおられるのではないでしょうか。
1970年以降今に至るまでの50有余年、12フィート5トン積みのJRコンテナが国内輸送の主流コンテナであり続けて来た日本では、今ではグローバルスタンダードとなっている、コンテナをDoor-to-Doorで貨物積み替えなしで輸送するインタクト方式は結局のところ定着せず、インターモーダル輸送のメリットが十分に享受されて来なかったのが実情なのです。このことが、日本の貨物輸送の労働生産性を大きく阻害して来たことが日本の貨物輸送の本質的課題なのです。日本の貨物輸送が、モーダルシフトを通じて「物流2024年問題」をソフトランディングさせるためには、このことを直視し、根本から見直していくことが不可欠でしょう。多くの方々は、「そうは言っても、できることからやっていくしかない」と考えておられるでしょう。しかし、本質的課題を解決するための具体的・短期的ステップとしての「できること」でなければ、結局は根幹治療にならないことを忘れてはならないのではないでしょうか。

(この記事は2024年12月25日時点の状況をもとに書かれました。)

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