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【ロジスティクスレポート No.14】中堅・中小運輸企業の組織的安全マネジメント手法に関する実態~郵送アンケート調査と訪問調査にみるケーススタディ~

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株式会社NX総合研究所

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  • トラック事業者及びハイヤー・タクシー事業者の約6割が、デジタルタコグラフ、ドライブレコーダーのいずれかの機器を導入している。
  • ISO認証、グリーン経営、安全性優良事業所認定、安全表彰などを受けている中堅・中小の自動車運送事業であっても安全管理に苦慮している。
  • 安全活動を実践する企業では、組織に合わせた独自の安全体制の構築や手法を自社なりに工夫することで差別化を図り、安全実現のためにトップ、管理者、乗務員が各自の役割を認識し、実践する風土が構築されている。

1.はじめに

運輸分野においては、近年の事故多発を受けて平成18 年10 月に「運輸安全マネジメント制度」が導入され、運輸企業に対し、PDCAサイクルに基づき、継続的に安全への取り組みを改善していく運輸安全マネジメント態勢の構築と、輸送の安全を確保するために講じた措置等に係る安全報告書等の作成・公表が義務付けられた。
しかし、事故や労働災害等(以下、「事故等」という)の防止・軽減と言っても、単にマニュアルを作成すれば企業組織に安全意識が浸透するというものではなく、そのためには、組織のトップから現場の職員に至るまでシンプルでわかりやすいノウハウを共有し、それらを組織として蓄積していくことが必要である。
そのためには、人材、時間、コストを掛けることが必要となるが、中小企業では経営資源が十分ではなく、安全第一と分かっていても顧客の要求への対応、企業の経済性(コスト)と両立することは難しい環境にある。
その反面、中堅・中小企業でも安全に掛けられる人材・時間・コストの制約を克服し、安全確保を実現している企業もある。
このため、弊社では、国土交通省国土交通政策研究所殿の委託の下、トップの決断とその遂行過程、マネジメントにおける方針や施策、現場への徹底方法などについて、ケーススタディによるノウハウを探ることを目的に、先ず郵送アンケート調査を実施し、その中から安全に関して特に熱心な取り組みを継続していると考えられる企業に訪問調査を実施し、各企業におけるケーススタディをまとめており、ここでは、これまでの調査に関する内容について以下に紹介する。

2.郵送アンケート調査

郵送アンケート調査の実施

郵送アンケートは、安全に関して特に熱心な取り組みを継続していると考えられる企業を訪問調査の対象先として選定するための位置づけで行い、郵送アンケートの発送先には、ISO認証、グリーン経営、安全性優良事業所認定、安全表彰などを受けている中堅・中小の自動車運送事業(バス、ハイタク、トラック)の約3,000社の企業を対象に配布を行った。

郵送アンケート調査における調査項目

1. 貴社の概要、業態の確認

年商、車両保有台数、人員数等に関するもの。

2. 安全に関係する実績データ

交通事故発生率、保険への加入状況、労働災害の発生状況、従業員定着率、事故資本率等に関するもの。

3. 組織的安全マネジメントのチェックリスト

A.トップのコミットメントと行動、B.マネジメントシステム、C.教育訓練制度、D.現場管理 の4つの観点から、各企業において組織的安全マネジメントの実践状況に関する3段階評価の自己診断を行うためのチェックリスト(案)に関するもの。

4. 自社の重点取り組み内容

安全管理に関する重点取り組み内容、徹底事項等に関してフリー記述回答をして頂くもの。

5. ハード面の取り組み内容

デジタコ、ドラレコ等に関する導入状況に関するもの。

6. 安全管理に関する外部人材のノウハウを活用することについて

全管理を組織的にマネジメントしてきた実績のあるアドバイザー(運輸企業OB等)や外部人材のニーズに関するもの。

7. その他のご意見・ご要望などについて

郵送アンケ-ト回収結果

郵送アンケートの質問票は18頁に及ぶものであったが、当初予想していた回収率を上回る結果となった。これは事業者の本調査検討に対する関心と事業者の社会貢献への意識の高さの現れと考えられる。

郵送アンケ-ト回収結果

※『数字で見る自動車2008年』より引用。

郵送アンケ-ト調査結果の一例

デジタルタコグラフ、ドライブレコーダーの導入状況、交通事故発生率、安全管理に関する外部人材のノウハウの活用に関する結果の一部を下記に整理する。

(1)デジタルタコグラフの導入状況について

(1)デジタルタコグラフの導入状況について

(2)ドライブレコーダーの導入状況について

(2)ドライブレコーダーの導入状況について

(3)安全管理に関する外部人材のノウハウの活用について

6割の企業が公的機関や保険会社、車両ディーラー、コンサルタントから助言・指導等を受けており、安全管理に経験や実績のあるアドバイザーを有料でも活用したいと考えている企業は、下記のとおりであった。

(3)安全管理に関する外部人材のノウハウの活用について

(4)組織的安全マネジメントのチェックリストについて

自己診断の回答結果では下記の内容が得られ、ISO認証、グリーン経営、安全性優良事業所認定、安全表彰などを受けている中堅・中小の自動車運送事業であっても安全管理に苦慮している様子が伺える結果となった。

(4)組織的安全マネジメントのチェックリストについて

3.訪問調査

訪問調査対象の選定

訪問調査先の選定に際しては、前項の郵送アンケート調査における事故発生率、経常利益率、従業員定着率等の実績データの把握状況、回答内容の充実度、重点取り組み内容の具体性、チェックリスト回答のレベルなどを参考にするとともに、既存の事例紹介記事や業界団体等からの情報(保険会社、業界団体等の紹介等)に基づき、バス、ハイタク、トラックの自動車運送事業、鉄道、内航、航空企業などの各モードの企業を訪問調査対象企業として選定した。

訪問調査の実施

訪問調査では、各企業の郵送アンケート回答者をはじめ、企業トップ、経営者、安全管理担当者の方々に、安全に関する取り組みについてお話を伺うインタビュー調査を行い、また事務所、車庫、車両等の見学のほかに、これら施設に掲示されている掲示物などに関する調査も行った。
訪問調査では、下記に示す事項について調査を行い、これまで約40社以上の企業を訪問した。

訪問調査における調査項目

1. 会社の概要

(1)設備・施設構成
(2)主要顧客・主要業務
(3)人員数、組織体制(部門・拠点等)
(4)年商、資本金、グループ企業の事業内容

2. 創業からの成長経過、安全に対する取り組み経過

(1)創業の経緯、理念
(2)顧客・業務(商品・サービス)の変化と背景・成長要因、年商等の推移
(3)組織の変化(部門・拠点、分社化)、人員数の推移、経営者の交替
(4)安全に対するトップの考え方と行動内容、事故等の推移と意志決定内容
(5)業務上のリスクに関する特徴

3. 方針、マネジメント

(1)今年度の安全に関する計画(前年迄の実績、今期方針、施策など)
(2)安全実績データを収集するしくみ(事故等の定義、ルール、担当、システムなど)
(3)会議・ミーティング等の体系、内容
(4)賞罰(無事故手当、表彰など)と業績評価などとの連動
(5)協力業者の管理

4. 制度、施策(※企業の特徴あるところを重点的に伺う)

(1)採用基準と新人教育の内容
(2)定期的教育の内容
(3)事故惹起者への指導・対応、原因分析と再発防止
(4)小集団活動(班活動)の内容、これに関する教育制度
(5)現場指導教育の内容(基本行動、点呼・朝礼、巡回・立会指導など)

4.現状調査の整理

本現状調査は、郵送アンケート調査で実施したチェックリストの回答結果の内容と実際に現場を訪問することで、安全体制や事故状況、また安全確保における取組み状況を確認し、また他事業者に参考として頂くためのケーススタディをまとめることを目的に実施した。ここでは、これまでの訪問調査において参考になると思われる主な事例を下記に紹介する。

トップのコミットメントと行動等

  • 経営トップの方針が、あるべき論・抽象論ではなく、具体的に周知され、トップ自身が現実に事故等をどのように減らすかについて、現場巡回指導、乗務員との日常のコミュニケーションの確保、個別面談等を定期的に行い、自らの目と足で現場の現実の姿を確認し、原因の究明や対策と向き合っている。
  • トップ自身が現場の末端まで、会社の経営態勢や安全に関する目標について、分かりやすい言葉で説明し、それを理解させることによって社員全員が自覚し、責任を持った業務が実践されている。
  • 経営トップと各乗務員の間で、改善ノートや個人目標等を回覧、記載する活動が行われており、乗務員の日常における気づき等の記述に対して、トップ自身が一人一人にコメント記述を返す活動が行われている。
  • 単なる本人への業績を讃えるためのものではなく、表彰を全員に周知することにより、他の全員が向上意識を持つための賞罰制度を導入している。

マネジメントシステム等

  • ISO9001・14001や安全性優良事業者(Gマーク)等のマネジメントシステム態勢の中に安全対策を取り入れて、PDCAサイクルによる見直し、改善が実践されている。
  • 会社の年間スローガンを乗務員が自分たちで設定し、設定に至るまでの経過を全員が理解することにより、自分の目標として実践している。
  • 乗務員が各個人の目標を設定し、それを社内に掲示するとともに、各自が自覚し、実践する風土が構築されている。
  • 乗務員の自主的活動を実践しやくするため、企業内に社長、業務部等と直結した乗務員主体の組織を構成し、乗務員の自覚と責任を持った安全対策活動が実践されている。
  • 安全情報が確実に把握、管理されており、例えば事故定義(範囲)を明確にし、金額に関わらず小さな接触やキズであっても事故としてカウントし、小さなことでも報告する風土が築かれている。
  • 会社単一での行動ではなく、当該グループ全体、又は顧客と一緒に安全確保に関する取り組む態勢が整っている。

教育訓練制度等

  • トップや経営者等の方針を受けて、それを現場の末端まで浸透、指導できるためのリーダーシップを発揮する中核幹部人材の確保・育成が実践できている。
  • 現場第一線の乗務員等への基本動作や具体的スキルを個別に指導するための専門の指導員が選任されている。
  • 乗務員等への基本動作や具体的スキルを個別に指導するための運転訓練車などの安全対策設備・機器が活用されている。
  • 顧客や自社による研修を通じて、社員全員が商品知識の特性(危険物、振動等)を理解し、安全に輸送のための自覚と業務の実践が行われている。
  • 事故に遭遇した状況を想定し、その状況下での対処方法を確認するための実地訓練が、毎月2回定期的に実施されている。
  • 小集団活動等をとおして、乗務員が自分たちでグループ目標を設定することによって、安全に輸送する自覚と連帯意識が生まれ、実践する風土が構築されている。
  • 改善ノートや個人目標等をグループ毎に回覧する活動を行うことにより、グループとしての連帯意識や考え方、意識(気付き)の方向性の統一化を図っている。

日常業務等

  • 各自が車両の担当を受け持つことにより、また洗車や清掃に熱心な乗務員は、車両管理に対する責任意識が強く、安全運転の実践につながっている。
  • 長距離輸送時のフェリーの活用、仮眠室の充実(個人部屋等)、輸送経路上への宿泊施設の設備など、乗務員の健康確保のための対策が実施されている。
  • 自動車運送事業のプロとして、乗務員を含めた社員全員の事故、違反経歴を管理、指導している。

それぞれの組織に合わせた独自の安全体制の構築や手法など、各企業が自社なりに工夫して差別化することにより、安全体制の構築、実践が図られており、上記に紹介した内容は、安全管理の取り組み事例として参考にして頂くために、国土交通省 国土交通政策研究所殿HPでも公開され、中堅・中小企業がこれらを安全活動に参考にして頂くことを期待している。

※この調査は、国土交通省 国土交通政策研究所殿の委託を受けて実施したものを一部抜粋したものです。

(担当:安全コンサルティング部)

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