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世界の物流企業の無人化技術特許

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シニア・コンサルタント

岩崎 洋平

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各国の特許制度では、特許出願の情報は公開され誰でも閲覧することができます。
特許の公開情報によって、企業がどのような分野の技術に力を入れているかなどの情報を得ることができます。
そこで今回は、物流分野における次世代技術(特に無人化技術を取り上げます)を特許技術から探ってみたいと思います。
本稿の前半は世界の物流大手の全体的な出願傾向の把握を行い、後半では具体的に各社が出願している無人化技術の内容についてご紹介いたします。

世界の物流企業の出願件数

世界の主な物流企業(一部関連会社の出願も含む)の特許出願件数をみると、United Parcel Service(以下UPSと表記)が最も多く、米国、欧州、世界で合計1327件となっています。次いでDeutsche Post(DHLの出願は6件のみのためドイツポストを調査)が935件、FedExが361件と続いています。それ以外の企業はあまり多くありません(日本通運は日本の特許庁には100件程度の出願があります)。

表1 主な物流企業の特許公開件数

表1 主な物流企業の特許公開件数

※特許権は基本的には各国毎に出願し権利化する必要があります。ですので、出願は基本的に自国の特許庁に出願しますが、ヨーロッパは欧州全域をカバーする特許庁に出願します。また、表中の『世界』とは、世界知的所有権機関のことで、この機関に出願すると、特許協力条約加盟国(153か国)すべてに出願したものとみなされるもので、特に広く世界各国で特許権を取りたい場合に世界知的所有権機関に出願をします。

3企業の出願分野について

次に、上位3つの企業についてどのような分野の出願が多いのかを見ていきたいと思います。特許は出願されると国際的に統一された特許分類コード(IPC)が付与されますのでそのコードを使って分類を行いました。分類内容がイメージしにくいものもありますのでそのような分類の出願は出願例をお示ししています。

UPS

最も多い出願は管理目的や商用目的のシステムに関するもので620件となっています。
次いで、デジタルデータ処理に関するものが183件、運搬又は貯蔵装置に関するものが71件と続いています。
1位の管理目的や商用目的のシステムに関する出願の例としては
SYSTEMS AND METHODS OF LOCATING AND SELLING ITEMS AT ATTENDED DELIVERY/PICKUP LOCATIONS(配達/集荷場所に商品を配置、販売するシステムと方法)
などがあります。
2位のデジタルデータ処理に関する出願の例としては
AUTOMATED OCCUPANT TRACKING SYSTEMS AND METHODS(自動化された乗員追跡システムと方法)などがあります。
デジタルデータ処理に関するものなので、当然システムにも関連しています。
そう考えると、UPSの出願の大部分はシステムやデータ処理に関するものであることがわかります。

表2 UPSの出願分野とその件数

表2 UPSの出願分野とその件数

ドイツポスト

ドイツポストではUPSと同様、管理目的や商用目的のシステムに関する出願が最も多く207件となっています。次いで運搬又は貯蔵装置に関する出願が89件、郵便料金計器に関する出願が84件となっています。
1位はシステムに関するものであり大部分を占める一方、UPSと違い2位に運搬又は貯蔵装置が、また3位に郵便料金計器が入るなど“モノ“の出願の割合も多いことがわかります。

ちなみに、管理目的や商用目的のシステムに関する出願例としては
Energy-efficient delivery of shipments(エネルギー効率の高い貨物の配送)
などがあります。

表3 ドイツポストの出願分野とその件数

FedEx

FedExも他の2社同様管理目的や商用目的のシステムに関する出願が最も多く92件となっています。次いで、電気的デジタルデータ処理に関する出願が46件、無線通信ネットワークに関する出願が34件となっています。
FedExの特徴として、3位に通信ネットワークやデジタル情報の伝送関連の出願が入っており、輸送物の状態を把握してその情報を遠隔で把握する技術に関する出願やポータブルデバイス関連の割合が多い傾向が見られます。

1位の管理目的や商用目的のシステムに関する出願例としては
SYSTEM AND METHOD FOR MANAGING SHIPPING OF ELECTRONIC DEVICES WITH CUSTOMER PERSONAL INFORMATION(顧客の個人情報を使用して電子機器の出荷を管理するためのシステムおよび方法)

2位のデジタルデータ処理に関する出願例としては
Portable computing device and method for asset management in a logistics system
(ロジスティクスシステムにおける資産管理のためのポータブルコンピューティングデバイスと方法)

3位の通信ネットワークに関する出願例としては
METHODS AND SYSTEMS FOR PROVIDING SENSOR DATA USING A SENSOR WEB(センサーウェブを使用してセンサーデータを提供するための方法およびシステム)
等があります。

表4 FedExの出願分野とその件数

表4 FedExの出願分野とその件数

無人化技術について

ここまでは、各社の全体的な出願傾向を見てきました。各社ともシステム関連の出願が多いことから、今後を見据えて無人配送等の技術開発も行っていることが予想されます。そこで、ここからは無人化技術に関する特許出願に注目して、詳細を見ていきたいと思います。
無人化技術に関する出願を抽出するために、特許出願書類の本文中に“unmanned”という単語が含まれる特許出願について集計しています。(件数が多くなるので米国特許庁への出願をメインに調査しています。)

無人化に関する出願(米国への出願)としては、UPSが最も多く118件、次いでFedExが68件、ドイツポストは米国への出願が18件(欧州への出願が15件)となっています。
出願年別にみると、UPSは2004年から2010年まで数年おきにまた、2010年以降はほぼ毎年1,2件の出願があります。また、2014年以降は毎年10~20件程度継続的に出願しています。FedExは2014年に42件の出願をピークとして減少しますが、2019年にも16件の出願を行っています。ドイツポストについては近年毎年数件の出願が見られます。なお、2020年の出願は基本的には公開前でありFedExの出願が0件ということではありません(UPS、ドイツポストの数件は例外的に先行公開された分です)。

表5 無人化技術に関する出願件数

表5 無人化技術に関する出願件数
図1 無人化技術に関する米国特許庁への出願件数

図1 無人化技術に関する米国特許庁への出願件数

各社の無人化技術の具体例

各社の無人化技術の出願の中から筆者が興味深いと考える、無人搬送車両やドローンに関する出願について簡単にご紹介いたします。本稿では各社1例ずつのご紹介ですが、2017年以降出願の一覧を掲載いたしますのでご興味がある場合はご自身でお調べいただければと思います。
お調べいただく方法としては、例えばGoogle patent (https://patents.google.com/)というグーグルの無料特許検索ページで公報番号を入力していただければ公開書類を閲覧・ダウンロードすることができます。

UPS

公報番号: US20200180880A1(2019年12月5日出願)
名称:Drone delivery platform to facilitate delivery of parcels by unmanned aerial vehicles
(無人航空機による小口貨物の配達を容易にするドローン配達プラットフォーム)

図の通り、小口貨物の配達ドローン用のプラットフォームの発明です。地面より高い位置(屋根や電柱)に設置することで障害物が多い地面までドローンが下りなくてもよいため配送効率を高めることができます。荷受けだけでなく集荷でも使用可能で、ドローンを待つ際の悪天候用に展開可能なカバーも有しています。プラットフォームは上下方向に動くので荷受人が取り出しやすい高さまで下がってきます。また、無人地上車両(図2の804)との連携も可能とされています。

図2 US202001808801A1のFig(一部抜粋)

図2 US202001808801A1のFig(一部抜粋)

出典:米国公開特許公報US202001808801A1 
左上FIG.7 左下FIG.27 右上FIG.4 右下FIG.30

表6 UPSの無人化技術に関する出願一覧(2017年以降)

表6 UPSの無人化技術に関する出願一覧(2017年以降)

※公報番号の末尾から2文字目がBのものは特許権利化済み

FedEx

公報番号:US10875174B2(2019年3月出願、2020年12月特許権利化)
名称: Modular autonomous bot apparatus assembly for transporting an item being shipped(貨物を輸送するためのモジュール式自律ロボット装置)

貨物を輸送する自律走行装置に関する発明です。自律ロボット装置は、動力源、モビリティコントローラー、ステアリング装置、経路内の物体を検出するセンサーなどからなるモビリティーベース(図中の1705)と、そのベースに取り付ける貨物積載用のボックスや補助電源(貨物ボックスの蓋の開閉などの電源)、移動自律制御システム(図中の1725)を組み合わせて貨物を輸送します。移動自律制御システムはサーバーや外部モバイル装置などと通信を行います。

貨物輸送用の自律走行ロボット汎用的な技術の出願でありすでに権利化もされています。施設構内でのパーツ輸送や病院内での医薬品輸送、また小売店から個人宅への配送など様々な使用例が例示されています。

図3  US10875174B2のFig(一部抜粋)

図3  US10875174B2のFig(一部抜粋)

出典:米国特許公報US10875174B2 上段Fig.18C 中段 Fig.17 下段FIG.43F

表7 FedExの無人化技術に関する出願一覧(2017年以降)

表7 FedExの無人化技術に関する出願一覧(2017年以降)

ドイツポスト

公報番号:US20210016735A1(2020年7月15日出願)
名称:Triggering at least one Crash Cushion of an Unmanned Vehicle
(無人機の衝撃緩衝装置の起動)

無人機に衝突の危険性が迫った場合に、緩衝材(エアバッグ等)を展開し無人機自体や歩行者等への衝撃を緩和するための仕組みに関する発明です。
無人機に搭載されたセンサーで無人機に接近し、衝突しそうな物体(機械学習によって得られた決定モデルを想定)を検知して緩衝器(エアバッグ等)を展開します。
無人機には複数のエアバッグ(図の13-1~3)が搭載されており、衝突の予想される方向に応じて少なくとも1つのエアバッグを展開します。

ドイツポストではこの出願以外にも無人機の事故回避に関する出願(名称:Averting a danger 等)をしており、無人機の安全への意識が高いことが見受けられます。

図4 US20210016735A1のFig(一部抜粋)

図4 US20210016735A1のFig(一部抜粋)

出典:米国公開特許公報US20210016735A1 左Fig.3 右Fig.1

表8 ドイツポストの無人化技術に関する出願一覧(2017年以降)

表8 ドイツポストの無人化技術に関する出願一覧(2017年以降)

参考(特許の調査方法)

<対象期間>
特許の存続期間は出願から20年ですので、2001年以降に出願(出願されたすべての特許で中には審査で特許権にならなかったものも含まれる)された公開特許を対象としています。特許は基本的には出願から1年6か月後に公開となりますが、例外的に早期に公開される場合もあります。
<方法等>
・商用知財DB『NRIサイバーパテントデスク2』を使用して出願データの抽出を行いました。
・会社名としてUnited Parcel Service 、Deutsche Post、FedEx等で検索しており、関連企業(FedEx Corporate Services, Inc.)などの出願も含んでいます。
・表2~4:公開特許公報を筆頭IPCのサブクラスを分野コートとしています。

(この記事は2021年3月2日の情報をもとに書かれました。)

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