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【物流AI/DX】自動運転車は物流業界をどう変えるか?

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シニア・コンサルタント

宮里 隆司

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はじめに

日本でも自動運転車という新しい市場が少しずつ成長を続けています。おそらくそう遠くない将来、完全自動運転車をめぐる市場の大きな波が日本に襲いかかってくることは確実です。完全自動運転車は既存の物流業界を破壊する可能性があり、事前に予測して準備を進めておく必要があります。そこで、本稿では、まず自動運転車をめぐる現在の競争状況についてそのごく一部を紹介するとともに、日本の物流業界で完全自動運転EVトラックの導入は急速に進むのかという点を検討していきます。さらに、完全自動運転EVトラックが二つの段階を踏んで導入されることを示し、特に第二段階で既存の物流業界が破壊される可能性があることについて説明していきます。

激化する自動運転車の市場競争

自動運転車をめぐる開発競争が激しくなっています。ホンダは2020年11月に自動運転レベル3型式指定を国土交通省から取得しました。このレベル3とは条件付き自動運転が可能となる性能レベルです。つまり、原則としてシステムが運転を行いますが、システムでは対応できない事態が発生した場合は人間が介入する必要があるという性能レベルのことです。これがレベル4となると事前に決められたエリアのような特定条件下において完全自動運転が可能となります。さらにレベル5ではあらゆる場合にシステムが運転を行う完全自動運転が可能です。

今後、レベル4、レベル5の自動運転車をどの企業が市販するのか大変注目されます。そして、その動向を予測するのに参考となるデータが自動運転車の公道での実走行データ量です。この点、ホンダの自動運転車は日本の高速道路において実走行データ量約130万kmを記録しています。海外の先行している自動運転車開発メーカーについても実走行データ量を見てみると次のようになります。まず、グーグルを傘下に持つアルファベットの子会社であるウェイモの自動運転車は2020年1月時点において公道で約3,200万kmの実走行データ量を記録しています。さらにテスラの自動運転車は2020年4月時点において公道で約48億kmの走行データ量を記録しています。走行データ量だけを見るとテスラはウェイモの約150倍、ホンダの約3,700倍となります。いずれにしても他の自動運転車開発メーカーを含め、今後市場における競争はいっそう熾烈となることでしょう。

さて、自動運転車という新しい市場が立ち上がりつつあるわけですが、レベル4、レベル5の完全自動運転車をめぐる市場の大きな波がやがて日本にも襲いかかってくることは確定的です。そこで、この波が物流業界をどう変えていくのかあらかじめ予測しておく必要があります。

物流業界で完全自動運転EVトラックの導入は進むか?

ここで、自動運転車(特に完全自動運転EVトラック)が日本の物流業界でどのように導入されるかという予測について、考え方は大きく二つに分かれます。第一の考え方は消極的なものであり、完全自動運転EVトラックが日本の物流業界に導入されるのは欧米に比べてはるかに遅くなるという予測です。その根拠となるのが日本の物流業界における標準化の遅れや積み込み・積み下ろしをドライバーが無料で行っている慣行の存在です。こうした特殊事情がクリアされなければ簡単には導入はできないというわけです。

第二の考え方は積極的なものであり、欧米に比べ多少の遅れはあっても急速に日本の物流業界への導入が進むと考えます。その最大の根拠は物流コストが圧倒的に引き下げられていく可能性があるからです。仮に完全自動運転車の導入で輸送コストが現在の5分の1に引き下げられたとすると、利用を検討しない荷主は少ないのではないでしょうか。

では、なぜ物流コストが圧倒的に引き下げられるのかという点ですが、自動運転EVトラックの製造コストが驚異的なスピードで低下していくからです。なお、この点の詳細は別のブログ記事(【物流AI/DX】戦略的DXで激変する未来の物流~動く倉庫)で書いていますのでそちらをご参照ください。

完全自動運転EVトラックは既存の物流業界を破壊するか?

第二の考え方に立ち、欧米に比べ多少の遅れはあっても急速に日本の物流業界への導入が進むと考えた場合、その結果としてどういったことが起こってくるのかについて次に検討してみます。

導入が始まった当初は従来の「人が運転するトラック」を完全自動運転EVトラックに置き換えるといった使い方が主流となるでしょう。その場合、従来の業務の進め方が大きく変わることはなく、運用の対象が完全自動運転EVトラックに置き換わるだけにとどまります。このような段階を第一段階と呼ぶことにします。第一段階での導入目的は「ドライバー不足への対策」がメインとなるものと考えられます。もちろん、完全自動運転EVトラックの価格低下が急激に進んだ場合は、導入目的に「輸送コストの削減」が加わることになります。その場合、価格低下によって削減できたコストは顧客に還元する分を除いた残余が輸送業者の収益となり、その分利益は増加する可能性があります。もっとも、従来の輸送業者にとって競争力維持のためには完全自動運転EVトラックを導入する他に選択肢がなくなり、導入をためらう輸送業者はこの段階でコスト競争に敗れて淘汰されることになるでしょう。

ただ、劇的な変化が起こるのは次の段階です。これを第二段階と呼ぶことにします。第二段階では、従来の業務の進め方自体が激変します。従来、輸送業者が行ってきた「トラックの運用」がシステム化され、自動化されます。その場合のキーワードは「マッチング最適化」と「ルート最適化」です。ここでいうところの「マッチング最適化」とは、荷物と完全自動運転EVトラックとのマッチングのことを指します。ですから荷物の数量や性質、発着地、納期などの要素に加えて完全自動運転EVトラックの効率的な運用といった要素も考慮して特定の荷物に対して最適な完全自動運転EVトラックを手配するという操作が自動化されます。また「ルート最適化」についても、発着地、納期等の要素に加えて完全自動運転EVトラックの効率的な運用といった要素も考慮した最適なルート探索を自動化することになります。しかも、この両者は別々のシステムでなく、相互に密接に連携する一体化したシステムとして構築される必要があります。つまり、一つの「マッチング&ルーティング最適化システム」となっていなければなりません。このような最適化システムを実装するには高度な技術力が必要であり、開発できるベンダーも限られています。当然、熾烈な競争となることは避けられません。

第二段階が第一段階と大きく異なるのは、最適化システムによって従来輸送業者が行ってきた「トラックの運用」それ自体が置き換えられるという点です。これは要するに従来の輸送業者が不要となることを意味します。つまり「中抜き効果」が生じるということです。従来輸送コストを構成していた輸送業者の取り分が中抜きされることで、輸送コスト全体がさらに大きく削減される可能性があります。

完全自動運転EVトラックを運用する最適化システムは別の効果も生みます。それは、従来多数の輸送業者によって行われてきたトラックの運用が、少数又は単一の「完全自動運転EVトラックを運用する最適化システム」によって置き換えられるという効果です。仮にそのような結果となった場合、それは既存の輸送業者のほとんどが淘汰されるということを意味します。このような段階まで達すると、既存の物流業界は破壊され、第二段階を勝ち抜いた先進的な企業によって物流の大半が支配されるようになるでしょう。

まとめ

第二段階がいつ頃現実のものとなるのか、現時点では明確には予測できません。なぜなら本稿では触れていない他の重要な複数の条件も関係してくるからです。しかし、遅かれ早かれ第二段階に移行していくことは確実です。そこで、そうなる前に何ができるか広く情報収集を進め、準備を怠らないことが大切です。

日通総研では情報収集のお役に立てるように、AI化する物流の現在と未来を展望するセミナーから戦略的DXフレームワークを使いこなすためのワークショップまで、様々なコンテンツをご提供しています。無料セミナーもございますので、詳細につきまして下記の窓口よりお問い合わせください。
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(この記事は2021年3月29日時点の状況をもとに書かれました。)

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