【物流AI/DX】陸と空の輸送手段の大変革を理解する2つの視点
はじめに
近い将来、2021年は世界の陸と空の輸送手段の大変革時代に突入した年だったと記録されることになるかもしれません。その大変革のキーテクノロジーは本物のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略において見落とすことができない自動運転技術とロケット技術の2つです。この記事では輸送手段の大変革を理解するために欠かせない2つのDXキーテクノロジーを視点に据えて最新の動向を解説します。
陸の輸送手段の大変革
まず、陸の輸送手段について見てみましょう。2021年中にテスラセミ電気トラックが量産体制に入ることになりそうです。テスラセミ電気トラックは完全自動運転(Full Self-Driving :FSD)機能にアップデート可能な電気自動車(Electric Vehicle:EV)であり、テスラ社はネバダ州のギガファクトリーにパイロット生産ラインを2020年後半に設置しています。予定では2021年にテキサス州のギガファクトリーで量産に移行することになっています。この点についてテスラ社のCEOであるイーロン・マスク氏はメールで、2021年生産というタイムラインに沿って「テスラセミを大量生産する時が来た」と従業員に伝えています。こうした動きを受けて、ウォルマートカナダは130台のテスラセミ電気トラックの購入を予約し、また、トラックリース会社であるプライドグループエンタープライズ社も150台(合計で500台に増やすオプション付き)の購入予約を行っています。
視点1:自動運転技術
テスラセミ電気トラックが輸送手段に大変革を引き起こすだろうと予測するのは、それが単なる電気トラックであるだけでなく完全自動運転(FSD)機能にアップデート可能だとされているからです。テスラ社の完全自動運転(FSD)機能は2020年10月から一部のテスラ車ユーザーにベータ版として配布され、公道での実運転がスタートしています。ベータ版の修正が進んでおり、2021年中には正式版がリリースされる予定です。
ところで自動運転技術は他のメーカーも競って開発を行っているはずです。にもかかわらず、それらの企業と比べてテスラ社の技術が先行していると判断できるのには理由があります。この点を理解するためには自動運転技術の心臓部であるAIの特性について知っておく必要があります。
自動運転技術に使用されているのは深層強化学習というタイプのAIです。深層強化学習タイプのAIは、まるで子供が歩き方を覚えるように自ら試行錯誤しながら正しいやり方を発見して成長していきます。自動運転車の場合は様々な条件の下で走行体験をさせることで、より汎用性の高いAIに成長していくことになります。もちろん、その体験はシミュレーションでもある程度可能です。しかし、公道での自動運転の実用化を目指すならば、実際の公道において発生するあらゆるケースを可能な限り豊富に体験させなければなりません。その意味で、最終的に性能を決める要素は実際の公道での走行データ量ということになるのです。
では、テスラと競合他社との走行データ量の差はどれくらいあるのでしょうか。例えば、グーグルの持ち株会社であるアルファベット社が支援しているウェイモ社の自動運転車は公道で合計2,000万マイル(3,200万km)の走行データ量を記録しています(2020年1月時点)。これに対して、テスラ社の自動運転車は公道で合計30億マイル(48億km)の走行データ量を記録しました(2020年4月時点)。単純に比較するとウェイモ:テスラ=3,200万 km:48億kmですから、その比率は1:150ということになります。つまり150倍の公道走行データ量の差があるわけです。これだけ走行データ量に差があると生成される深層強化学習AIの性能差はもはや容易には追いつくことができないレベルになっていると考えざるを得ません。これが、競合他社に比べてテスラ社の自動運転技術が先行していると判断する理由です。なお、テスラ社の自動運転(FSD)技術については下記のURLから実際の走行動画を見ることができます。
Full Self-Driving
https://www.youtube.com/watch?v=tlThdr3O5Qo
陸の輸送は無人の自動運転トラックによって激変する
陸の輸送手段が完全自動運転可能な電気トラックに置き換わる時期はもはや目前だといえましょう。しかも、完全自動運転(FSD)機能の正式版がリリースされ、テスラセミ電気トラックの完全自動運転(FSD)機能がアップデートされると陸上のトラック輸送は激変することが予想されます。従来のような労働集約型の輸送ビジネスは成立しにくくなり、これまでトラック輸送にあまり縁のなかった資金力のある企業が完全自動運転可能な電気トラックを大量に購入して輸送ビジネスに参入してくる可能性があります。もちろん、日本では積卸等がトラックドライバーにより行われているケースが多いという特殊事情があります。そこで、諸外国と比べると変化のタイミングは遅くなる可能性はありますが、変化の波にいつまでも抗うことは不可能です。遅かれ早かれ、陸上のトラック輸送ビジネスは激変することになるでしょう。
空の輸送手段の大変革
陸上輸送だけでなく空の輸送手段についても大変革が目前に迫っています。従来、空の輸送には航空機が利用されていました。しかし、空の輸送手段の主力として弾道飛行をするロケットが活用される可能性が高くなっています。具体的にはスペースX社が開発を進めているスターシップという何度も再利用可能な宇宙船が空の輸送手段の主役として躍り出てくると予想されます。ちなみに「宇宙船」といっても国際宇宙ステーション(ISS)や火星などへの宇宙開発用途だけでなく、弾道飛行による大陸間輸送も重要な用途として想定されています。実際、米軍は2020年10月にスペースX社と契約を締結し、スターシップを高速貨物輸送機として使用する構想の実現に動き出しています。スターシップを貨物輸送機として使用した場合、地球上のあらゆる地点に数分から1時間程度で貨物を輸送できることになります。しかし、重要なことは輸送時間の短縮だけではありません。
視点2:垂直離着陸可能なロケット
米軍がスターシップに目を付けたのは、ロケットタイプの高速貨物輸送機は滑走路が不要のため、どこでも垂直離着陸が可能であるからです。これは物流にとって極めて重大なポイントです。従来の航空貨物輸送では航空機を使用するために広大な滑走路が必要でした。そのため、輸送拠点となる空港の立地には厳しい制限があったわけです。当然、航空貨物代理店の施設も空港の近くに設けられ、輸送ネットワークが構築されていました。そのことは荷主の工場等との間にかなりの距離ができ、時間をかけてトラック等により空港まで輸送する必要があることを意味します。しかし、もし垂直離着陸が可能な高速貨物輸送機が実現するならば大変魅力的な選択肢となるはずです。仮に高度な安全性の確保などの課題がクリアできるならば、垂直離着陸可能な高速貨物輸送機は荷主の工場等から目的地まで直接かつ極めて短時間で輸送できる手段と成り得ます。その場合、荷主の工場等の敷地内に離発着場を設置すればよく、必要な面積は航空機の滑走路と比較して著しく小さくて済みます。
スペースX社の現在の計画では、このタイプの再利用可能な宇宙船(高速貨物輸送機)を当面約1000機製造し、各機1日3回の運用を想定しているとのことです。ちなみに機体は直径9m、全長50mで1機の輸送力は1回の飛行で約100トンとされています。仮に、すべての機体を高速貨物輸送機として使用したとすると、1日あたり30万トン、年間1億950万トンの貨物がスターシップによって輸送されることになります。
スターシップの開発状況
2020年11月にスターシップの初号機(SN8)の機体テストが開始し、継続的に各種テストが実施されています。下記のURLから初号機のテスト動画を見ることができます。
Starship | SN8 | High-Altitude Flight Recap
https://www.youtube.com/watch?v=_qwLHlVjRyw
動画の機体はランディング時にヘッダータンクの圧力不足で不完全燃焼が発生し、減速が足りずに衝突炎上していますが、初号機では主に機体マヌーバのテストデータ取得が目的となっていましたので、その点では成功と評価されています。機体テストは間を開けずに次々と実施されており、2020年1月時点で2号機(SN9)は既に発射台にセットされ、3号機(SN10)も製造がほぼ完了しています。ちなみに、垂直着陸技術自体は同社のファルコン9シリーズで既に完全に確立され実用化されています。その動画は下記のURLから見ることができます。
Falcon Heavy Test Flight
https://www.youtube.com/watch?v=wbSwFU6tY1c&t=111s
なお、スターシップの機体はスペースX社のBoca Chica発射場(テキサス)に併設されている工場で既に量産体制に入っています。
まとめ
これから陸と空の輸送手段の大変革がどのように進行していくのか、DX戦略における2つのキーテクノロジーの動向からは目が離せません。当ブログでも継続的に動向をフォローしていく予定です。また、こうした大変革に対して日本の企業がどのように対応していけばよいか、AI/DX戦略コンサルティング部門がアドバイザリーサービスをご提供しておりますので、どうぞご利用ください。ご相談は下記のURLからお問い合わせいただきますようお願いいたします。
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(この記事は2021年1月6日時点の状況をもとに書かれました。)
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