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来るべきスマートシティ時代に向けて物流業界が備えるべきこと

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リサーチ&コンサルティングユニット1
ゼネラルマネージャー

小林 知行

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いよいよ本格化してきたスマートシティ構想の策定

昨年2019年6月に内閣府に設置された総合科学技術・イノベーション会議が推進者となり、「統合イノベーション戦略2019」が取り纏められました。そのポイントのひとつ目には、「Society5.0の社会実装(スマートシティの実現)」が掲げられており、実現手段として、「政府一体の取組と本格的実施」「官民連携プラットフォームの創設」「スーパーシティ構想の実現」の3点が挙げられています。また、2020年5月27日には、国家戦略特別区域法の一部が改正され、スーパーシティ構想を実現するための制度上の整備が行われています。

スマートシティとは?

ところで、スマートシティとは何で、そこではどのようなことが出来るようになるのでしょう。日通総研が調査したところによると、その要件は①様々なセンサを都市内に設置してデータを収集すること、②収集したデータを分析して示唆を得ること、③得られた示唆に基づいて車両、電力、サービスなどを制御すること、の3点となります。ただし、これらの要件をひとつでも満たしていればスマートシティの事例として紹介されているなど、その定義は流動的ではあります。

スマートシティを支える様々な技術

スマートシティ構想を実現する際の検討ポイントとして、「技術オリエンテッド志向ではなく、イシューオリエンテッド志向で」といったことがよく言われます。つまり、技術ありきで商品・サービスを開発するのではなく、社会課題を解決するという大目的を忘れるな、ということですね。一方で、出来ることをある程度理解していなければ、これまで諦めかけていた課題への対処に向けたアイデアが出てくることもないでしょう。ここでは、各企業が公開しているスマートシティを支える技術をいくつかご紹介します。

スマートシティでは、様々なセンサからデータが大量に伝送されることとなり、これまでの通信方式では、消費電力の増大、通信速度の限界などの課題が生じてきます。NTTグループでは、「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想」を掲げ、これらの課題解決に向けた取組みを進めています(図1参照)。IOWNとは、あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、多様性を受容できる豊かな社会を創るため、光を中心とした革新的技術を活用し、これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想です。IOWNは、フォトニクス(光)ベースの技術を導入することで、現在のエレクトロニクス(電子)ベースの伝送に対して、電力効率を100倍に、伝送容量を125倍に、エンド・ツー・エンド遅延を200分の1にすることを目標とした「オールフォトニクス・ネットワーク」、従来は自動車、ロボットなど個々の対象に限定されていたデジタルツインの枠組みを、都市空間、交通環境にまで拡張する「デジタルツインコンピューティング」、無線、通信機器などのICTリソースを全体最適に調和させ、必要な情報をネットワーク内に流通させる「コグニティブ・ファウンデーション」の3つの主要技術分野から構成されています。NTTグループでは、2024年の仕様確定、2030年の実現をめざして研究開発を始めており、2021年よりリファレンス方式の策定を行い、IWON構想の推進に向けた業界フォーラムであるIWON Global Forumへの提案と仕様整備を進めていくこととしています。

図1.NTTグループが提示するIOWN構想の概要

図1.NTTグループが提示するIOWN構想の概要

出所)NTTグループ 研究開発ホームページ

また、スマートシティでは様々な事業者がセンサなどで取得したデータにアクセスし、消費者の利便性を高めるサービスを提供するようになるでしょう。NECでは、顔や虹彩などの生体認証を共通IDとして、複数の場所やサービスにおいて顧客へ一貫した体験を提供するコンセプトとして、「NEC I:Delight」を掲げています。その利用手段として、空港でのチェックイン・保安検査、宿泊施設でのキーレスエントリー、小売店舗での決済、オフィスへの入退室などが挙げられています。なお、南紀白浜空港及びその周辺施設において、関係各社と共同でこれらのサービスの利活用を既に実現しています(図2)。

図2.南紀白浜空港における顔認証技術の活用事例

図2.南紀白浜空港における顔認証技術の活用事例

出所)NEC社ホームページ

物流業界が備えるべきこと

これまでご紹介してきたスマートシティ構想が具体化してくる場面においては、「移動(モビリティ)」が大きな役割を占めており、交通と併せて物流は主要なサービス提供者として想定されています。例えば、各種センサ情報に基づいて制御された自動運転車両が街なかを走る世界はもうすぐです。また、トラックには積載量を感知するセンサが搭載され、ユーザーの位置情報とのマッチングによるオンデマンド集荷・配達も可能となるでしょう。種々のハードルがあるものの、他業界と同じく物流業界も、必要に応じてサービスを提供する「XaaS(アズ・ア・サービス)」型の業態に向けて変化していくと考えられます。

物流業界は、この流れの中でどのように適応していけば良いでしょうか。単純化すると、物流業界は「空間+時間」を売る商売です。例えば、海上輸送では20フィートコンテナ1本という「空間」を何日で届けますという「時間」を約束することで、倉庫においては、1坪という「空間(正確には平面)」において何時までの注文を何時までに出荷しますという「時間」を約束することで、陸上輸送では10トン車という「空間」をどの程度走らせるかという「距離」を約束することで、料金を収受しています。これらサービスの顧客利便性を志向した結果、海上輸送ではLCL、倉庫では個建制料金、陸上輸送では特積運賃などの料金体系が生まれました。つまり、スマートシティ構想以前より、物流業界では既にXaaS化の取組みを行ってきているのです。

物流業界のプレーヤーは、今後原価を構成する要素である「空間」と「時間」をより精緻に把握したうえで、新たな技術の実現時期を睨みながら導入スケジュールを見極め、それぞれのシナリオにおける原価構造を考慮したサービス開発と、適切な利益を確保する料金体系の設定が必要となります。原価把握に向けた空間稼働率の可視化、業務量調査に向けた検討がご入用の際は、ぜひとも日通総研にお声掛けください。

(この記事は2020年9月25日時点の状況をもとに書かれました。)

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