アサーション:物流現場でも使えるコミュニケーションスキル

今回は、物流案件を推進するプロジェクトマネージャーやそのメンバーが身に着けておきたいアサーションに触れてゆきます。本スキルは、先月私が公開したブログのプロジェクト・マネジメントに関連するスキルで、ヒューマンスキル/コミュニケーションスキルと考えて頂くのが良いと思います。
アサーションを簡略に説明しますと、「自分も相手も大切にする自己表現」で「自分の考え、欲求、気持ちを、率直に、その状況にあった適切な方法で伝えるスキル」となります。その結果、良好な人間関係を構築することが期待でき、更なる円滑なコミュニケーションへと繋がります。作業指示、状況報告、他様々な物流現場でのコミュニケーションシーンで大変役立つスキルです。
物流現場で次のようなコミュニケーションシーンに良く遭遇しませんか。
- 何度伝えても直らない部下の行動を改善したい!
- 年上の部下など、難しい関係性の相手に改善を促したい!
- 上司(マネージャー)に対し現場状況を進言したい!
「そうそう、ありますね」と同調される方も多いのではないでしょうか。以下にて、このような場合に備えてアサーションを見て行きましょう。
1.アサーション/アサーティブとは:
「自分も相手も大切にする自己表現」と言う点をもう少し踏み込んで見てみると、アサーションは、元々は弱い立場にある人々が自分たちの立場を回復する状況の中で必要となり洗練されてきた自己表現スキルと言えます(下述)。
自分が言わずにストレスをため込むことでもなく、また言いたいように言って相手にストレスを与えるわけでもない、自分も相手も尊重する態度に支えられたコミュニケーションです。コロナ禍でオンラインコミュニケーションの活発化、最近は出社に戻りリアル会議の頻繁開催、そして、ダイバーシティ上の多様なコミュニケーションが発生することで、アサーション/アサーティブであることが注目されています。 遡ると、アサーション/アサーティブであることが世に登場した背景は、アメリカで1940年代後半から心理療法の一つとして開発され、そして1970年代にかけて起こった権利運動と絡み、当時、アフリカ系アメリカ人が自分たちの主張を伝える手法として徐々に浸透し始めたと言われています。日本では1980年代半ば頃から注目され、現在ではビジネス上で幅広くそのコミュニケーションスキルが注目されています。
2.コミュニケーションの3タイプを知る:
アサーションのスキルの話に入る前に、まずはコミュニケーションのタイプを知ることがとても大切で、大きくは下記の3タイプに分類されると言われています。
アグレッシブなタイプ(攻撃的):
このタイプ(相手の気持ちをあまり考えず、自分の主張を押し通す)は他者への配慮や思いやりに欠けるため、リーダー(親分・兄貴)として慕われることもありますが、人間関係のトラブルを起こしやすい少し危険なコミュニケーションタイプです。会話上で後味の悪さを残すことがあります。
ノン・アサーティブなタイプ(受け身的):
他人に気を遣いすぎて自分の考えは二の次になり、そして自分の意見を押し殺し、相手の意見を尊重しがちなタイプです。ですので、ストレスを溜めることもあります。また、良く言えば調和型な人とも言えますが、人に都合よく使われてしまうこと、問題の先送りやエスカレーションにつながります。
アサーティブなタイプ(相互尊重的):
主張を押し通すわけでもなく、かといって自分の意見を押し殺さず、適切に相手に伝えることができるタイプです。バランス感覚があり、その状況に応じた相応しいコミュニケーション方法をわきまえています。本題のタイプで、すがすがしく会話ができ、そして信頼関係の構築につながります。
コミュニケーションタイプに関しては、我々日常では意識していないかもしれませんが、各タイプ(相手)があることを知っていると、アサーティブなコミュニケーションを行う時に自身の気持や準備に幅が出来ると思います。また、相手をはじめから「~~なタイプだ!」と決めつけてしまう事は望ましくありません。一方、最終的にはアサーティブなタイプが相応しいですが、相手との会話上すぐにここに辿り着かない場合もあります。状況により分かった上で自分が少しアグレッシブに出た結果、これはマズイと感じ、アサーティブに辿り着くことも十分想定出来ます。
3.アサーションの基本的な流れ:
アサーションの会話の組み立て方やポイントは以下となります。
何が起きていて、自分はどう感じ、どんな変化を望むのか、胸のうちを丁寧に言葉にすることです。
事実を伝える:
曖昧に済ませない様に、客観的に事実や状況を説明/描写する。
説明する/感情を伝える:
状況や相手の行動に対する自分の率直な気持ちを、相手が受け止めやすいよう対等な態度で表現する。正に会話のキャッチボールです。
解決策を提案する:
相手に望む行動、妥協案、解決案などの提案をする。
結果(After)を提示する:
要求・提案に伴う(相手が受け入れてくれる)上での結果を述べる。
これらは、アサーションをより効果的に実践するための流れで、心理学の専門家により提唱されてきました。
4.実践事例:
我々物流事業者、これから4月までは引越しのシーズンです。その作業シーンを例にフレームワーク(言葉にするポイント1~4)に沿って簡単に見てゆきたいと思います。
【状況:リーダーBさんの悩み】
Bさんは、年上のメンバーAさんのことで、少し頭を悩ませています。Aさんはベテランで経験も豊富、引越作業上のスキルも高い方なのですが、時々荷扱いが雑になる傾向があります。昨日BさんはAさんと同じ場で引っ越し作業を行っていましたが、Aさんの引っ越し作業を見て、スピーディーに作業を行っていましたが、お客様の大切な家財が入った梱包箱を落としてしまいそうなシーンがあったので、とてもヒヤヒヤしました。
Bさんは、このままにしておく事は良くないと思い、意を決めて話し合うことにしました。
【前置き表現】
些細なことだろうけれども大事だと思うので言わせて頂きたい・・・
今まで言わずに来て今更で申し訳ないのだけれど・・・
【本題】
1:事実
「例:Aさん、昨日一緒に引っ越し作業をしていた時、もう少しで梱包箱を落としそうな瞬間がありましたね!」
2:感情
「例:隣で見ていて、ヒヤヒヤしました。お客様の大切な家財が入った梱包箱を破損してしまわないか心配です!」
3:要求・提案
「例:丁寧な荷扱いを行う為に、改めて一緒に作業手順書を復唱しても良いでしょうか!」
【締め括り】
4:結果
「例:そうしていただけますと、安心してAさんに引越し作業をお願い出来ます!」
*以上、作業上の想定シーンで見てみましたが、コミュニケーションの伝達イメージを抱いて頂けましたら幸いです。
アサーションは業務上のコミュニケーションではもちろんですが、業務に関わらず対人的なコミュニケーション全般で有用なスキルと考えられます。我々も、ビジネス上・社会生活上、様々なシーンで活用して行きたいと思います。
最後にお伝えしたいことは、注意点となります。
見てきました通りアサーションの本質は状況に即した自己表現ですが、攻撃的や直接的な伝え方では相手を傷つけることに繋がりかねません。なので、時と場合によっては自身の意見を伝えないことが良いこともあるのです。また、あくまで「自身の意見を伝える手段」なので、その意見を認める・認めないも相手方の自由です。そこを否定しては、アサーションの本質である、相手の立場や価値観の理解には至らないことを知っておく心の余裕は持っておきましょう。そして、1回目で難しい時は、それ以上は続けずに、タイミングを改めて「実は先回の話なのだけれど!」と相手の変化も期待して、辛抱強く続けてみましょう。
(この記事は2025年2月5日時点の状況を基に書かれました。)
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