GAFAに飲み込まれるな!ドイツ・ロジスティクス業界の選択
BVLカンファレンス・レポート
2018年10月17日~19日の3日間、ドイツの首都ベルリンでドイツ・ロジスティクス協会(BVL)の年次カンファレンス「35th International Supply Chain Conference」が開催されました。3年連続で参加した坂東がその内容をご報告いたします。
皆様、最後に本屋に行ったのはいつですか?「最近は電子書籍ばかりで本屋に行ってないな~」ということであれば、一度足を運ぶことをお勧めします。ビジネス街に近い書店では目立つコーナーに「GAFA」関連の書籍が山積みしてあることに気づくはずです。GAFAとはGoogle(グーグル)、Amazon(アマゾン)、Facebook(フェイスブック)、Apple(アップル)というアメリカIT企業4社の頭文字を取った造語で、「消費者がGAFAのサービスを利用せず一日でも生活するのは困難」と言われる程、知ってか知らずか生活に浸透している会社のサービスになります。もちろん筆者もこの4社のサービスにどっぷり漬かった毎日を過ごしております(笑)
で、ここが一番大事なのですが、消費者が毎日利用することにより、GAFAも毎日膨大な量のデータを収集しています。物流業界の人間としては、4社のうち「アマゾン」は業界への影響度が著しく高いので、しっかり理解しておく必要があります。参考図書として元マイクロソフト社長の成毛眞氏著「amazon 世界最先端の戦略がわかる(ダイヤモンド社)」は非常に分かりやすくまとまっており、一読をお薦めします。尚、筆者には1円も入りません(泣)
写真1:BVLカンファレンス会場
プラットフォームの戦いへ
さて、今年も初秋のベルリンに弾丸出張、筆者のBVLカンファレンス参加も3回目になります。今年も様々なトピックが討議されましたが、一番重要なポイントだと感じたのはタイトルにもした「GAFAに飲み込まれる!」というドイツ・ロジスティクス業界の危機意識でした。過去2回は物流のデジタル化が大きな柱で、今年もそれらのアップデートが聞けると思っていました。また日本で9月に開催された「国際物流総合展2018(9/11-14 @東京ビックサイト)」でもデジタル化、自動化がかなり進んでいたので「日本もだいぶ欧州に追いついたかな~、比較できるな」とも考えていました。ところが、今年は「標準化、自動化、デジタル化は欧州ではもう当たり前の話。それよりプラットフォームでゲームのルールが変えられてしまう!」でした。
BVLに限らず国全体が絡むような業界団体の会合では得てして仮想敵国があり、過去2年はアメリカのシリコンバレーがその対象でした。今年もアメリカですが、プラットフォームを支配するGAFAに対象が変わりました(但し、GAFA 4社のうち3社はシリコンバレーに本社があるんですけどね)。演説にでてきた複数のドイツ政府の高官も“対アメリカ”の話ばっかり。日本の話が一切出てこないのは一抹の寂しさもありましたが…。
当社も顧客に向けて物流の標準化、IT化、デジタル化、プラットフォーム化について度々レポートを出しています。
①データを大量に収集する
②データを分析する
③分析結果をリアルタイムで活動に反映する
④このサイクルを繰り返す
上記①~④によりサプライチェーン全体を圧倒的に効率化し短くする、という概念はお客様に理解して頂けるようになってきました。また「自社だけでなくサプライヤーやお客様のデータ、競合他社のデータ、競合のサプライヤーのデータなども収集できれば、精度が増して業界全体にとって良くなるよね!」という概念も理解されつつあります。そのデータを集めて分析する「場」がプラットフォームです。
BVL(=ドイツ・ロジスティクス業界)およびドイツの産業界が言うには、「急成長しているイーコマース(EC)を含むB2CのプラットフォームはGAFAに完全に牛耳られてしまった。B2Bは死守したい。ドイツ発のプラットフォームが必要だ。」 そこで出てきたのが「International Data Space(インターナショナル・データ・スペース、以下IDS)」です。IDSはGAFAのように特定の私企業が提供するプラットフォームではなく、官民と言っていいのか分かりませんが複数参加の団体が運営するオープン・プラットフォームです。「皆でIDSに参加して、アメリカに牛耳られずにロジスティクス4.0を目指そう!」というのが今回のメッセージだったと筆者は解釈しています。余談ですが「ドイツ発のプラットフォームが必要だ」と言っておきながら名称に「インターナショナル(国際)」が付くとは…。ジョークかと思いましたが、まあ名称はスルーしましょう。
しかし困難はここからで「言うは易く行うは難し」 データは多ければ多いほど全体が効率化するという「論理」は分かるのですが、参加を促されている中小企業からみれば「ウチのデータが競合に見られてしまうのでは?」や「結局は強い大手企業がデータを独占し、我々にコストダウンを押し付けるのでは?」など個別企業にメリットがあるのか疑心暗鬼になっているのです。そもそもIDSを活用したロジスティクス4.0の世界が来れば「ウチは淘汰される…」と考えている企業もいます。まさに「総論賛成、各論反対」いくつかのセッションでも討議が白熱しました。ドイツの中小企業メーカーを説得し、IDSへの参加を募って、プラットフォームを構築・拡大していく、というのが今後1~2年ドイツ産業界の重要な課題となりそうです。しかしながら産業の構造が大きく変わる場合、大きな痛みが発生するのが常なので、どうなるでしょうか。日本はドイツと産業構造が比較的似ているので、この動きは参考になると思います。
写真2:IDSのサイト画面
消費者を掴むGAFAの強み
最先端物流技術の調査でドイツとアメリカを見ていていつも感じるのは、ビジネスモデルやプラットフォーム構築の発想が、ドイツは供給側(上流・メーカーなど)、アメリカは需要側(下流・消費者)からであることです。GAFA、特にアマゾンは消費者にいかに便利かを究極的に考えて今のプラットフォームを作り上げ、膨大な消費者のデータを有していますし、アメリカのロジスティクス協会であるMHIもレポートの中で「2030年の消費者とその行動から“逆算”して必要なロジスティクスは何か」と訴えています。
B2B、例えばドイツが強い自動車産業ですが、多くの場合最終的には消費者が車を買うわけです。あるモデルの車が人気出そうという予測が立てば、逆算してサプライチェーン全体(部品の調達まで)を同じプラットフォーム上で手配した方が便利で効率的、という考えは当然でてくるでしょう。超高級品や希少品を除けば、消費者の志向データを握っているアメリカの方に分があると筆者はみています。
しかしGAFAが強くなりすぎるのも困りもの。そのうちスタンダード・オイル社みたいに政府に分割される(20世紀初頭、大きくなりすぎ寡占状態になったことから、アメリカ政府により分割された石油会社)などという希望的観測も巷にはあるようですが、今はこのトレンドを理解して、自社の経営の舵取りを行う段階でしょう。
オマケ
ドイツ対アメリカの戦い。ドイツがアメリカに絶対に勝てるもの?やはりコレでしょう!(筆者の個人的意見です…。)
写真3:ドイツビール
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