IoT・AI技術活用製品にあふれていたIFA2016
日通総研ニュースレター ろじたす 第18回ー②
【News Pickup】ドイツ・ベルリンで見てきた最先端家電、これからの物流分野に変化をもたらすかも?
9月2日~7日の日程で、メッセ・ベルリン(ベルリン国際見本市会場)において開催された「IFA2016」に参加してきました。IFAとは、ドイツ語のInternationale Funkausstellungの略で、「国際コンシューマ・エレクトロニクスショー」と訳されます。EUエリア最大の家電見本市で、主にデジタル家電および白物家電メーカーがその新製品を世界へ向けて一斉に発表する大規模イベントです。今回は、その内容をご報告したいと思います。
IFA第1回目の開催は1924年にまで遡り、1940年代には戦争により一時中断されたものの、約90年に亘り開催され続けてきた歴史ある展示会です。
写真1:会場案内
写真2:会場外観
昨年のIFA2015では、世界各国から1,645社が出展し、来場者数は24万人を超えましたが、今年はその規模を上回る1,827社が出展登録をしていました。会場であるメッセ・ベルリンは、ベルリン中心部からS-Bahn(地上鉄道)またはU-Bahn(地下鉄)に乗ると約30分で到着しますが、開催期間中はまるで日本の通勤ラッシュのように電車内が混雑します。今回IFA2016に出展された商品の内訳を見ると(表参照)、情報通信システム、オーディオ機器、PC、小型家庭用機器に続き、昨今のIoT開発の流れを受けてスマートホーム商品の出展登録数が上位に位置していることがわかります。特にSiemens、BOSCH、Philips、Samsung等のトップ企業による出展は、展示規模が逸出しており商品の種類も多岐に渡るため、ニュース等で大きく取り上げられることから、展示会の様子をご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
表:IFA2016ヴェブサイト公開情報より作成(上位10グループ抜粋)
さて、今回のIFA2016の特徴のひとつとして、各社の出展商品の多くが「インターネットにつながる家電」「IoT」を売りにしていることが挙げられます。家庭内の様々な生活機器や設備をPCと同じようにインターネットに接続し、ネットワーク化してコントロールすることで、より高い効率性、利便性、安全性を実現する「スマートホーム」商戦がEUエリアにおいて活発化していることが感じられます。欧米と比べてコンパクトな間取りの集合住宅が多い日本では、住宅の電気設備に手を加えることはもちろん、新たに購入した家電に合わせて棚や仕切りを作ったり、自ら住宅を修繕したりすることに関してはあまり馴染みがなく、そのため後から生じるメンテナンスコストに対して抵抗感が大きいですが、住宅事情の異なる欧米諸国においては、一般住宅の「スマートホーム」化への障害・抵抗感が少ないであろうことが理由の一つとして推察できます。
ドイツ企業の中でも有名なBOSCHとSiemensは、今回の出展企業の中で一際「スマート家電」に力を入れていた企業であると言えます。そもそも、両社はスマート家電のプラットホームを展開するために、「BSH Bosch und Siemens Hausgeräte GmbH」という折半出資の合弁会社を立ち上げた経緯があります。同社は現在BOSCHの完全子会社となってはいますが、BOSCHとSiemensという2大メーカーは現在も「Home Connect」というプラットホーム展開において連携し、新たな「スマート家電」を続々と開発しているのです。この「Home Connect」では、冷蔵庫、洗濯機、IHクッキングヒーターのような大型の製品から、コーヒーメーカー、アイロン、掃除機、照明機器のような小型の製品に至るまで、すべてインターネットに接続、スマートフォンやタブレットからモニター・操作できるIoT機器として展示されていました。さらに、ユーザーがスマート家電群をより効率的かつ快適に活用するために、AIを備えた“パーソナル・キッチン・アシスタント”「Mykie」のサポートを家庭に取り入れるというビジョンも示されていました。冷蔵庫内の食材を管理する機能と、Amazonのシステムを連携させることで、不足している食材をAIがネットで注文するというシナリオも近い将来に充分実現可能なものとしてとらえられていたことが印象的でした。
写真3:Home Connect 展示ブース1
写真4:Home Connect 展示ブース4
他社の展示でも、Sonyの“Future Lab Program”「T」は、家庭のテーブルや物体の上に投影された映像を、指などで直接操作することができ、より直感的にスマート家電やPC等をコントロールすることが可能になるシステムのプロトタイプで、一般ユーザーの生活とIoTの親和性を高める試みでした。また、Samsungのタッチディスプレイ付き冷蔵庫「Family Hub」は、冷蔵庫を生活のハブとして位置付け、冷蔵庫の扉に埋め込まれたタッチディスプレイを通じて、他のスマート家電や映像データ等へのアクセスを可能にする製品でした。
写真5:“Future Lab Program”「T」
写真6:Family Hub
このように住宅単位で「IoT」を大胆に実現する製品が多く出展されていたのが今回のIFA2016の特徴であり、近い将来このような「スマートホーム」がユーザーの家庭生活に変革をもたらし、ひいては消費・購買行動にも影響を与え、さらにサプライチェーン全体へと波及することを予感させるものでした。
「スマートホーム」以外では、ビジネスユーザーと一般ユーザー双方に向けて、大小のドローンやVR(バーチャルリアルティ)ヘッドセットが多数出展されていました。このVRヘッドセットは、各社のプロモーション用VRコンテンツを来場者に体感してもらうための機器としても展示スペースに設置され、来場者が長い行列をなしており、これも近年の展示の特徴と言えます。
写真7:INSPIRE
写真8:VR展示の様子
また、通常の展示とは別に、9月5日・6日の2日間は“Next Level of Thinking”をテーマとして、有識者によるプレゼンやトークセッションで構成される「IFA+Summit」が開催され、私は5日の前半のみ参加してきました。
冒頭のオープニングスピーチでは、フランスのデジタル・イノベーション担当大臣であるAxelle Lemaire氏が、「EU経済の衰退を防ぎ、より成長していくためには、スタートアップ企業を推進し、活性化させることが重要である」と述べ、その後のセッションでも挑戦的・意欲的なプロジェクトや商品の発表が相次ぎました。 ベルリン工科専門大学のManfred Hild博士は人型ロボット「MYON」とともに登場し、まるで人間同士のように隣に座ったり立ち上がったりしながら、技術開発の展望についてプレゼンを行い、続くOpen BionicsのSamantha Payne氏は、使いやすく廉価で、かつ年少ユーザーにも装着抵抗感の少ないスタイリッシュな(コミックや映画のヒーローの腕そっくりに模した実用的な)筋電義肢製作のスタートアッププロジェクトについて発表し、会場を沸かせていました。
次に、ブレーメン大学のFrank Kirchner博士からは、パワードスーツの一種であるExoskeleton(外骨格)開発における、アクチュエーターやセンサー技術の最新動向について、そしてSkycartのLukas Wrede CEOからは、ドローンを使ったデリバリーサービスのプロジェクトについて発表がありました。Skycartでは、365日24時間の完全に自動化されたドローンによる安価なデリバリーサービスを実現することを目標としており、現在はアメリカ西海岸・サンフランシスコ・ベイエリアでの実証実験で技術的な課題をクリアしながら、現行の法律や制度の中で如何にそのようなサービスを実現するかをあわせて検討しているそうです。
最後に、パネルディスカッション「IHS Technology Panel」では、主に自動車の自動運転について、有識者による議論が交わされました。具体的な自動運転の事例として、パネリストの一人でもあるNVIDIAのSerkan Arslan氏から、同社が制御システムの開発に携わった、オランダの「Wepod」が紹介されました。この「Wepod」は6人乗りの自動運転(レベル4)電気自動車システムであり、公道(オランダ中部、ヘルダーラント州)を実際にシャトルバスとして走行していることから、同社ではこれを「世界初の自動運転自動車」であると称しており、世界的に注目を集めています。この「Wepod」は完全な自律走行を実現するために、周辺環境の変化と画像データを常に取り込み、ディープラーニング・タスクを処理し続けていることから、「走るスパコン」とも呼ばれており、今後旅客輸送以外でも活躍が期待されています。
写真9:IFA+Summitの様子1
写真10:IFA+Summitの様子2
以上のように、IFA2016は基本的には一般消費者向け家電製品の展示会を旨としているものの、ゆくゆくは物流分野へも影響を与えうる要素が随所にみられ、大変興味深く視察を終えることができました。
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