CeMAT Hannoverで見たLogistics4.0
日通総研ニュースレター ろじたす 第16回ー②
【News Pickup】CeMAT Hannoverで見たLogistics4.0
昨年より一層の技術革新が見られたCeMAT2016。 物流にヒトがいらなくなる日も近い?
今年の5月31日~6月3日にドイツで開催されたCeMAT2016を視察してきました。CeMATはドイツのハノーバーを中心に、世界7か国で開催されるマテリアルハンドリングやロジスティクス分野の国際的な展示会です。昨年の5月には、オーストラリア・シドニーで開催されたCeMATに参加し、その様子を「ろじたす」第2号でレポートいたしましたので、今回は本拠地ハノーバーでの様子をレポートしたいと思います。
CeMATに参加するため、3日間ドイツに滞在いたしましたが、到着当夜、レストランに食事に行ったところ、この時期ドイツの春の味覚として有名なホワイトアスパラガスが季節限定メニューとして登場していました。さっそく茹でアスパラガスをオーダーしてみると、太さ1㎝×長さ30㎝弱のホワイトアスパラガスが6本、皿の中央にドンと盛り付けられていて、なかなかのインパクトでした。もちろん、ビールとソーセージもいただき、出張の醍醐味のひとつでもある食事を堪能してから、いざ、展示会に出陣です。
さて、CeMATはこれまでは3年に1度の開催でしたが、今年から隔年開催されることになりました。世界中から1,000社もの企業が出展し、来場者も世界各国から50,000人にも及びます。フォークリフトのような荷役機器の実物展示が多いため、会場の大部分がその類の展示によって占められている一方、IoT(Internet of Things)や自動搬送装置といった新技術も一部で展示されていました。今回のレポートでは、インダストリー4.0、ロジスティクス4.0に関連したIoT、自動搬送装置などの展示内容を中心にレポートさせていただきます。
ロジスティクス4.0について
インダストリー4.0を推し進めるドイツでの開催ということもあり、会場内では「インダストリー4.0」や、インダストリー4.0の“物流版”である「ロジスティクス4.0」という言葉が多く使われていました。ただ、「インダストリー4.0」にしても「ロジスティクス4.0」にしても、“IoTや自動化技術を活用した製造分野・物流分野における変革”というような、漠然とした意味合いの使われ方で、現状ではまだ全容がはっきりしていない印象を受けました。
物流分野におけるIoT活用を考えたとき、温湿度管理が必要な貨物の輸送中・保管中の荷室環境データを取得して、それを基に温湿度(空調設備)管理を行ったり、車両の位置情報や渋滞情報を倉庫管理システムとリンクさせ、状況に応じて最適なタイミングで出荷、あるいは入荷準備を行うなどの活用方法があります。このようなデータがサプライチェーン全体で繋がり、自動走行トラックや自動荷役倉庫・自動搬送装置などの自動化技術と組み合わされ、人が介在せずに物流が動くというのがロジスティクス4.0の目指す姿のようです。
写真1:CeMAT2016会場ゲート
写真2:荷役機器の展示状況
IoTについて
CeMATで出展されていたIoT関連の技術としては、フォークリフトの累積稼働時間や荷役重量のデータから、フォークリフトのメンテナンス時期を管理し、自動でメンテナンス業者へ連絡するといったものや、衝撃センサーが搭載された端末を重量ラックに設置し、フォークリフトの衝突などの衝撃によるラックの損傷を監視し、修復の必要がある場合には管理者に通知するもの。そのほか、保管容器に薄型ディスプレイを貼付け、ピッキング個数などの情報を表示する技術などがありました。見たところ、メンテナンス系のサービスが多く、サプライチェーン全体でモノの動きをタイムリーに捉える仕組みのものはありませんでした。サプライチェーン全体を通してIoT活用をしていくためには、関連する各企業の取り扱いデータ形式やインターフェイスを揃える必要があり、企業の垣根を越えた調整が必要となってくるなど、多くの課題もあります。現状では、まだ出展している企業それぞれが、「IoTを活用してどのようなサービスを提供できるのか」「どのようなサービスが求められているのか」を模索している段階にあるように見受けられました。そのような模索のなかから、それぞれのサービスが結びついて、業界全体でのIoT活用となっていくものと思われます。
写真3:ラックに設置されたセンサー
(A-SAFE社による展示)
写真4:ピッキング個数が表示された薄型モニター
(Fraunhofer Instituteによる展示)
自動搬送装置について
かつての自動搬送装置は、多くの荷物を効率よく運ぶことに主眼が置かれていましたが、Eコマースの発展等により、物流に対するニーズも多様化し、迅速かつ柔軟な対応力が求められるようになっています。そのような背景のもと、自動搬送装置については2つの大きな変化が見られました。
1つはナビゲーションシステムの変化です。従来は、地面にレールや磁気テープなどを設置し、その上を自動搬送装置が走行するシステムでしたが、近年、地面への設置物が不要なレーザー方式が登場しました。レーザー方式は、自動搬送装置が走行する範囲内の壁や柱に反射板を設置し、自動搬送装置からレーザーを反射板に照射することで、その反射によって位置を特定し走行するシステムです。今回のCeMATでは、事前に走行範囲の地図を読み込ませ、空間認識のための各種センサーを活用し、反射板すら必要としないナビゲーションシステム(Natural Navigation)を使った製品が主流となっていました。昨年のCeMAT Asiaではレーザー方式が主流だったので、この1年で急速な進化を遂げていたことに非常に驚きました。このような空間認識センサーは、自動運転車やドローンの自律飛行には不可欠であり、そういった分野の技術革新によりセンサーの価格が大きく下がっていることが背景にあるようです。
2つ目の変化は自動ピッキングロボットの登場です。これまでの自動搬送装置では、自動走行のフォークリフトのように、パレット単位やケース単位の荷物を自動で運ぶものが主流でした。ピース単位でピッキングする場合には、荷物が保管された棚やケース自体をピッキング作業者の前まで移動させる自動搬送装置がありましたが、この仕組みでは棚全体を動かすために大きなエネルギーが必要でした。そのような課題を解決するために、人間と同じように商品保管ロケーションを巡回してピース単位でピッキングするロボットが登場しました。
写真5:自動走行ピッキングロボット『TORU』
写真5はMAGAZINO社(ドイツのベンチャー企業)の自動走行(Natural Navigation)ピッキングロボット『TORU』(日本語の“取る”が由来)です。軽量ラックに保管された荷物をピッキングアーム先端のフックで引っかけて引き出すという形でピッキングします。このタイプでは下面が平らな安定した荷物しかピッキングできませんが、2017年にはバキューム式のピッキングアームを持ち、さまざまな形状の荷物をピッキングできるタイプのものがリリース予定とのことです。同社のウェブサイトに動画がアップされていますので、ご興味ある方は是非ご覧ください。
ピッキングロボットの作業効率は、まだ人間の6割程度であり、価格も高いため、普及にはまだ時間がかかりそうですが、今後の技術進歩と低価格化に期待がかかります。
自動化と人間の労働について
オックスフォード大学の教授が発表した「近い将来消える職業のレポート」でも話題となっているように、自動化技術の発展により、これまで人間が行っていた労働が機械にとってかわられる未来が近づいています。CeMAT会場内で開催された自動化技術に関する各種フォーラムでも、質疑応答のなかで、自動化(無人化)による労働者の解雇の問題についての質問がありました。どの講演者も、「無人化が進んでも、すべてが機械に置き換わるわけではない」「無人化によって新たな別の仕事が生まれ、人間の労働が必要なくなることはない」など、労働者に配慮した回答をしていました。こうした労働者への配慮は労働組合が強い欧州ならではのことかもしれませんが、そういった問題が議論されるほどに自動化技術の普及が目前に迫っていることを実感しました。
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