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ロジスティクス業界におけるIoT導入の方向性

日通総研ニュースレター ろじたす 第13回ー②(2016年5月23日号)

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【Technology Trend】ロジスティクス業界におけるIoT導入の方向性

インダストリー4.0:IoT(モノのインターネット)とロジスティクス

日本の多くの企業にとって3月は年度の終わり、4月は新年度の始まりということで、業務に忙殺される方々も多かったかと思います。
ご多分に漏れず、当社も3月は1年で一番忙しい月なのですが、なぜか欧米ではロジスティクス業界注目の展示会・カンファレンスが3月~4月に複数開催されます。
筆者も締め切りを抱えつつ、欧米に飛んで参加してきましたので、今回はそこで話題となっていた「IoT」の情報をお届けします。

3月8日~10日はドイツ南部の都市シュトゥットガルトでロジマット(LogiMAT:マテハン機器の展示会)が、3月14日~18日はドイツ北部の都市ハノーファーでセビット(CeBIT:ITサービス・ソフトウェアが中心の見本市)が開催されました。
2週間空けて4月4日~7日、今度はアメリカ南部ジョージア州アトランタでモデックス(MODEX:北米最大といわれるロジスティクス業界の展示会)が開催され、その全てに参加してきました。
正直言うとかなり疲れました…(泣)。しかしこれで終わりではなく、2週間空けた4月25日~29日には再びドイツに舞い戻り、欧州最大の工業関連展示会といわれるハノーファー・メッセに参加予定です。
今回は上記3つの展示会、カンファレンスで得た情報を元に、最近日本でも話題になっているIoT(InternetofThings=モノのインターネット)が、欧米のロジスティク業界でどのようにとらえられているかについてご報告いたします。ハノーファー・メッセのご報告はまた別の機会に・・・。

セビットはIoT祭り

ちょうどドイツでセビットに参加していた頃、韓国・ソウルでグーグルの人工知能「AlphaGo(アルファ碁)」と、韓国の世界最高峰プロ棋士イ・セドル氏による囲碁の対戦が行われ、4勝1敗で人工知能が勝利するという衝撃的なニュースが世界を駆け巡りました。セビットではIBMなどの企業が大々的に人工知能を宣伝しており、さっそく各ブースやカンファレンスでこのニュースに言及し、「人工知能による社会がまもなくそこに!」「IoT時代到来、乗り遅れるな!」といった煽る感じの雰囲気に溢れていました。最近のネット用語でいうと“祭り”状態だったと表現してよいかと思います。

写真 1:セビット会場の様子
 〈ドイツのメルケル首相来訪でセキュリティが厳しくなる〉

写真 1:セビット会場の様子
〈ドイツのメルケル首相来訪でセキュリティが厳しくなる〉

セビットよりもロジスティクス色が強いロジマットでも、IoTの物流分野への活用が話題になっていましたが、こちらは(1)マテハンの自動化、(2)サプライチェーンの縦割り是正・水平化(データも同様に1社だけでなくシェアされていく)、(3)IoT、といった段階を踏んだ内容で、セビットの「もうIoTがすぐそこに!」といった煽り感はなく、落ち着いた事業環境予測でした。
筆者が考えるに、セビットのITサービス・ソフトウェア企業は「IoTを売る側」なので、煽ってでも大きなトレンドにしたいということでしょう。

写真 1:セビット会場の様子
 〈ドイツのメルケル首相来訪でセキュリティが厳しくなる〉

写真 2:ロジマットでのインダストリー4.0
カンファレンスの様子

一方、ロジスティクス業界は多くが「買う側」もしくは「活用する側」なので、流行に踊らされるのではなく、投資額と中長期的なリターン(回収)を見極めて粛々と判断していくといった、企業経営としては極々当り前の対応をしているように見受けられました。
欧米企業では何においてもROI(Return on Investment=投資資本回収率)が重視されています。ただし、単年度のROIではなく、中長期的なROIであることに注意が必要です。

IoTへの大きな流れは不可避

売る側、買う側に多少の温度差はあるものの、近い将来ロジスティクス業界にIoTが導入されていくのは不可避という考え方が、欧米では大勢を占めていました。
理由は需要側、供給側の大きな環境変化です。以下、順を追って説明します。

需要側
第一に、Eコマース市場の爆発的な増大と消費者の買い方の多様化(オムニチャネル)が主な要因です。これらは日本でも昨今ロジスティクス業界で言い尽くされた感がある事業環境の変化ですが、欧米市場でも同様です。

第二に、消費者の物の買い方の変化に対応したメーカーの変化です。これはカンファレンスでよく使われていた例を挙げて説明した方が分かりやすいと思います。

最近若者が車を買わなくなったというニュースを日本で聞きますが、欧米でもその傾向があるようです。格差社会や将来的な不安からお金を使わないなど様々な原因があげられていますが(筆者はこの分野の専門家ではありません)、消費行動の変化も一因として挙げられます。
若者達は車を所有することではなく、車を使って必要な時に“移動すること”に価値を見出しているという見方です。つまり車という「消費財」を買うのではなく「移動性(英語ではMobilityと表現されます)」を買うのです。
そうなると、自動車メーカーはこれまでの「自動車を製造してディーラー経由で販売する」といったモデルを変えていかないと、商売が先細りしていく可能性があります。
車1台を販売して何百万円の売上を計上するのではなく、自社の車を使って移動性を確保、移動した分だけ課金するという「製品のサービス化」が起こると推測されます。そうなると、そのメーカーを顧客としているロジスティクス企業にも変化が求められることになります。

写真 3:モデックス入口の様子

写真 3:モデックス入口の様子

写真 4:モデックス展示会場の様子

写真 4:モデックス展示会場の様子

供給側
IoTのビジネスでの活用について、筆者の理解は以下の通りです。

  • ①データを収集する。
  • ②データを分析する。
  • ③分析結果を次の事業判断に活用する。
  • ④上記 1-3 を繰り返す。

技術革新により、①と②が圧倒的に安く、早く、正確にできるようになったため、IoTは「第四次産業革命」と呼ばれるまでになりました。
まず①のデータの収集ですが、IoTでは何から何まで片っ端からセンサーを取り付けてデータを収集します。そのセンサーのコストがもの凄く安くなっており「そんなところにも付けるんかい?」といった所にまで設置が可能です。
次にセンサーで取得したデータをサーバーなどへ送る必要がありますが、通信技術の発達でこれも安価に達成できます。我々が使う携帯電話も、新しいものは4GLTE(第4世代の高速無線ネットワーク)といって大量のデータの取扱いが可能です。
また、大量のデータ送信は必要ないが、少量データを月に1回だけ送信したい場合、低消費電力の無線技術が求められます。
こうした場合には、放っておいても電池が10年間持つような技術が登場しています。

②のデータの分析には、2000年代中旬からの人工知能(AI=Artificial Intelligence)の指数関数的な発展が寄与しています。収集された大量のデータは「ビッグデータ」と呼ばれますが、これをもの凄いスピードで分析することが可能になりました。また、人工知能は人間にインプットされたデータだけでなく、自らインターネットなどから情報を吸い上げて自律的に学習します。前述のグーグルの囲碁の例もそうですが、10年かかると予測されていたことが1~2年で達成されてきています。

IoTは新しくない

以上が、筆者が理解する「IoTのビジネスでの活用」ですが、何か新しい概念がありますでしょうか?ビジネス関連教科書の最初に書いてある項目のような気もするのですが…。

セビットでも一様に「IoTのコンセプトは新しくない。以前流行したBI(ビジネス・インテリジェンス)やERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)と目指すものは同じ。」という認識でした。センサー、通信、人工知能の指数的な発展により、このサイクルを圧倒的なデータ量とスピードで回すことができるようになったのがIoTであるという捉え方です。欧米企業(ロジスティクス企業、マテハン企業も含みます)は需要・供給の両面を見据えて、自社単独ではなくコンソーシアムを組んでトライアルを実施し、来るIoT時代に向けて経験値を積み上げようと活動しています。

IoT活用のイメージ一例

ここまで書いてもイメージが湧かない方もいらっしゃると思います。そこで、筆者の独断と偏見で一例を挙げさせていただきます。

物流ではバンニングというコンテナに貨物を詰めこむ作業があります。積載効率を上げるためにはできるだけ隙間なくして詰めるのが有効で、そのためのシミュレーションソフトも多数存在します。ところが、日本の物流会社にはバンニングの“神”のような凄腕の職人がたまにおりまして、ソフトよりも効率よくバンニングをしてしまうことがあるため、ソフトを使うインセンティブが高くありません(積載効率は物流企業の損益に直結するため、ある意味致し方ありません)。
しかし、職人の技は上手く説明できず、次世代への継承もなされにくいという問題点もあります。人工知能を使うと、こうした言葉で説明できない職人技・ノウハウも自律的に学習します。最初は職人に勝てませんが、その後の指数的な学習によりバンニングのケースを取り込み、やがて職人技を超える最適な結果をシミュレーションできるようになります。バンニングは個別最適を図る例ですが、仮に積載効率を少し落としても配送時間や料金も勘案してコンテナ2個に分けた方が、サプライチェーン全体でみればコストが安く、顧客の満足度も高くなる、と人工知能が判断するかもしれません。全体をみて様々な要素を加味しながら総合的に判断するのは、人工知能の方が得意そうです。

さて、囲碁で起きたことがバンニング(物流)でも起こるでしょうか?今は「Timewilltell.(時が来れば分かる)」とだけ申し上げておきます。

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