あえてECを狙わない!米国ベンチャーの戦略
日通総研ニュースレター ろじたす 第32回ー②(2017年12月18日号 )
【Global Report】あえてECを狙わない!米国ベンチャーの戦略
9月後半、10日間程アメリカに取材旅行に行ってきました。前半は西海岸で物流に新風を吹き込んでいるベンチャー企業へのインタビュー、後半は東海岸でアメリカのマテハン協会(MHI)が主催する年次総会に出席してきました。前半は初の試みとして物流総合専門紙「日刊CARGO」を発行する海事プレス社と共同で取材を行いました。メディアと研究機関の視点の違いや取材方法など新たな発見があったのが収穫です。同紙・望月彰乃記者の記事【米西海岸スタートアップ最前線】は「日刊CARGO」紙面の11/29、11/30、12/1号に掲載されています。またオンラインでは同紙サイト(http://www.daily-cargo.com)からご覧になれます(購読の登録が必要です)。
構内搬送ロボット:フェッチ・ロボティクス
フェッチ・ロボティクスはシリコンバレー・サンノゼを拠点とする自動搬送型ロボット(Autonomous Mobile Robot: AMR)のメーカーです。運搬重量に応じて100kg、500kg、1500kgと3種類のAMRを開発しています。
写真1:フェッチのAMRロボット
同社の主なターゲットは自動車産業など“既存”の構内物流で、ECは顧客側から要望があれば対応するが、積極的に取りに行ってはいないとのこと。3PL、荷主ともにターゲット顧客で、後者の場合物流に限らず工場内でも使用され、日本にもすでに複数本格導入した顧客がいるようです(導入先や業種は教えてくれませんでした)。ECをあえて狙っていない理由については、500kg、1500kgという重量をみて「なるほど、そうか」と思いました。
同社CEOメロニー・ワイズ氏によれば、「既存の現場にそのまま導入できるのが当社のロボットの強み、構内のベルトコンベアを取り去ってフェッチのロボットに置き換えるイメージ」とのこと。また、「500kg、1500kg版を開発したのは顧客の要望による。既存の構内物流の市場規模と需要は非常に大きい」とターゲット選定の理由を説明してくれました。顧客の状況や規模にもよりますが、達成される生産性の改善は現状より30~40%、投資回収期間は概ね3~9ヵ月だそうです。これらのKPI数値もAIによる機械学習により、さらに改善することが見込まれます。
また、搬送用途とは別にRFIDを読み込むAMR「タグ・サーベイヤー」も発表しました。
写真2:タグ・サーベイヤー
構内を自律して動き回りながら、棚卸、在庫場所の正確な管理などに利用されているとのこと。ロボットの背丈は2mありませんが、高さ7m強のタグを読み込める仕様です。これも顧客からの「リアルタイムで在庫を把握したい」「棚卸および在庫確認の頻度を上げたい」という要望を受けて開発した製品だそうです。
今回のインタビューから、同社がトライアルではなく本格導入にかなり踏み込んでいることや、顧客からのフィードバックを得て素早く新製品を開発していることが分かりました。思っていたよりも新技術の展開は速いと実感しました。
配送マッチング:カーゴマティック
「ウーバー(uber)」はご存知でしょうか?これは自車の空いた席を売りたい人と、移動したい人とをスマートフォンのアプリでマッチングするサービスで、「ライドシェア」とも呼ばれています。筆者も海外出張の際には活用しており、非常に便利です(日本にも早く欲しい…)。そのマッチングサービスの貨物版、俗に「トラック版ウーバー」と呼ばれるサービスを提供する会社も多数出てきており、カーゴマティックはその1社です。日本でも“HACOBU”、“ハコベル”といった類似サービスが既に提供されています。
同社は米国最大の貿易港であるロサンゼルス・ロングビーチ港のすぐそばに本社を構え、全米6都市圏でサービスを提供しています。配送マッチングというと、ついECによる“ラストマイル配送”を思い浮かべてしまいますが、同社は「我々は小口貨物配送業者ではない」と明言。手配している貨物の多くは企業間(B2B)貨物で、同社の“売り”は「同日ピックアップ&配送」とのことでした。配送は各都市圏内で、距離にすると250マイル(400km)以内。米国ではこれでも“ローカル”と呼んでおり、日本との距離感覚の違いには注意が必要です。荷主側の顧客は、自動車関連メーカー、家具チェーン、大型電気店等さまざまです。よって多種多様な貨物を取扱い、ECの場合はDC間の輸送がメインだそうです。同社のもう一つの“売り”は、海上コンテナのドレージ手配・マッチングを行っていること。船社や通関業者などとの連携が必要になり、ITシステムが国内輸送のみの場合に比べて複雑になるため、大きな差別化要因になっているそうです。
サービスの利用方法・使い方はウーバーとほぼ同じ。運んで欲しい荷主が貨物の内容・発地・着地などの詳細を同社のプラットフォーム上に登録し、同社独自のアルゴリズムで判断して複数の業者にオンライン上で条件を提示します。どこがその仕事を受けるかは“早い者勝ち”です。貨物のトレースはドライバーが持つスマートフォンのGPS機能を利用します。同日ピックアップ&デリバリーを標榜しているだけあって、通知時間がとても短く、荷主からは大体6時間前に注文を受け、ドライバーへはピックアップの1~2時間前に通知されるとのこと。
ECのラストマイル配送を狙っていない理由はフェッチと似ています。既存のB2B配送のビジネスモデルをデジタル化・リアルタイム化して効率化することで、同社にとっては十分なサイズがあるからだそうです。
今後の展開ですが、一都市圏でビジネスをある程度の規模に持っていくのは中々大変だそうで、まずは現在展開している米国の6都市圏で地盤を固め、その後米国の他都市や近隣諸国(カナダ、メキシコ)への展開を考えているそうです。アジアは「良いパートナーがいれば」とのこと。
写真3:カーゴマティック本社そば
ロングビーチ市のベイフロント。こんな環境で仕事できるのはうらやましい~
掲載記事・サービスに関するお問い合わせは
お問い合わせフォームよりご連絡ください
NX総研編集部が書いた記事
-
ブログ / 775 viewsスイス・ヌーシャテルの交通事情: 持続可能な交通システムと地域の取り組み
スイスは、持続可能な交通システムの開発において先駆的な国です。以下では、スイスの交通システム開発に関する状況を分析し、私が訪れたヌーシャテル市を事例に、その特徴…
-
ブログ / 1,432 views
-
ブログ / 1,271 views各業界が2024年問題に立ち向かう:自主行動計画の策定状況について
2024年4月1日から、自動車運転業務の労働環境改善を目指し、各業界は「物流革新に向けた政策パッケージ」に基づき、「自主行動計画」を策定しました。本稿では、商業…
この記事の関連タグ
関連する記事
-
ブログ / 138 views(物流2024年問題)ラストワンマイルデリバリー改革に向けたスモールスタート
「物流の2024年問題」を端に発し、政府、各物流関連団体などが連携した継続的な情報発信により露出も増え、物流事業者以外の企業、また、物流サービスのユーザーである…
-
-
ブログ / 978 views「カイゼン」ではAI産業革命を物流企業が生き残れないのはなぜか?
物流業界がAI産業革命を迎える中、「カイゼン」だけでは生き残れません。イノベーションによる新技術の導入が求められる時代に、企業が競争力を維持するための鍵を解説し…