2024年問題を生き残る、「物流プラットフォーム」という進化への試み
2024年問題を背景に、求められる荷主・物流事業者の協力
マスメディアにも大きく取り上げられて、一般にも広く知れ渡ることとなった「2024年問題」ですが、当事者として物流に携わる者としては、正に戦々恐々と待ち構えていたその時が、ついに訪れました。
2024年問題を背景に、5月には物流2法が改正され、荷主と物流事業者に対する物流効率化の取組みとトラック輸送業務に関する契約内容の明文化が義務付けられました。今回の法改正では、長らく物流効率化の行く手を阻んでいた商習慣の改善を促すものとして、また各社でできる物流効率化が既にされつくした状態の次の一手として、「荷主と物流事業者の協力」が期待されています。
またトラック輸送業務の契約内容が関係者間で明らかになることで、今までは着荷主の要求に応じて実運送事業者が対応していた要件についても、元請、発荷主、着荷主が相談しあって改善することが期待されています。
かねてより国土交通省より提唱されてきた「物流プラットフォーム」の概念がいよいよ形式化する土台ができたともとらえられます。
荷主・物流事業者が連携する『物流プラットフォーム』の先行事例
今後、取組みが進むことが期待される荷主と物流事業者が連携する先駆けの取組みとして、NX総研が令和4年度及び令和5年度執行団体を務めた、経済産業省資源エネルギー庁の補助事業「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金(新技術を用いたサプライチェーン全体の輸送効率化推進事業)」の採択事例でもある実証事業をご紹介します。代表申請者「大和ハウス工業株式会社(以下、大和ハウス)」と共同申請者「イオングローバルSCM株式会社(以下、イオン)」・「花王株式会社(以下、花王)」・「ロジスティード株式会社(以下、ロジスティード)」ならびに技術協力として「株式会社豊田自動織機(以下、豊田織機)」が参画した実証事業です。
取組みの概要
大和ハウス・イオン・花王・ロジスティード4社に共通した物流の人手不足への危機感・荷役作業自動化へのチャレンジの必要性という共通認識を発端とし、最も自動化が難しいとされる物流センターでのトラックの積込・積卸(物流結束点)に着目し、豊田織機が開発を進めていた自動運転フォークリフト技術協力を得る形で、令和3年に実証事業が始動しました
実証事業では、物流結束点において自動運転フォークリフトを活用する他、着荷主拠点では搬送ロボット、デパレロボットの導入により、トラック荷卸~デパレタイズまでの自動化を試みるとともに、荷役作業とドライバー作業の切分け、ドライバーの待機・アイドリンク時間削減を目的として、まだ日本では導入事例の少ないスワップボディの導入を行いました。また、発着荷主・物流事業者が連携し、計画的かつ効率的なトラック運行を図るための事業者間を横断するシステムとして、「Eco-Logi」を開発しました。
「サプライチェーン5社協業による実証事業の紹介」の動画
大和ハウスグループでの連携で物流DXにスピードを ワンストップ・トータルソリューション|物流施設|大和ハウス工業の事業用施設|大和ハウス工業 (daiwahouse.co.jp)
上記のページの最下部に、紹介動画「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業」があります。
取組みの結果
「Eco-Logi」を用いた各社連携による効率的な輸配送計画の立案と実行によりドライバーの待機時間を半分以下に削減することができました。発荷主・着荷主・物流事業者間で物流実態を可視化・共有化するプラットフォームができたことが効率的な連携計画の立案や新たな改善へとつながり、物流結束点における余剰のバッファ(発荷主・物流事業者・着荷主それぞれが次工程への引き渡しが遅れることのないように持っている余裕時間の積上げ)が大きく削減されました。また、自動運転フォーク・搬送ロボット・デパレロボット導入により、トラック荷卸~搬送~デパレタイズ作業の完全自動化を実現しました。どちらもエネルギー削減や人手不足という社会課題に対する改善にもつながる大きな一歩といえます。
そして、これらの結果は事業者間の連携と物流工程の自動化の両輪で生み出されたといえます。工程が人に依存していて、なおかつ人手不足であるとすれば、いくら効率的な計画を立ててもその実現は難しいでしょう。今回の取組みで言うと積卸し工程や搬送~デパレタイズ工程について、人に依存するが故のバッファが必要となってしまいます。その状態から解き放つための自動運転フォークであり、スワップボディであり、各種のロボット導入でした。自動化機器の導入により、効率的な計画の策定と実行が可能なインフラを構築したことが『物流プラットフォーム』の結果を引き出したといえます。
取組みの難しさと解決
荷主と物流事業者が協力する必要性については全員が賛成であっても、異なる企業の座組であるため、実際の細かい調整においては、歩み寄らなければならない場面も多くありました。しかし、参画会社のプロジェクトメンバー総勢20人以上が参加するオンラインミーティングを何度も行い、一つ一つ解決していきました。また各社とも組織の大きい企業であり、社内の現場や他部門等の調整も簡単ではありませんでしたが、社内ミーティングにプロジェクトの他企業メンバーが参加するなど、正にプロジェクトが一丸となり取組みを進めました。
システムや自動化機器はツールであり、効率化の実現は、運用面での細かい交渉や調整が前提となります。システムや自動化機器はなければ実現できないものの、あれば実現できるわけではなく、運用体制を構築する「人」に成否がかかっていると言えます。
実用化への取組み
本取組みにより、自動化機器やスワップボディの実運用に向けては、機器の性能や物流センター側として備えるべき設備要件や運用ルール等の課題が明らかになりました。現在は課題の解決と実用化に向けて引き続き、検討を進めています。
また「Eco-Logi」は大和ハウスが主体となり、他荷主や輸送事業者も含めて協力を得ながら、実用化・拡張を目指しています。今後も多くの事業者・多くの業界に拡大し、まさに物流プラットフォームが確立されることが期待されます。
大和ハウス石川様よりコメント
今回は物流効率化のためのいろいろな側面からの取組みを行うことができました。
最新の効率化機器を実際の物流現場で活用しました。単なる技術実証に留まらず、生々しい課題や知見の収集ができました。事業者横断システムは物流プラットフォームとしてのシステムを本当に動くものにして商品の輸配送工程に適用しました。会社を跨いで情報共有できる嬉しさも難しさも経験しました。
そうしたことも大きな収穫でしたが、なにより、当ブログにも書かれているように「効率化機器の活用により計画的に動ける現場をベースに各事業者が連携することで物流負荷を低減すること」、私どもが狙いとしたこのことを実在する物流現場で実証できました。このことが最大の成果かと考えています。
そしてこれらは取組みに参加した各社の協力があってなしえたことでした。
サプライチェーン・マネジメントという言葉が一般的なものとなって30年ほどになります。その理念である「企業の壁を越えてプロセスを最適化し最効率なものとすること」は、現在、物流業界として否応なしに取組みが求められています。別の見方をすると、プロセスを最適化する千載一遇のチャンスが到来したともいえるのではないでしょうか。その際に今回の取組みがなんらかの参考になれば幸いです。
最後に、今回の補助事業を進めるにあたっては、執行団体であるNX総研殿からは終始的確なアドバイスをいただけました。ここにあらためてお礼申し上げます。
(この記事は2024年8月13日の状況をもとに書かれました。)
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