貿易統計からみるサプライチェーンの変化
貿易統計データベースとは
国別の物流調査や産業別の市場調査の一環として、貿易統計をまとめたり、分析したりする機会がよくあります。
世界中の国の貿易統計を一つにまとめたデータとして、国連貿易統計(UN Comtrade)が知られています。国連貿易統計は、国連に加盟する約200の国や地域の貿易統計機関によって報告された、詳細な輸出入統計レコードを収録しています。自国の貿易統計を国連に報告していない国についても、パートナー国から報告されたデータを輸入の場合は輸出、輸出の場合は輸入として再構築(ミラー統計)することで、貿易統計の網羅性を向上させています。
品目別貿易状況を把握するには
国連貿易統計は、HSコード、SITCコード、BECコードの3種類のコード体系で貿易を把握することができるようになっています。HS コードは、 HS 条約((International Convention on the Harmonized Commodity Description and Coding System:「商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約)という国際条約に基づいて作成されています。HS コードは、類(Chapter/2 桁)、項(Headings/4 桁)、号(Sub-headings/6 桁)、国内細分(domestic code/8~10 桁)の順で系統的に分類されており、コードの桁数が増えるほど、より細かな品目が特定されるようになっています。2 桁が全 97、4 桁が約 1,200、6 桁が約 5,200 となっており、国内細分まで含めると約 1 万前後の総数を持つコード体系です。SITCコードやBECコードは国連独自のコード体系になります。SITC コード(The Standard International Trade Classification:標準国際貿易商品分類)は、全 5 桁(大中小)の分類であり、主に国際レベルでの経済分析や学術用途で利用されています。BECコード(Broad Economic Categories)は、3桁の分類であり、主な最終用途(最終財、中間財、原材料、等)に応じてグループ化しています。 国際商品貿易の一般的な経済分析に最もよく使用されており、SITCを再構成したものです。
貿易統計を分析するにあたり、複数のコード体系のうちどれを利用するか、という問題が出てきますが、それぞれ利点と欠点がありますので、目的によって使い分けることになります。物流ビジネスの観点から、どういった品目が、どの国に、どの国から、という分析を行う場合は、HSコードを利用することが一般的です。SITCやBECは、マクロ経済的な観点から、各国の貿易構造の趨勢などを把握するときに利用するのに適しているコード体系といえるでしょう。
貿易統計からみえるリチウムイオンバッテリーの製造拠点
さて、HSコードを利用して貿易統計を分析していると、興味深い変化に行き当たることがあります。今回は、その一つを見てみたいと思います。
電気自動車などで注目されているリチウムイオンバッテリー。リチウムイオンバッテリーのHSコードは、8507.60となっています。2019年時点で、リチウムイオンバッテリーの世界最大の輸出国は中国で、世界の輸出額合計の37.1%を占めています。(図1参照)
図1:リチウムイオンバッテリー世界輸出額シェア(2019年)
出所:International Trade Center; Trade Mapより日通総研作成
リチウムイオンバッテリー(HS8507.60)の輸出額合計は年々増加傾向にあり、2015年から2019年までの年平均成長率は22.8%となっています。現時点で、中国が金額ベースで世界トップの輸出国ですが、シェアは低下傾向にあります。2015年は42%であったものが約5ポイント減少し、2019年には37.1%でした。中国の輸出額は伸びていますが、中国以上に輸出額を伸ばしている国が他にあります。特に輸出額成長率が著しいのは、ポーランド、ハンガリー、マレーシアなどです。(図2参照)
図2:リチウムイオンバッテリー主要輸出国の輸出額シェアと成長率
出所:International Trade Center; Trade Mapより日通総研作成
輸出額成長率が著しい国を調べてみると、リチウムイオンバッテリーの輸出額が急増した要因と思われる情報がありました。ポーランドとハンガリーでは、2017年以降、韓国系企業によるリチウムイオンバッテリー工場への大型投資が相次ぎました。ポーランドにはLG化学、ハンガリーにはサムスンSDI、SKイノベーションがリチウムイオンバッテリーの製造工場を建設しています。日本のGSユアサバッテリーも、2019年10月にハンガリーでリチウムイオンバッテリー工場を稼働させています。実際、この2か国の貿易統計を見てみると、2018年から大きく輸出額を伸ばしていることがわかります。(図3参照)
図3:リチウムイオンバッテリー輸出額推移
出所:International Trade Center; Trade Mapより日通総研作成
将来的に需要が見込まれる車載用バッテリーですが、現時点ではサプライヤーの規模も数も限られているため、メジャープレーヤー1社の投資が貿易統計に大きな影響を与える状況になっています。欧州では、電気自動車用の電池をアジア企業に依存している現状を是正することを目指し、EUが電池の生産や技術開発に力を入れています。特に、欧州の自動車メーカーは電気自動車への転換を明確に示しており、EV向けバッテリーの需要が拡大するのは間違いありません。製品だけでなく、電池材料(電極など)を含めたサプライチェーン全体が、今後も大きく変化することが予想されます。どこに次の物流ニーズがあるのか、注意深くみていく必要があるでしょう。
(この記事は2020年10月7日時点の状況をもとに書かれました。)
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