DXを加速させるAPIとは何者か?
APIは認知されているのか?
IT関連の会社・部署にお勤めでない方は、APIと聞いてピンときますでしょうか?APIを聞いたことがあっても「システム間の情報連携を行う仕組みだろうな」っと、漠然と分かっても、具体的にどのように処理されるのかをイメージできる方は少ないのではないでしょうか?
少し古い情報ですが、そのような実態を表した数値があります。図表1の「APIの認知・公開情報」は、総務省の情報通信白書の平成30年版に記載されていた情報で、元々は総務省の別の資料からの出典です。この資料では、米国・英国・ドイツと比較すると、日本はAPIについて知らない・分からないという比率が50.8%であり、日本におけるAPIの認知率は低いことが分かります。DXの推進により、近年はAPIの認知率も確実に上がっていると思いますが、海外と比較して認知や活用が低い傾向にあることは、現時点でも変わらないと考えます。
図表1.APIの認知・公開情報
出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)
APIの概念を寿司屋で考える!
APIをGoogleなどの検索サイトで調べると、アプリケーション・プログラミング・インターフェースの略で、うんぬんかんぬん・・・と難しいIT用語が続きます。ITに抵抗がない方でないと理解することは難しいかもしれません。そのため、今回はもっと概念的なところから理解していただきたいと思います。そこで、勝手ながら「寿司屋」に例えて、APIを考えてみます。
お寿司を食べたいAさんとBさんがいたとします。この二人が、お寿司を食べようと思ったら、高級寿司店、回転寿司店、デリバリー寿司店など、さまざまな選択肢があります。注文や受取方法もそれぞれ異なります。
AさんとBさんは、自分が食べたい寿司屋の注文方法や受取方法を理解して実践することで、自分が望むお寿司を食べることができます。例えば、みなさんもご家族で回転寿司屋に行かれることが多いと思いますが、一般的にタッチパネルで注文してレーンで受け取ります。寿司屋側もルールを決めておけば、個別に対応をする必要はありません。
この場合、AさんとBさんに対して、各寿司屋の「注文方法と受取方法を含むお寿司の提供」がいわゆるAPIとなります。IT的な表現に置き換えるなら、寿司屋は「寿司製造アプリ」、AさんとBさんは「寿司堪能アプリ」といえます。図表2に「寿司屋APIのイメージ図」を示します。
AさんとBさんが、寿司屋と同等レベルのお寿司を一から作るのは大変で時間もかかります。情報システムも同じで、「欲しい機能や情報」に対して既に確立されたアプリ(このケースは寿司製造アプリとなります)のAPIを活用することで「短時間かつ低コストで自社に適したレベルの機能や情報を活用できる」というメリットがあります。他者のシステムまたは自社の別のシステムの仕組みを使って、情報取得や逆に外部へ対して情報提供する仕組みをAPIといいます。
図表2.寿司屋APIのイメージ図
APIのトレンドを押さえる!
APIには先ほどの寿司屋のように、様々な仕組みがありますが、ひとまずトレンドを押さえることが重要となります。最近のトレンドでいうと、インターネット上のAPIでは、Web API(REST API)の1択です。REST APIとは、WEB APIの中でも、REST(Representational State Transfer)というルールに則ったAPIを指します。Web APIというとREST APIを指すことが多く、インターネット上のAPIはREST APIといっても過言ではありません。
Web APIの主な特徴としては、Web上に公開されていること、HTTPを使っていること、URIを指定すること、となります。URIの詳細は説明しませんが、URLも含んだ大きな概念と捉えてください。
データ形式は、以前はタグでデータを識別するXMLなども使われましたが、現在はJSONという軽量なテキストベースのデータ交換用フォーマットが主流です。この形式については、後で具体的に説明します。インターネットでAPIといわれた場合には、「Web API(REST API)のJSONフォーマットだな」っと、思い出してください。
APIの基本構成はとてもシンプル!
それでは、Web APIやJSONとは具体的にどうようなものであるのかを、図表3の「APIの構成とサンプル」を使って確認したいと思います。これは、アイビス社が公開している郵便番号から住所情報を提供するAPIの事例です。
Web APIは、「利用者から送信するリクエスト」と「API提供者から返却されるレスポンス」の2つの構成で成り立っています。リクエストの内部は大きく3つで構成されています。「何をするのか?」、「どこにアクセスするのか?」、「どのような条件を指定するのか?」の3つです。「何をするのか?」には、取得、登録、更新、削除の4つを主に使います。
この文字列をHTTPリクエストとして送信すると、レスポンスとしてJSONで住所情報が返却されます。図表3の例では、郵便番号105004をリクエストすると、レスポンスで東京都、港区、新橋とJSONで返却されます。この郵便番号は新橋のものであることが分かります。JSONは、このように括弧とキーと呼ばれるデータ項目名に対する値がセットになったもの(この場合は、キーのaddress3に対する値が新橋)で、人間が見ても分かりやすく、システム的にも軽量で処理しやすいといったメリットがあります。
WEBのシステムで、郵便番号を入れると自動的に住所が入力されるようなシステムがありますが、このようなAPIを使うことで、郵便番号や住所情報のデータメンテナンスが不要となり、APIを使う側にも大きなメリットがあります。Web API自体はシンプルで分かりやすいものなので、この基本構成を押さえておくだけで、Web APIへの理解は大きく前進したといえます。
図表3.APIの構成とサンプル
出典)http://zipcloud.ibsnet.co.jp/doc/api
物流業界におけるAPIの事例
APIの仕組みについてイメージが出来たところで、実際に物流業界でどのようなAPIが活用されているのかを事例ベースで確認してみたいと思います。
物流現場における労働力不足から、ロボット型のAGVを検討される方も増えていると思います。ZMP社のCarriRo(キャリロ)は台車の進化系という分かりやすさから、身近に導入されたケースも多いのではないでしょうか?
CarriRoに、ロボット管理クラウドシステム「ROBO-HI(ロボハイ)」を介したAPIが搭載され、2021年3月から提供を開始しています。これまでは、作業スタッフのボタン操作や床に貼ったマークを読み取ることで、CarriRoの走行や停止を制御していました。APIを使うことで、WMSから走行、停止、自動ルート変更といった指示を行えるようになり、CarriRoを全自動化することが可能となりました。図表4は「CarriRoのROBO-HIを介した外部連携APIの事例」です。
似たような方式で、AMR(Autonomous Mobile Robot)型やGTP(Goods to Person)型のロボットとWMSのパッケージが、APIを介して連携できるようになり始めています。例えば、アパレル業界でシェアの高いロジザード社のWMSパッケージであるロジザードゼロは、ギークプラス社のEVEやラピュタロボティクス社のラピュタAMRなどと連携を開始しています。関通社のWMSであるトーマスは、シリウスロボティクス社のAMRとのAPIによる自動連携を実現しています。自動化ロボットとWMSとのAPI連携は、倉庫における自動化ニーズの高まりとともに、今後も拡大する領域といえます。
図表4.CarriRoのROBO-HIを介した外部連携APIの事例
出典)https://www.lnews.jp/2021/02/n0218410.html
次に、ヤマト運輸社のAPIが新たなサービスの拡大に貢献した事例です。皆さまの中にも、メルカリやヤフオクなどの個人間の取引を行ったことがある方もいらっしゃると思います。筆者も5~6年くらい前にヤフオクを使ったことがありますが、住所や電話番号といった個人情報を取引相手に開示することに抵抗がありました。
ヤマト運輸社のAPIを使うことで、ヤマト運輸社のシステムとフリマ・オークション事業者のシステムが直接APIで連携するため、互いの個人情報を明かすことなく、安心して取引ができるようになりました。これはメルカリが拡大した大きな要因にもなっているといえます。ヤフオクも、現在はこのAPIを使った匿名の取引が可能です。そのほかにも、配達予定情報や荷物ステータスなどもAPIで連携できるようになっていることから、荷物がいつ出荷されて、いつ届けられるのかを、伝票番号を入力することなくアプリなどから常時確認することもできるようになっています。これらの機能は、図表5の配送連携APIを使うことで実現しています。
図表5.フリマ・オークション事業者向け~かんたん安心発送~ 配送連携API
出典)https://business.kuronekoyamato.co.jp/service/lineup/business_members/api/ctoc/
最後に、「ろじたん」によるAPI連携の事例を紹介します。「ろじたん」は、日通総合研究所が開発したスマートフォンやタブレットを使って作業時間を計測・記録するツールです。作業スタッフ自身がスマートフォンやタブレットに対して定期的に作業を登録することで、高い精度で現場の作業を見える化・デジタル化することができます。現場の作業の見える化でお悩みの方は、是非、「ろじたん」のホームページ(https://www.logitan.jp/)をご覧ください。「ろじたん」で計測した各種データを、例えばWMSから「ろじたん」のAPIを使って取得することで、次のようなシーンで活用することができます。
①KPI管理システムや進捗管理システムへの活用
「ろじたん」の計測データAPIで取得した、スタッフ別・作業名別の作業時間とWMSの作業実績(個数、行数など)を集計することで、リアルタイムの作業別生産性やスタッフ別生産性を把握して表示することができます。リアルタイムの生産性が把握できることから計画数量に対する作業終了時刻の予測が行えるようになり、作業の進捗状況が可視化されます。リアルタイム性が不要な場合は、週次・月次などの決まった期間で自動的に生産性を集計することも可能です。
②動的な人員配置の判断
作業状況照会API(作業別の延べ作業時間、述べ人数、現在の人数)を使うことで、例えばWMSやEXCELに現在の人員配置情報を表示することができます。残作業量を基準に、現在の配置されている人員の過不足を判断して、人員の再配置指示を行うことが可能となります。
その他にも、派遣会社から送信される勤怠データと「ろじたん」の勤怠データを突合して、派遣会社から正しく報告されていることを確認したり、人事システムや勤怠システムと「ろじたん」のスタッフ情報を連携することで、常に最新のスタッフ情報を維持するようなことに利用できます。「ろじたん」APIについては個別に対応しておりますので、ご興味をお持ちの方はお気軽にご相談ください。
DXを加速させるAPI
DXの進展により、Webサイトからの注文を始め、各社の販売管理システムはAPIを介してWMSなどの周辺システムと連携され、シームレスかつスピーディな物流が常識となりつつあります。倉庫内作業においても、これまでの紙日報による数値化から、「ろじたん」のような作業管理ツールでデジタル化へシフトすると同時に、倉庫の作業スタッフに変わるロボットやAGVなどの自動化機器の導入が進み、物流の高度化や合理化がますます加速することが予想されます。
時代のスピードを踏まえると、全てを自社開発することはもはや非現実的であり、今後は、APIなどを活用して他社の優れた仕組みをいかに上手く使いこなすか、が重要なポイントとなります。APIを活用するメリットは、時間やコストだけではなく、AIをはじめとする自社の仕組みだけでは実現が難しかった「新たな価値を創造するサービスを展開できる」ところにあります。これはまさにDXの目指すところといえます。皆さまの会社でもDXの推進へ向けた様々な取り組みがされていると思います。次世代の仕組みを検討される際には、「APIを介して優れた技術を利用できないか?」といった視点からもぜひアプローチしてみてください。
(この記事は2021年8月30日の情報をもとに書かれました。)
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