アセアン統合で何が変わるの?
日通総研ニュースレター ろじたす 第1回ー②(2015年5月18日号 )
【News Pickup】アセアン統合で何が変わるの?
東南アジア 10 か国による“ASEAN 経済共同体”その発足による変化とは
2015 年末に ASEAN 経済共同体が発足する予定となっています。ASEAN 経済共同体が発足すると、どのようなことが起こるのでしょうか。ASEAN に EU のような統一市場が出現するなど、劇的な変化が起こるのでしょうか。今回は、そのあたりを紐解いてみたいと思います。
うすうす感じている方もいらっしゃるかもしれませんが、2015 年末、アジアにヨーロッパのような統一市場は出現しません。そもそも、 ASEAN の経済共同体とヨーロッパ共同体は目指している物が異なります。レベル的に共通しているのは域内関税の撤廃、といったところくらいでしょうか。例えば、人の自由な移動は「熟練労働者」に限られます。企業が欲しいのは賃金の安い単純労働者なんですけどね。国境通関もなくなりません。なぜなら、ASEAN は関税同盟ではないので、ASEAN 域外からの輸入関税がタイとミャンマーで異なります。安い国に入れて、域内を自由に移動されては困るわけです。ASEAN 域内を移動するときも、きちんと原産地証明をつけ、国境で域内産品であることを確認しないことには、関税 0 とはならないのです。
ASEAN では、非関税障壁の撤廃も謳ってはいますが、何をもって非関税障壁と呼ぶのか共通基準がいまだにない状況です。ある国の貿易規制が「非関税障壁だ」と指摘を受けても「国民の安全を守るために必要だ」と言われればそれまでですから。貿易手続きの簡素化もなかなか進んでいない状況です。原産地証明の「自己証明制度」は、簡素化度合いの高いものと、簡素化度合いの低いもの、 2 つのパイロットプロジェクトが併存しており、はたしてどちらで統一するのか揉めています。また、車両の相互通行については、枠組み協定は完成していますが、個別協定は一部未完成という状況です。完成している協定についても、全ての国が批准しているわけ ではありません。
なんだか否定的なことばかりで、ASEAN なんて魅力なし、と言っているように聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。ASEAN の連携による最も大きな功績は、関税の撤廃、つまり AFTA(ASEAN Free Trade Area)の実現です。原加盟国(タイ、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、フィリピン、インドネシア)では、2010 年に関税の撤廃が完了しています。99%を超える品目で関税を撤廃しているため、外資系製造業に ASEAN を 1 つの生産拠点として認識させ、域内分業体制を構築させることに成功しました。その結果、域内の工業化も進み、大きな経済成長を遂げ、単なる生産拠点から消費市場としての魅力も増加してきています。
そもそも、ASEAN はゆるやかな連携により成功してきた地域連携協定です。加盟国の主権はそのままに、周辺の大国に埋没しないように協力しましょう、という体制だったからこそ、分裂せずに存続している側面があります。その結果、例外が少ない、広範囲での関税撤廃を実現できたとも言えるでしょう。実は、 ASEAN が経済共同体構想を公式に目指し始めたのは 2003 年になってからです。当時は、「2020 年の完成 を目指す」としていたのですが、07 年になって「15 年初の完成」に前倒しました。そして、12 年時点であまり進捗が思わしくなかったので、これはまずい、ということになったのですが、ここで期限を変えるとメンツが立たないと思ったのか否か、15 年には違いないけど年末ね、と実質1年後ろ倒した経緯があります。20 年のままだったとしても想定どおりに完成していたかは怪しいのですが、 3 歩進んで 2 歩下がる、の歩みで進んでいます。ASEAN 経済共同体については、15 年末という期限ではなく、より長い目で見る必要があると言えます。
ASEAN(東南アジア諸国連合)
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