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トラック運賃のトレンドをいち早くキャッチしよう!【原価・実勢運賃編】

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取締役 兼 リサーチ&コンサルティングユニット4
ゼネラルマネージャー

井上 浩志

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前回(2022.4.12)掲載の「トラック運賃のトレンドをいち早くキャッチしよう!【労働力編】」では、トラックドライバーの年齢構成、就業者数、荷動き指数、有効求人倍率、新規求人倍率から運賃へ与える要因として、トレンドを捉える方法をご紹介しました。

今回はその続編である【原価・実勢運賃編】として、トラック運賃に影響を与える2大原価であるトラックドライバーの賃金や軽油価格、実際の運賃に関する情報をどこから取得してどのように判断すれば良いかをご紹介したいと思います。今回は、図表1の運賃交渉の判断材料と構造化の赤枠の範囲が紹介の範囲となります。

図表1.運賃交渉の判断材料と構造化

図表1.運賃交渉の判断材料と構造化

賃金から運賃トレンドをキャッチする!

賃金を調査するとなると最もメジャーな情報は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査です。この情報に基づき平均年収をまとめたものが、いわゆる賃金センサスというものです。賃金構造基本統計調査とは、主要な産業に雇用される労働者について、その賃金の実態を労働者の雇用形態、就業形態、職種、性、年齢、学歴、勤続年数及び経験年数別に明らかにすることを目的として、毎年6月(一部は前年1年間)の状況を調査しているものです。調査対象は、全国の事業所から毎年無作為で選ばれます。

年度別の情報は、「賃金構造基本統計調査の概況」として次のWEBページに掲載されています。https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou_a.html
例えば、掲載されている中のひとつである、図表2の「令和3年賃金構造基本統計調査の結果概要」の産業別の資料を確認すると、運輸業だけでなく郵便業も含まれていることが分かります。そのため、道路貨物運送業に絞って確認したい場合は、このファイルよりも、【労働力編】でも紹介しましたe-Stat(イースタット)で確認する方が望ましいといえます。

図表2.令和3年賃金構造基本統計調査 結果の概況(産業別)

図表2.令和3年賃金構造基本統計調査 結果の概況(産業別)

出所)https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/dl/05.pdf

e-Statの賃金構造基本統計調査は以下のURLよりアクセスすることができます。
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003084009
このサイトの情報を列が時系列となるようにレイアウト設定を変更し、産業分類のフィルターに道路貨物運送業を選択することで、図表3のような道路貨物運用業に特化した現金給与額のトレンド情報を得ることができます。産業全体(産業計)と比較すると、賃金水準は低いものの年々現金給与額は高騰しており、産業全体との差も縮まる傾向にあることが分かります。2020年以降は、新型コロナの影響もあり上昇トレンドはやや落ち着く可能性もありますが、【労働力編】で確認した労働力不足の観点からも、長期的なトレンドとしては人件費の高騰はしばらく続くことが予想されます。この現金給与額の上昇は運送事業者の経営を圧迫する要因となるため、ボディブローの如くトラック運賃へも影響を与えているといえます。

図表3.賃金構造基本統計調査の道路貨物運送業と産業計の比較

図表3.賃金構造基本統計調査の道路貨物運送業と産業計の比較

出所)e-Statの賃金構造基本統計調査の情報を筆者が加工

軽油価格から運賃トレンドをキャッチする!

通勤などで自動車を日々運転される方は、ガソリン価格にも敏感な方が多いのではないでしょうか?そのため、現在のガソリン価格が高いのか安いのかは、感覚的には分かると思います。一方で、1年前の価格がどの程度で、現在は何パーセント上昇(または下降)したのか、というレベルまではどうでしょうか?大多数の方は、感覚的に上昇トレンドにあるのか、下降トレンドにあるかは分かっても、具体的な数値までは思い出すことは難しいといえそうです。

トラックの場合は、多くがディーゼルエンジンとなるため軽油が燃料となります。東京都トラック協会のホームページで、この軽油価格の調査結果を過去6カ月分公開しています。東京都内の給油価格とはなりますが、軽油価格の上昇・下降のトレンドとしては全国的にも概ね同じ傾向になるといえます。

図表4は、この情報を使って軽油価格(ローリー)の推移をグラフにしたものです。東京都トラック協会の会員以外は過去6カ月分のみしか閲覧できないため、過去に調査した際に記録したもの(令和2年7月~12月)と今回の調査(令和3年9月~令和4年4月)の価格をグラフとしています。
軽油価格(ローリー)情報は以下のURLより取得することができます。
https://www.totokyo.or.jp/management_index/diesel_oil_price

令和3年1月の92.5円は、令和4年1月に119.9円となっており、実に1年間で27.4円(29.6%)もの値上げになっていることが分かります。更に、令和4年2月と3月も高い水準で推移しており、燃料サーチャージや燃料上昇分を反映した運賃の見直しが行われない場合には、運送事業者の収益は相当厳しいものとなることが予想されます。

図表4.軽油価格(ローリー)の推移

図表4.軽油価格(ローリー)の推移

出所)https://www.totokyo.or.jp/management_index/diesel_oil_priceの情報に基づき筆者作成

トラック運送事業者の原価構成と営業損益から運賃トレンドをキャッチする!

【労働力編】で把握した労働力不足の影響を受けた賃金の上昇、新型コロナで停滞していた経済活動の再開による原油需要の拡大、記録的な円安、世界情勢など、これらを受けた燃料価格の上昇は、原価の面でも運送事業者の経営に大きな影響を与えているといえます。これらの影響をリアルタイムで把握することは困難ですが、全日本トラック協会の以下のホームページで毎年報告されている「経営分析報告書」から年度単位で把握することができます。
https://jta.or.jp/member/keiei/keiei_bunseki.html

例えば、令和4年3月の報告書では、令和2年度の運送事業者各社の決算状況を把握することができます。この報告書は、事業報告書の提出事業者数が3,854事業者あり、その中から2,687事業者分を集計しています。運送事業者の規模別(トラック保有台数別)の原価構成、営業収入、営業利益率(営業損益率)の数値を確認することができます。

図表5は、「経営分析報告書」の一般貨物運送事業損益明細表より、トラック運送事業者の運送費に占める原価構成費の推移をグラフにしたものです。令和2年度では、人件費が約40%、燃料油脂費が12%を占めていることが分かります。先ほどの軽油価格(ローリー)にて、1年間で約30%の値上げとなっていることから、令和3年度は燃料油脂費の比率が12%から15%程度の上昇に転じるであろうことが予測できます。人件費比率についても、直近12年は40%を何とか下回っていますが、労働力不足の影響などを受け、近い将来、人件費比率が40%を超えることは避けて通れないかもしれません。

図表5.トラック運送事業者全体(運送費)の原価構成比率の推移

図表5.トラック運送事業者全体(運送費)の原価構成比率の推移

出所)https://jta.or.jp/member/keiei/keiei_bunseki.htmlの情報に基づき筆者作成

「経営分析報告書」では、車両規模別(トラックの保有台数別)に営業収益や営業費用を把握することができます。図表6はトラック運送事業者の車両規模別の営業収益の推移を表しています。ここで非常に興味深いのは、101台以上の規模は収入が右肩上がりのトレンドとなっているのに対して、規模が小さくなるほど横ばいのトレンドとなっています。図表7のトラック運送事業者の営業利益率の推移も同様に、規模の大きい事業者の営業利益率は改善していますが、その他の事業者は、多少の改善はあるものの、規模が小さくなるほど赤字に転落しています。

あくまで推測となりますが、このトレンドが意味するところを考えてみたいと思います。規模の大きな(101台以上)元請け企業は、荷主に対する運賃値上げ要請等による営業収益の拡大で、収支改善が図られたといえそうです。一方で、規模の大きな事業者以外は、営業収益が横ばいであることから、元請けからの仕事を受けている協力会社などは、必ずしも値上げによる恩恵を受けていない可能性が高いともいえそうです。

このように全日本トラック協会の「経営分析報告書」は1年以上の遅れた情報とはなりますが、委託している運送事業者の経営状況が苦しいのか否か、値上げ要請はやむを得ないのか否かの判断材料のひとつとなります。

図表6.トラック運送事業者の営業収益の推移

図表6.トラック運送事業者の営業収益の推移

出所)https://jta.or.jp/member/keiei/keiei_bunseki.htmlの情報に基づき筆者作成

図表7.トラック運送事業者の営業利益率の推移

図表7.トラック運送事業者の営業利益率の推移

出所)https://jta.or.jp/member/keiei/keiei_bunseki.htmlの情報に基づき筆者作成

実際の取引動向(実勢運賃)から運賃トレンドをキャッチする!

個別の契約で決まる実際の取引運賃をリアルタイムに近い状態で取得することは、かなり困難といえます。同じ車格・発着地であっても、飲料や精密機械などの業種によって運賃は大きく異なります。仮に同じ業種の貨物であっても、契約している物量や車両台数によって運賃に差が生じます。

このような要因を念頭とした前提で、全体的かつ短期的な運賃トレンドについては、月次で公表しているWebKITの情報から把握することができます。WebKITとは、日本貨物運送共同組合連合会(日貨協連)のキット事業部で運営されているインターネットを使った求荷求車情報ネットワークで、1991年から事業を開始しています。全日本トラック協会が後援しており、全日本トラック協会の以下のホームページに月次の成約運賃指数が公表されています。
https://jta.or.jp/member/keiei/kit_release.html

成約運賃指数とは、平成22年度4月の運賃を100(基準)として、基準に対して現在の運賃がどの程度上がったのか(または下がったのか)を表す指標です。図表8は公表された成約運賃指数の推移をグラフに加工したものとなります。これを見ると平成22年度の4月以降は、運賃が長期的には上昇トレンドにあることが分かります。

その上昇トレンドの中でも、令和2年(2020年)4月の新型コロナによる緊急事態宣言下では、荷動きの停滞が起こり運賃水準は大幅に低下しました。しばらくは低迷していましたが、直近では回復傾向にあり120前後で推移していることが分かります。

WebKITの成約運賃は、貨物マッチングサイト上の成約運賃であり、スポット運賃としての傾向が強く、「中長期的な契約運賃に対する先行的な指標」と捉えている方が多いと思います。直近のトラック運賃が上昇トレンドにあるのか下降トレンドにあるのかを判断するための貴重な情報といえます。

図表8.WebKIT成約運賃指数の推移

図表8.WebKIT成約運賃指数の推移

出所)https://jta.or.jp/member/keiei/kit_release.htmlの情報に基づき筆者作成

実勢運賃の取得としては、他にも物流専門誌のLOGI-BIZが2年に1回行っているトラック実勢運賃調査の情報を購入する選択肢もあります。1万円(税別)の有償データではありますが、業種別の特積み・時間制・距離制のタリフや業種別・車格別の運賃など、通常では取得が困難なレベルのものとなります。運賃交渉の材料やトレンド分析として業種別の実勢運賃を把握したい場合には有用です。トラック実勢運賃調査の情報は有償コンテンツであるため、本ブログでの掲載は控えさせていただきます。

適正運賃算定サイトから運賃トレンドをキャッチする!

ベスロジ.comは、ステラリンク社が運営する自社の運賃を診断・査定することができるサイトです。原価法に基づいて設定された基準タリフをベースに、ステラリンク社と協業しているジェムコ日本経営社の1,000社以上のコンサルティング実績から導き出した計算式と関係各省庁や諸団体から公表される各種統計情報をもとに、運賃水準を推計しています。

荷主は、自社が委託している運賃水準が適正であるか?運送事業者は、自社の提示している運賃水準が適正であるか?といった観点から客観的な情報として比較することができます。国土交通省告知運賃(標準的な運賃)も表示することができるため、①ベスロジ.comの運賃、②標準的な運賃、③自社の運賃、の3つを比較しながら、現在のトラック運賃水準が安いのか高いかを客観性を持って確認することもできそうです。

以下のサイトから無料で1週間のトライアルを受け付けているため、興味がありましたら是非使ってみてください。
https://info.beslogi.com/

まとめ

トラック運賃のトレンドをいち早くキャッチしよう!というテーマで、前半の【労働力編】と後半の【原価・実勢運賃編】にて、データの取得方法や味方を中心に解説しました。トラック運賃のトレンドを掴むための情報はこの限りではありません。運送事業者の登録数、トラック車両台数の推移、輸送トンキロなどもありますが、いずれにしても、運賃との相関があることが重要となります。

ドライバー不足、荷動きの活性化、燃料高騰などから高騰するトラック運賃を何とかしたい考える荷主企業も増えています。一方で、将来の物流を鑑みたときに、必要以上に安価な運賃は、限られた輸送能力の取り合いになった時に、モノが運べなくなるリスクを多分に含んでいるといえます。それらを踏まえると、荷主企業と運送事業者、または、元請企業と下請企業が、合理的な輸配送を実現するための長期パートナーシップを確立することが重要となります。

自社は適正な運賃を支払っているのか、または、自社は適正な運賃を収受しているのか、を把握することは、持続的な事業遂行には、もはや不可欠な情報といえそうです。その判断を行うためのひとつの手段として、今回ご紹介した情報を活用してみるのはいかがでしょうか。

(この記事は2022年6月20日の情報をもとに書かれました。)

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