トラックドライバーの所得を上げて地位を向上させたい! ~ITを活用したサステナブル・ロジスティクスでトラックドライバーを支援する「伝三郎商会」の取り組み~
はじめに
「物流クライシス」。少子高齢化により加速するトラックドライバーの減少、eコマースの拡大による貨物の配送量の増加により2027年には約24万人のトラックドライバーが不足して「モノが運べない」事態が発生すると言われています。
トラックドライバーの不足は少子高齢化だけでなく低賃金も要因になっており、低賃金を生み出す仕組み、「中抜き」と言われる荷主と運送事業者の間に複数の仲介者(ブローカー)が入っている多重下請け構造が問題視されています。
NPO法人「伝三郎商会」は物流クライシスという社会課題に対してITやアプリなどの新しい仕組みを活用して「中抜き」をなくし、トラックドライバー自身が「一般貨物自動車運送事業会社の経営」をするためのユニークな支援をしています。藤田理事長と森様にお話をお伺いしました。(以下、敬称略。聞き手:NX総研・福井)
理事長 藤田 武利
明治時代の実業家の藤田伝三郎(藤田財閥の創始者)の玄孫。信託銀行勤務を経て、現在は藤田美術館の理事を務めながら伝三郎商会では代表としてコーポレート業務全般を担っている。
職員 森 雄希
起業独立を目指すドライバーのお世話役。漫画『トラックドライバーAKIRA』を執筆中。
トラックドライバーのギルド(職業組合)を作る
総研:
どのような経緯でこのNPO法人を立ち上げたのですか?
藤田:
小学校からの友人である当法人の役員の乾 康之から「トラックドライバーの年収を上げて、トラックドライバーという職種の地位を向上させるための事業を考えている」と声をかけられたのがきっかけです。私自身は物流業界のことはあまり知らなかったのですが、信託銀行に勤務していた経験から、物流を支えるドラックドライバーの支援は社会に貢献するに有用な事業と思い、彼の話に聞き入ってしまいました。私の先祖が藤田財閥の創始者の藤田伝三郎で「儲けることよりも健全な社会に貢献することを願った経営者」だったので、彼の名前を拝借し、株式会社として立ち上げることを決意したのが始まりです。
最初にドライバーの営業面の課題を解決するために「G.works」という配送マッチングアプリの開発をしました。これは成約料として配送料金の2.5%を荷主からもらって運送会社からはもらわないという仕組みです。アプリの利用料で稼ぐプラットフォーマーになりたかったわけではなく、サステナブルな仕組みで物流の課題解決を目指す、公正・公平な組織を標榜していたこともあり、自然とNPO法人に移行することになりました。
図1:配送マッチングアプリ「G.works」のHPより
総研:
トラックドライバーを支援する活動について詳しくお聞かせください。
藤田:
トラックドライバーが不足している大きな要因は低賃金と長時間労働です。低賃金は「中抜き」と言われる荷主と運送事業者の間に複数のブローカーが入っている多重下請け構造が原因の1つであるため、荷主と運送会社を直接つなぐ配送マッチングアプリを最初に作りました。
また、中小の運送会社では長時間労働が常態化していたり、トラックドライバーへの利益還元が少なかったりで、ドライバーが長期的に安心して働くことができる環境が整えられていない状況があります。
一般貨物自動車運送事業者は最低車両台数5台を備えて、国家資格である運行管理者の資格を持つ配送担当者が最低1名は必要です。私達はトラックドライバーが運行管理者資格を取得して自ら運行管理をしつつ、デジタルソリューションの活用で経理業務などの事務作業を省力化して、一人ひとりが「会社を営む」意識を持ち、より生産性の高い経営を進めることで、ドライバーの所得アップや地位向上につながる組織を作るサポートをしています。
中世ヨーロッパで生まれたプロフェッショナル達の職業組合のことをGUILD(ギルド)と言いますが、運送を担うトラックドライバー達のギルドを作りたいというのが私たちの活動の目的です。
活動内容はトラックドライバーの独立支援。具体的な活動として、開業前の事業計画の立案、設立登記、口座開設、資格取得に加え、開業後の許可申請、システムでの業務サポート、安全講習、車輌確保、弁護士・税理士の紹介までのトータルサポートを行います。
最初にできたのが足立区にある足立ギルド運送店です。現在、予備の事務員兼ドライバーを除く4名の固定ドライバーで営業しています。4名のうち3名が運行管理士の資格を受験取得し、一番期間が短いメンバーでも3年以上、働きながら事業運営や経営の勉強を続けています。
まだ彼らには独立の準備をしてもらいながら、私達がマニュアル作りをしている段階ですが、これからもっと多く地域でギルドを作るサポートをしていきたいと思っています。
この取り組みは俗にいう「一人親方」や「名義貸し」ではなく、軽貨物での起業でもありません。正真正銘ドライバーが「一般貨物自動車運送事業会社の経営」をすることを目指しています。一般の運送会社の経理部、総務部、営業部の仕事はITを活用して最小限の作業まで落とし込み、ドライバーが安定した収入を得ながら運転と経営に専念できるサステナブルな環境を作るのが私達の役割です。
ドライバーに経営者の視点を持ってもらう
総研:
足立ギルド運送店はどのようにしてメンバーを集めたのですか?
藤田:
人に紹介してもらったり、独立・開業の支援サイトで募集をかけたりました。今のメンバーの一人は岐阜県の運送会社に勤務していたトラックドライバーで新幹線に乗って東京まで説明会に来てくれました。その時に勤務していた会社では中長距離の配送をしていましたが、高速代を節約するために一般道を走行するため、朝5時から夜の11時までハンドルを握っていたそうです。年に7日しか休んでいないと聞きました。そんな時に私達の募集広告を読んで「こういう仕組みや考え方がこれから必要なのでやらなければいけない」と思ったそうです。彼は前職の仕事の合間に運行管理者の資格取得の勉強をして8月に試験を受けて合格して10月から参加してくれました。
参加メンバーはここに来る前の会社では上司から言われて運行日報に何時間と書いていただけでしたが、今は運行管理ツールを使って自分達で労務管理をしているので長時間勤務はなく休みもきちんと取っています。毎月の給与もクラウドの経理ソフトを使って自分達で計算しています。経営者目線で自分達がどれだけ稼いでいるのかがわかるようになっています。
総研:
森様は仕事の合間に『トラックドライバーAKIRA』という漫画を描いて、トラックドライバーの独立指南を面白く、わかりやすく説明していますが、ストーリーはすべて森様が考えているのですか?
藤田:
はい。展開が苦しくなるとよくタイムスリップで逃げます(笑) 最近はドライバーに経営者としての心得を説明するために「あきんどカルタ」というのを作りました。
図2:あきんどカルタより(Instagram)
おわりに
総研:
今後の展開についてお聞かせください。
藤田:
足立ギルド運送店のメンバーは現在4名ですが募集をかけて10人ぐらいにしたいと思っています。そのためには配送の仕事をたくさん取ってくる必要があります。企業の物流部門や物流会社の配車担当者が「路線」と「軽」以外の選択肢として当社のトラックを共同配送便、混載便として利用してもらうニーズは多いはずです。最近では3月から4月の引っ越しのピークシーズンの引っ越し貨物の取り扱いも増えてきました。配車担当者が車両不足で困っている時だけ配車マッチングアプリを使って依頼するというのも有りです。
私達の「トラックドライバーを応援することでトラックドライバーという職業の地位を向上させ、サステナブルなロジスティクスに貢献する」という思いを理解して賛同してくれる荷主や物流会社と連携しながら戦略的に動いていくことを検討しています。
写真1:足立ギルド運送店のメンバー
LINEを使用したドライバー運行管理ツール「どらたん」の詳細はこちら
「どらたん」の活用方法は、こちらのブログ
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