【ロジスティクスレポート No.09】輸送中の環境変化が製品に及ぼす影響~品質維持のために輸送環境を計測する~
- 包装の目的の重要なポイントが流通段階(輸送・荷役・保管)において発生する外力(輸送環境の変化)から製品を守ることである。製品の特性と、利用する輸送モードから受ける外力の特性を十分に踏まえて包装方法などを選択しなければ、輸送(貨物)事故の発生などにもつながりかねない。
- 輸送中に貨物が受ける外力には、加速度の変化による力、振動エネルギー、温湿度変化などがある。
- 「加速度」は上下の単一方向だけのものではなく、左右あるいは前後方向など複数の方向から複合したものである。トラックの振動と製品の固有振動が「共振」を起こし、測定結果以上の加速度が作用することもある。また、「温湿度」についても、輸送中に「結露」のような現象が起こっているかどうかを判断するためには、輸送中の計測が不可欠である。
- トラック輸送中の状況を調査した事例(東京~名古屋、引越家財、4 tロングボディー)で、輸送環境の変化が製品にどのような影響を及ぼすかを紹介する。
- 輸送品質の維持には、輸送環境を計測する目的にあった機器を選び、適切に使用して正確なデータを収集し、貨物や包装の設計時には、複雑に作用する外力に対応することが不可欠である。
1.はじめに
包装については購買意欲を喚起するための「デザイン性」や、「コスト削減」に対する関心が高いが、包装の目的の最も重要なポイントが流通段階(輸送・荷役・保管)において発生する外力(輸送環境の変化)から製品を守ることであることを忘れてはならない。「荷役中」に製品をぶつけたり、落とす可能性も否定できないし、トラックや鉄道での輸送中に受ける振動が、場合によっては担当者が想像する以上の大きさである可能性も否定できないのである。
外力の大きさや特性は輸送する貨物の種類や輸送モード、貨物を積載する場所や輸送経路などによって大きく異なってくる。自社の製品の特性と、利用する輸送モードから受ける外力の特性を十分に踏まえて包装方法などを選択しなければ、輸送(貨物)事故の発生などにもつながりかねない。
2.輸送環境に関係する用語と意味
(1)発生加速度
加速度は、図1に示すように、人が電車やバスなどに乗っているモデルの場合では、走行中の減速(前方に)や加速(後方)、またカーブ(横方向)などで、人を倒そうとするように作用する力の強さと考えることができる(トラックの荷台の製品も同じような力を受けている)。
加速度の単位としては一般に「G」を用いる。「G」は製品に掛かる係数として捉える。
つまり、輸送中の製品には、単に製品の重さ(質量)だけではなく、加速度分の力も合わせてかかることになる。
製品に作用する力 =[製品の質量]+[製品の質量×加速度]
単位:m/s2 またはG。1 G=9.8 m/s2
(2)振動数
1秒間に振動する回数。
単位:Hz
図1 人が電車に乗車しているモデル
図2 共振のイメージ
(3)PSD(Power Spectrum Density)
パワー・スペクトラム密度といい、振動エネルギー(パワー)が特定の振動数にどのくらい集中しているかを示す。
単位:G2/Hz
(4)共振点
物体は必ず固有な振動数(周波数)を持っている。外部からそれと同じ振動数が伝達すると、その物体は受けた外力以上の振動を起こすことになる。この現象を「共振」といい、その固有の振動数を「共振点」という。そのイメージは図2に示すとおりである。
(5)相対湿度
相対湿度は、特定の温度が保持できる1m3当たりの水分量(飽和水蒸気量)を100%とした場合の水分率である。
例:20℃の場合、1m3当たりの水分量17.3gが100%
(6)結露
図3のように、相対湿度が100%を越えた場合に空気が水分を吸収できず、放出したとき現れる水滴をさす。
図3 結露発生モデル
3.トラック輸送時の輸送環境調査例
ここではトラック輸送中の状況を調査した事例を紹介する。図4には加速度の発生状況を、図5にはPSD解析結果を、そして図6にはトラック荷台内の温湿度状況を示す。なお、当該輸送事例の輸送・計測条件は次のとおりである。
計測箇所:トラック荷台後部末端
計測区間:東京~名古屋 往復
積載貨物:引っ越し家財
車 両:リーフサスペンション 4tロングボディー
写真 トラックおよび計測器取り付け状況
(1)加速度の発生状況
まずは、加速度の発生状況をみよう。図4のポイントは、(1)往路と復路の差、(2)上下方向加速度と前後左右方向との差、(3)製品に影響を及ぼす加速度が発生した時刻(発生場所)である。
今回の事例、東京~名古屋間の同じルートを往復した場合では、トラック荷台に発生した加速度は、往路と復路で同じような傾向にあることがわかる。
図4 トラック輸送の発生加速度例
次に発生した加速度の大きさをみる。走行中に上下方向(◆)に発生した最大の加速度は4.5Gであり、平均では2.5Gの加速度が発生していた。これは輸送中の貨物(引っ越し家財)には、走行中常に2.5Gの加速度が負荷されたことを意味しており、例えば「15kg」入りの段ボールが「4段」積み重ねられていた場合には、最下段の段ボールには、
15kg+(15kg×4段×2.5G) = 165kg
の荷重がかかることになる。輸送中に破損・荷崩れ等の貨物事故を起こさないためには、貨物あるいはその貨物を包装している容器は、上下方向からのこれだけの荷重に耐えうる強度を有していなければならない。
さらに、今回の輸送では、上下方向の他に左右方向(▲)からの平均2.0Gの加速度も計測されている。輸送中に貨物が受ける加速度は上下方向といった単一方向からのものではなく、左右あるいは前後方向(■)など複数の方向から複合したものであり、貨物や包装の設計時にはこのように複雑に作用する外力への対応が不可欠となる。
(2)PSD解析結果
続いて、PSD解析結果を見よう。図5は横軸に「周波数」を、縦軸に「振動エネルギー」をとったPSD解析線図である。測定した振動に特徴的な特性がない場合には、周波数が高くなるに従い振動エネルギーは小さくなり、多少の上下変動があったとしても解析線はなめらかな「右肩下がり」の傾向を示すことになる。
PSD解析線図では、(1)左から右にデータが下がっているか、(2)データに山があるか、その周波数は何Hzか、(3)基準とするデータ(この場合、上下方向)とその他のデータとの対比 が解析のポイントとなる。
今回の測定事例では、上下方向(―)および前後方向(―)については上記の傾向を示しているが、左右方向(―)については他の方向とは明らかに傾向が異なっていることがわかる。左右方向では2~9Hzかけては右肩下がりになっているが、9~22Hzにかけては振動エネルギーが上昇傾向を示し、22Hzを頂点として再度右肩下がりとなっている。これは、左右方向の9~22Hzの周波数帯では、トラックが道路(路面)を走行したときに発生した振動が、路面で発生してからトラック荷台の計測器で計測されるまでの間に、何らかの要因によって増幅されたと結果と推察することができる。このような現象を引き起こした要因が図2にあるように「共振」である。今回使用したトラックの荷台後方部には左右方向に対して22Hzに共振点があり、これが振動エネルギーを増幅させていたのである。
図5 トラック輸送のPSD解析例
実際の輸送において、固有振動が22Hzの製品をこのトラックで輸送する場合に荷台後方に製品を積載すると、トラックの振動と製品の固有振動が共振を起こし、製品の左右方向に対してここで測定した結果以上の加速度が作用することになり、最悪の場合には、製品の損傷(貨物事故)をも引き起こしかねないのである。
(3)温湿度計測結果
図6はトラック荷台の温湿度の状況を示したものである。
温湿度計測では、(1)外気温と荷台内温度の変化、(2)荷台内温度と荷台内湿度の変化(温度上昇に対し湿度低下、温度低下に対し湿度上昇)が解析のポイントとなる。
まずは湿度の状況をみよう。トラック荷台の扉は、貨物の積卸のための扉の開閉もあり計測期間中「密閉された容器」の状態ではなかったこともあり、大きな変化はなかった。
次に温度の状況をみる。トラック荷台内部の温度(―)は、日中、日光が当たると急激に上昇し、午後1~2時頃にピークを迎えている。ピーク時には外気温に比べて15℃以上も温度が高くなっている。このような特性を把握しておくことは、温度変化に敏感な貨物を輸送する場合などにおいて、輸送貨物の品質を維持する上で有効である。
温湿度については、上記のようにその計測値が直接的に貨物の品質に影響をおよぼすものであったどうかを測る他に、結露等の発生を発見するためのデータとして活用することも多い。
鉄道輸送や海上輸送に使用するコンテナのように輸送容器の密閉度が高い場合、通常はコンテナ内の水分量は変化せず、したがって温度が上昇するほど相対湿度は下がり、コンテナ内は乾燥状態となる。このとき、貨物やパレット、段ボールなどが含んでいる水分が蒸発するとコンテナ内の水分量が増加することになる。夜間になって温度が下がり、水蒸気として空気中に飽和することができる容量をオーバーフローすると図3のモデルのように「結露」となる。輸送中にこのような現象が起こっているかどうかを判断するためには、輸送中の温湿度の計測が不可欠である。
図6 トラック荷台内の温湿度状況
4.おわりに
輸送環境を計測するということは、貨物などに直接的に作用する外力(加速度、温度、湿度など)の大きさを計測することのほかに、破損や結露など結果として発生してしまった貨物事故の原因を究明するための基礎データを収集するということでもある。
本論では一つの事例として、トラック輸送における輸送環境の計測結果を述べたが、季節や輸送方面など、さまざまな条件によって、また輸送モードによっても貨物に与える影響は異なる。正確にデータを収集するためには、計測する目的にあった機器を選び、それを適切に使用することが重要である。
(担当:輸送環境試験所長 中嶋 理志)
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