講演レポート:ロジスティクス分野での女性の活躍 ~CREフォーラム第100回記念シンポジウム「ロジスティクス分野での女性の活躍について」に参加して~
はじめに
2024年2月16日に実施された、ハイブリッド開催:CREフォーラム 第100回記念シンポジウム『ロジスティクス分野での女性の活躍について』に参加しましたので、その内容をレポートします。
講師:
SCMソリューションデザイン 代表 魚住 和宏 様
郵船ロジスティクス株式会社 執行役員 東アジア地域総括 永溝 香織 様
味の素株式会社 食品事業本部 物流企画部 部長 森 正子 様
株式会社NX総合研究所 大原 みれい
女性活躍とは何か
女性活躍とは、文字通り女性に活躍していただくことではありますが、必ずしも女性が管理職を目指したり管理職になったりすることを指すわけではありません。「ダイバーシティ(多様性)」には性別や年齢、人種、国籍、障がいの有無、性的志向、宗教・信条、価値観などの多様性だけではなく、キャリアや経験、働き方などに関する多様性も含まれます1。つまり、管理職になりたい人もいれば、専門職などでプロフェッショナルを目指したい人、キャリアはほどほどに家庭生活を重視しながら働きたいという考え方の方もいるということです。これは男性にも言えることでしょう。このような働き方などに関する多様性も尊重しながら、「働く場面で活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現する」2ことが求められています。
また、この考え方は女性、すなわち性別(ジェンダー)の多様性だけに止まりません。企業はジェンダー以外の多様性も受け入れ、尊重し、「すべての社員が年齢や性別、国籍等にかかわらず、生き生きと働くことができること」を目指すことが重要です。多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげていく、それにより、自由な発想を生み出し、生産性向上や自社の競争力強化など、経営基盤の強化を実現することができると考えられています3。これは「ダイバーシティ経営」と言われるものです。
なぜ女性の管理職が必要なのか
では、働き方に対する考え方の多様性を尊重する一方で、なぜ女性の管理職が必要と言われているのでしょうか。一つは、女性活躍推進法における情報公表項目に「管理職に占める女性労働者の割合」が含まれており、労働者が301人以上いる事業主はこれを含む8項目から1項目を選択し、情報公表しなければならないということがあります4。また、個々の企業でも女性活躍を経営戦略の一つに位置付け、管理職に占める女性の割合の目標数値を定めているところも多いでしょう。このように、女性管理職の割合は女性活躍推進のKPIの一つであるといえます。
図表1 女性の活躍に関する情報公表項目
出展)厚生労働省に加筆
他方で、先のダイバーシティ経営の考え方に戻ると、女性管理職が増加することは、管理的立場にあり発言権や決定権のある女性の割合が増えることを意味します。それはすなわち、企業の意思決定プロセスに多様な意見を取り入れるということです。このようなダイバーシティ経営を推進することは、急激に変化する社会環境に柔軟に対応し、多様化する顧客ニーズを的確に捉え、新たな収益機会を取り込むためのイノベーションを生み出せる組織作りに資すると考えられています。また、現在女性の管理職が少ない物流・ロジスティクス分野において、女性活躍推進はダイバーシティ経営のための第一歩であるといえるでしょう。
女性が管理職を希望することの壁
しかしながら、女性管理職割合(課長相当職以上)の平均が9.8%であるのに対し、製造業は7.4%、運輸・倉庫業は6.9%と平均以下に止まっています5。
一般社団法人日本物流団体連合会によるアンケート調査結果でも、女性従業員における管理職(課長職以上)への昇進意欲は男性従業員よりも低く、特に若年層の女性において低いことが明らかになりました 。
図表2 昇進意欲(男女別)
出典)日本物流団体連合会「物流事業者における女性活躍推進に向けた調査検討 報告書」(2023.2)
同調査では、管理職への昇進を望まない理由として、「責任が増えて精神的な負担になる」、「残業や急な対応等で労働時間が増える」、「自分の能力に自信がない」が男女ともに上位3位であることに加え、女性の回答者では「仕事と家庭の両立が困難になる」が第4位となりました。このような要因が管理職への昇進に対する懸念材料となっているようです。
図表3 昇進を望まない理由
出典)日本物流団体連合会「物流事業者における女性活躍推進に向けた調査検討 報告書」(2023.2)
物流・ロジスティクス分野での女性管理職を増やすために
シンポジウムにおける筆者の基調講演では、物流・ロジスティクス分野での女性管理職を増やす取組みとして、下記の5点を挙げました。
1.働き方改革+休み方改革
特に管理職の働き方改革と休み方改革を進めることで、管理職の業務負担を軽減し、管理職の魅力を上げ、その魅力を発信する。管理職自身が生き生きと働いている姿を後進に見せることが重要。
2.家庭内における家庭的責任の分担
家庭内における家庭的責任(家事、育児、介護等)を分担し、女性の負担を軽減させる。それには職場や社会全体でノー残業が定着しており、男性も早く帰って家庭的責任を分担することができなければならない。家庭的責任のアウトソーシングやそのための会社補助も一案。
3.上司によるサポート体制の強化、社内の意識改革
経営層や管理職は女性活躍推進のキーパーソンであり、経営戦略等に位置付けてトップダウンで推進することや全社研修(ダイバーシティ研修、アンコンシャス・バイアス研修等)で社内の意識醸成を進める。上司を巻き込み二人三脚で行うキャリア研修等も有効。
4.「成長の機会」の提供
ライフステージに合った「成長の機会」の提供でキャリアアップを促す(早期の育成とキャリアデザイン計画、両立支援制度によるキャリア継続やキャリアアップのサポート、ライフイベント等が落ち着いた後のセカンドチャンスの用意も重要)。
5.女性社員本人の意識改革とロールモデル
マインド醸成や意識変革で女性自身が抱く能力の制限(アンコンシャス・バイアスやインポスター症候群等)を取り払うとともに、ロールモデルの創出・周知・活用により、キャリアの初期段階から長期的なキャリアパスを描けるようにする。ロールモデルにも多様性が必要。
講演およびパネルディスカッションのポイント
3名の講師のご講演およびパネルディスカッションでの討論のポイントを紹介します。
1.人種や性別ではなく「仕事ができるか」で評価される
人種や性別ではなく、「この人間は一緒にビジネスをするのに値するかどうか」という人間力や能力で判断されることが多い。自分も管理職として、部下の属性や働いた時間ではなく、仕事の中身で正当に評価することを心掛けている。(永溝様のご講演およびパネルディスカッションでのご発言より)
2.残業や急な対応も自己投資と捉える(メリハリをつけて働く)
海外で活躍している女性管理職は、残業や休日対応を自己犠牲として嫌々やるのではなく、将来の自分への投資としてこなしている方が多い。その代わり、土日はしっかり休み、有休もちゃんと取ってリフレッシュしてメリハリをつけて働いている。(永溝様のご講演より)
3.理解しにくい人ほどコミュニケーションが重要
苦手な人こそ積極的にコミュニケーションを取り、その人のことを理解しようとしている。コミュニケーションを取って話を聞いたり、背中を押してあげたりすると、ものすごい力を発揮してくれる。(森様のご講演より)
4.時間短縮勤務は究極の業務効率化
・保育園のお迎えがあったため、帰らなければならない時間が決まっている中、限られた時間で成果を出さなければならなかった。どうすれば時間通りに終わらせられるかを日々考え、業務の優先順位付けだけでなく他の社員の助けも得ながら効率化に努めた。時間短縮勤務の経験者は、効率良く働く働き方を体得している。(森様のご講演より)
・業務の効率化には「無駄な仕事を止める」ことも重要である。無駄な仕事が効率を悪くし、長時間労働を招き、その結果長時間働けない女性は活躍しにくくなるという悪循環になっている。不要なことを止めて効率良く仕事をすることがダイバーシティ推進と同時に必要である。(永溝様のパネルディスカッションでのご発言より)
5.男女の賃金格差は管理職比率の違い
管理職になれば所得が上がることが多いので、女性の管理職が増えれば、男女の賃金格差も是正されるはずである。そもそも能力を正当に評価すれば女性の管理職登用は進むはずである。「忖度」「イエスマン」「ごますり」等を重用する会社文化を排除し、能力や成果を正当に評価する文化を醸成しなければならない。(魚住様のご講演より)
6.壁が立ちはだかったときは会社の変革を促す
・永溝様は海外研修員制度への応募を検討した際、当時は「男性社員のみが対象」という暗黙の了解があったものの、募集要項には性別の記載がなかったことから担当部署に問い合せ、応募の機会を得て無事合格した。会社の制度も完璧ではないだろう。担当者が気づいていないだけということもあるので、思い込みを無くし、不明瞭な点は自ら確認することで大きなチャンスを得ることができた。(永溝様のご講演より)
・森様は、基幹職(管理職)になるためには、時間短縮勤務からフルタイム勤務に戻す方が良いと言われ、保育園の送迎時間や配偶者との役割分担の関係から、時差出勤(勤務時間の前倒し)について上司に相談し、フルタイム復帰を果たし、その後基幹職登用試験に合格した。当時早朝からの時差出勤をする方は少ない中、早朝時差出勤という働き方について、自ら提案し進めたことで、働き方の姿勢を評価してもらえ、キャリアアップのチャンスを得た。(森様のご講演より)
7.理不尽なことの乗り越え方
現在ハラスメント行為は減っていると思うが、時には理不尽な言動や場面に出くわすこともあるかもしれない。ただ、そういう人たちは少数派であり、自分を応援してくれる人の方が圧倒的に多い。理不尽な人や物事に囚われず、自分の大切な時間と労力を自分のために使ってほしい。(永溝様のご講演より)
さいごに
物流・ロジスティクス分野で働く女性を含むすべての方々が生き生きと働き、輝き続けることができるよう、またこれら従業員の頑張りによって、物流・ロジスティクスに関わる企業および業界がさらに発展していくことを祈念いたします。
更に詳しく知りたい方は、株式会社シーアールイーのレポートもご参照ください。
(レポート)CREフォーラム第100回記念シンポジウム「ロジスティクス分野での女性の活躍について」
(この記事は、2024年4月23日時点の状況をもとに書かれました。)
コラム:お三方に聞いた管理職の魅力
・権限を持ち、部下を持って、自分一人ではできない大きな仕事をやれることが、管理職のダイナミズム(魚住様)
・自分のやってみたいことを会社のリソースでやらせてもらえることは管理職の一つの魅力(永溝様)
・同じ目標に向かって頑張れる仲間が増えることが一番の魅力(森様)
- 経済産業省
- 内閣府男女共同参画局
- 1と同じ
- その他、男女の賃金の差異が必須項目となっており、「職業生活と家庭生活との両立」に資する雇用環境の整備に関する実績に関しても、7項目から1項目選択し公表する必要がある。労働者が101人以上300人以下の事業主は、全16項目から任意の1項目以上の情報公表が必要となっている。(資料:厚生労働省)
- 帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査」
- 一般社団法人日本物流団体連合会「物流事業者における女性活躍推進に向けた調査検討報告書」(2023.2)
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