国内の特許出願から見る物流分野の人工知能
【要約】
・物流×人工知能の特許出願の件数は多くないが、2017年ごろから増加している
・物流の領域について特定の出願分野への偏りはない
・物流分野における人工知能技術は、データを用いて物品や物流関連機器の異常を判断したり、自動移送技術における荷物損傷防止等の分野での活用が想定されている。
特許について
特許制度は発明を公開する代わりに、独占的な権利を得ることができる制度です。
公開された特許出願内容を分析することにより業界の技術開発動向を把握することができます。本記事では、特許データベースから物流分野における人工知能関連に関する出願を抽出することで物流分野における人工知能の技術動向・活用可能性を見ていきたいと思います。
物流×人工知能の出願の状況
過去10年の物流×人工知能出願※は合計76件あります。
日本の特許出願件数は年間29万件程ありますので、物流×人工知能の特許の出願件数は少ない状況と言えます。
年ごとの推移をみると、10年前まではほぼありませんでしたが、2017年以降増加し、2020年、2021年で最大となっています。
なお、特許出願は公開されるまで例外を除き1年6カ月かかるため、2022年10月以降はまだ公開されていない状況であり、2022年、2023年の件数は今後さらに増加することが想定されます。(2023年は例外的に公開された件数)
※ FIのB65を含む出願のうち“物流”および“人工知能”を本文中に含むもの
図1.物流×人工知能 特許出願件数の推移
分野別の出願分類
物流×人工知能出願について、どのような分野での出願が多いのか把握するため分類コード別に集計しました。(特許出願は分野に応じたコードが振られます。分類コートはいくつかありますが、今回はFIを使用しています。)
コードごとの件数は表1の通りです。
最も件数が多いのは情報通信技術であり人工知能に必須な分野なので説明は省きます。
それを除き最も件数が多い分野は『機械または構造物の静的または動的つり合い試験:他に分類されない構造物または装置の試験』で4件となっています。
分類説明内容を読んだだけでは内容がつかめませんが、具体的には、物品の搬送装置について異常を感知する技術や、輸送物の検品などに関する出願です。
同じく4件で『グラフィックデータの読取り(イメージまたはビデオの認識または理解G06V);データの表示;記録担体;記録担体の取扱い』となっておりこれは、輸送物や保管物の映像からその物品を判断するものです。
次いで3件で『郵便に関する選別』に関する技術、『マニプレーター』(簡単に言うとロボットアーム)に関する技術、『特定の計算モデルに基づく計算装置』と続いています。
表1.物流×人工知能 出願の分野別件数
具体的な特許の内容
物品の状態や物流関連機器の故障を判断する部分に多く使われているようです。
また物品の画像認識・学習を通してロボットアームや仕分けシステムなど自動化技術との組み合わせで人工知能の活用が想定されていることが分かります。
ここからはより具体的に主な特許について見ていこうと思います。
なお、ご紹介する3件はすべて特許権として成立しています。
①『機械または構造物の静的または動的つり合い試験:他に分類されない構造物または装置の試験』のコードが付与された特許例
発明の名称:状態判定システム、状態判定方法、及び状態判定プログラム
出願番号:特願2020-64758
特許番号:特許第6807589号
出願人:株式会社 情報システムエンジニアリング 学校法人慶應義塾 モーションリブ株式会社
概要:
商品の破損をピッキングや仕分け時点で発見するための技術の出願です。
大がかりな設備を必要とせず、店舗入荷時などにも活用できることが特徴です。
商品を画像認識で識別したり、商品の破損状態の判断に人工知能技術を用いることで属人的な判断でなく安定した検査制度を実現できるとしています。
具体例として、ポテトチップスの袋をマジックハンドで挟み、圧力を測定、測定値が合格であれば、ウェアラブル端末の透過型ディスプレイにコンテナABCに格納するように指示が出るという例示がされています。
図2.状態判定システムの全体構成の一例
出典:特許第6807589 【図1】
図3.検査対象物が破損していないと判定された場合の通知例を示す模式図
出典:特許第6807589 【図14】
②『グラフィックデータの読取り(イメージまたはビデオの認識または理解G06V);データの表示;記録担体;記録担体の取扱い』のコートが付与された特許例 (当該特許には『郵便に関する選別』も付与されています)
発明の名称:日付情報読取装置
出願番号:特願2021-75147
特許番号:特許第7012180号
出願人:株式会社IHI物流産業システム
概要:
コンベア等の搬送機を流れる梱包箱に表記された日付情報を自動で読み取るための装置です。
賞味期限管理などのために日付情報を読み取る際、日付情報の表記の場所が違う場合などでも読み取ることができます。
人工知能の活用部分としては、無数に存在する日付情報の表記パターンを学習させることで自動で読み取ることを可能にしています。
図4.日付情報読取装置の概略構成を模式的に示す平面図
出典:特許第7012180 【図1】
③『マニプレーター』のコードが付与された特許例
発明の名称:物品移載装置及び物品移載システム
出願番号:特願2019-140258
特許番号:特許第7408891号
出願人:トーヨーカネツ株式会社
概要:物品をコンベヤ⇒仮置棚や仮置棚⇒カゴ車などに移載する装置に関する発明です。
一般的な自動積み付け装置などでは物品を吸着パッドで吸着し移動させる方法が取られますが、吸着パットで吸着できるものには制限(形状、重量、表面状態)があることから、本発明ではフォークで物品を下からすくい上げる方法で移動させる形をとっています。
図5に実施例を示しますが、コンベヤから流れてきた物品は押し出し装置により押されてロボットハンド先端のフォークの上に載置されます。その後物品は仮置棚に一時載置されカゴ車に積みつけられます。
人工知能はカゴ車への効率的な積載方法や荷崩れを防止するための積み付け方法の算出また移送時の物品のずれや落下防止のためのロボットハンド制御方法などの部分で活用されるとしています。
図5.物品移載装置及び物品移載システム
出典:特許第7408891 【図1】
以上今回は物流分野の人工知能活用方法として出願件数の多い分野に着目して調査を行いました。興味深い内容が含まれる一方、ある程度予測される結果だったのではないかと思います。逆に1件しか出願されていない分野の出願内容などを見ていくと考えつかない面白い人工知能の活用法が見えてくるかもしれません。もし、そのような出願が見つかれば、また別の機会にご紹介したいと思います。
(この記事は2024年4月5日時点の情報をもとに書かれました。)
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