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荷役作業時の保護帽着用に関する事業者としての取り組み  ~ 安全確保のために事業者が取り組むべき事項 ~

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はじめに

最近、都内でも自転車に乗っている人がヘルメットを着用して走行しているのをよく見かけるようになりました。これは、道路交通法の一部改正(令和4年4月27日公布、令和5年4月1日施行)により、全ての自転車利用者に対し、自転車乗車用ヘルメット着用の努力義務が課されたことが大きな要因と考えられます。これまでも、自転車通学が多い地域では、地方公共団体や学校などの規則でヘルメットの着用が義務付けられていたことなどを踏まえると、特筆すべきことでないことは承知しております。しかし、筆者の生活圏では、自転車とヘルメットが正直あまり結び付かない環境だったこともあり、ある意味、新鮮に感じた次第で取り上げてしまいました。

自転車のヘルメット着用の目的は、当然ながら衝突や転倒などの事故の際に頭部を保護することにほかなりません。令和6年3月7日警察庁交通局発表の「令和5年中の交通事故の発生状況」によると、自転車乗用中の死者数346人のうち174人(50.3%)が頭部損傷によるものとのことです。

物流に関しては、トラックでの荷役作業時の安全対策強化のため、労働安全衛生規則の改正により、昨年(2023年)10月から「昇降設備の設置」「保護帽の着用」義務の適用範囲が拡大されました。ここでの「保護帽」は、具体的にはヘルメットということになります。

本稿では、保護帽着用義務の根拠となる規則等と対象作業、貨物自動車における荷役作業時の保護帽の着用義務の範囲、ヘルメットの種類、検定合格標章、墜落時保護用ヘルメット(保護帽)の構造などを確認したうえで、保護帽着用に関して労働者の安全を確保するために事業者としての取り組むべき事項について改めて考えてみたいと思います。

労働安全衛生規則等に基づく保護帽の着用義務

保護帽の着用義務については、労働者が従事する作業に応じて主に労働安全衛生規則においてその着用が義務付けられています。この着用に関する義務は、基本的に事業者と労働者の双方に適用されます。条文では、「事業者は、次の各号のいずれかに該当する貨物自動車に荷を積む作業 ~ 略 ~   又は次の各号のいずれかに該当する貨物自動車から荷を卸す作業 ~ 略 ~ を行うとき ~ 略 ~ は、墜落による労働者の危険を防止するため、当該作業に従事する労働者に保護帽を着用させなければならない。」(第151条74第1項)、あるいは「前項の作業に従事する労働者は、同項の保護帽を着用しなければならない。」(第151条74第2項)などと規定しています。

また、物流に関しては、厚生労働省の通達(昭50.4.10 基発第218号)において、コンベヤ、フォークリフト、ショベルローダ、移動式クレーン、ダンプトラックその他の荷役運搬機械を使用する作業では、関係労働者に、保護帽、安全靴等の保護具を着用させるよう事業場に対して監督指導をするとしています。

さらに、「平成25年3月25日付け基発0325第1号『陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン』」では、墜落・転落の危険のある作業においては、労働者は墜落時保護用の保護帽を着用し、事業者は、荷役作業を行う場所の作業環境や作業内容にも配慮した服装や保護具(保護帽、安全靴等)を着用させることを労働災害防止のための対策の一つとしています。

労働安全衛生規則

貨物自動車における荷役作業時の保護帽の着用義務

冒頭のはじめにの部分でも少し紹介させていただきましたが、貨物自動車における荷役作業時の保護帽の着用義務に関しては、昨年(2023年)の10月からその適用範囲が拡大されています。それまで、荷を積み卸す作業を行う時に労働者に保護帽を着用させる義務が生じる貨物自動車は、最大積載量が5トン以上のものとされておりました。それが、安全衛生規則の改正によって現在では次のものが対象となっています。

➣ 最大積載量5トン以上

➣ 最大積載量2トン以上5トン未満で、荷台の側面が開放できるもの
  (あおりのない荷台のあるもの、平ボディ車、ウイング車など)

➣ 最大積載量2トン以上5トン未満で、テールゲートリフター(TGL)が設置されているもの
  (テールゲートリフターで荷の積卸しを行うときに限る)

つまり、テールゲートリフターが設置されている貨物自動車で荷役作業を行う場合で、テールゲートリフターを使わずに荷を積み卸す作業を行う場合、テールゲートリフターを中間位置で停止させ、労働者が単にステップとして使用する場合で、荷を積み卸す作業を行わないときは、保護帽の着用義務は適用されないことになります。

そして、ここでの「保護帽」とは、ヘルメットということになります。しかし、ヘルメットであれば、何でもよいということではありません。そこで、次にヘルメットの種類について確認したいと思います。

安全衛生規則(第151条の74)による保護帽の着用

ヘルメットの種類

ヘルメットと一口に言っても、オートバイに代表される乗車用、スポーツ用、レジャー用、さらに最近特に注目されている自転車用、そして産業用など様々な分野のヘルメットがあります。

労働衛生規則や厚生労働省通達等において荷役作業で着用が義務付けれられているのは、言うまでもなく「産業用ヘルメット」です。この産業用ヘルメットには、主に「飛来・落下用」、「墜落時保護用」、「電気用」の3つの種類があります。

飛来・落下物用は、「飛んでくる物」「落ちてくる物」から頭部を保護するヘルメットです。墜落時保護用は、「墜落」による頭部への衝撃を軽減し、頭部を保護するヘルメットです。電気用は、頭部感電による危険を防止するヘルメットです。

当然のことながら、作業内容ごとに適した種類のヘルメットを着用する必要があります。荷役作業においては、墜落時保護用ヘルメットの着用が必要であり、そのヘルメットは、労働安全衛生法第42条の規定に基づく厚生労働省が定める「保護帽の規格」に適合したもの、いわゆる「型式検定」(国家検定)に合格したものでなければなりせん。

保護帽の検定合格標章

保護帽の型式検定合格品には、「検定合格標章」が貼付されています。また、表示すべき内容も規則で定められおり、その表示の中に、上記で説明した産業用ヘルメットの3つの種類の区分が示されています。つまり、そのヘルメットが物体の飛来・落下による危険を防止するためのものであるか、墜落による危険を防止するものであるか、また、感電による危険を防止するものであるかの区別が表示されています。したがって、荷役作業においては、まず「墜落時保護用」という表示があることを確認する必要があります。

出所 : 陸上貨物運送事業労働災害防止協会 パンフレット 「貨物自動車における荷役作業時の
墜落・転落防止対策の充実に係る労働安全衛生規則等の一部改正のポイント」(掲載画像一部加工)

また、上記の区分のほかにも、型式検定合格(取得(更新))年月、型式検定番号、製造者名、製造年月、保護帽の材質、保護帽の形式名称(品名)などがこの検定合格標章に表示されます。型式検定合格(取得(更新))年月は、「労(○年○月)検」という形での表示となります。つまり、「労(2018.10)検」の( )の2018.10は、年月を表しており、当該保護帽は2018年10月に型式検定に合格していることを意味します。

墜落時保護用ヘルメット(保護帽)の構造

保護帽は、帽体、装着体、アゴひも、衝撃吸収ライナー等の部品によって構成されています。墜落時保護用と飛来・落下物用ヘルメットの構造上の違いは、衝撃吸収ライナーの装着です。墜落時保護用ヘルメットは、帽体内部に衝撃吸収ライナーと呼ばれる衝撃吸収材を備えているため、墜落時の頭部への衝撃を吸収することができるように設計されています。荷役作業において、墜落時保護用ヘルメットの着用が義務付けられているのはこのためです。

墜落時保護用ヘルメット(保護帽)の基本的な構造

出所: 一般社団法人 日本ヘルメット工業会  「『保護帽の取扱いマニュアル』改訂版 24年6月」より

安全確保のために事業者が取り組むべき事項

既に説明したように、昨年(2023年)10月より貨物自動車における荷役作業時の保護帽の着用義務の適用範囲が拡大されています。ただし、事業者としては、こういった規則改訂に関係なく、労働者の安全を確保する責務、安全配慮義務がそもそもあります。したがって、現在の規則上の着用義務がない2トン未満の貨物自動車であっても荷台などから墜落や転落の危険性があるのであれば、労働者に保護帽を着用させる必要があります。

そこで、保護帽に関して労働者の安全を確保するために、事業者として取り組むべき事項をご紹介したいと思います。

(1)保護帽の点検①(耐用年数)

保護帽には、耐用年数があります。当然ながら、耐用年数を超えると性能の低下が進みます。この耐用年数に関しては、保護帽の材質や使用状況、保管方法によっても異なることなどから、法令・規則での定めはありません。ただ、一般社団法人日本ヘルメット工業会では、PC、ABS、PE等の熱可塑性樹脂製保護帽は、外観に異常が認められなくても使用開始より3年以内、FRP等の熱硬化性樹脂製保護帽は、外観に異常が認められなくても使用開始より5年以内に交換するように指導しています。

また、産業用保護帽の製造や販売を行うミドリ安全株式会社、進和化学工業株式会社、加賀産業株式会社の各ホームページにも、保護帽の耐用年数に関して、一般社団法人日本ヘルメット協会と同様の期間が掲載されています(本稿執筆時時点)。

したがって、事業者として、労働者に貸与している保護帽に関し、まず、現在貸与している保護帽が耐用年数を超えていないか確認する必要があります。また、保護帽を貸与した時には、都度使用開始日を記録して一覧表にまとめるなどの管理も重要になります。そして、耐用年数の経過とともに適時交換していくことが求められます。また、使用時からの耐用年数だけでなく、製造年月からもあまりに年数が経過したものについても使用を控え、新しいものを貸与することも必要であると考えます。

(2)保護帽の点検②(使用前点検)

保護帽は、一度でも衝撃を受けたものや、変形、改造されたものは、外観上に異常がなくても本来の性能が低下します。したがって、事業者としては、労働者への貸与前に異常がないか点検することが重要です。また同時に、労働者には、使用前に異常がないかチェックするように指導することも必要になります。その際の点検(チェック)項目として、一般社団法人日本ヘルメット工業会「『保護帽の取扱いマニュアル』 改訂版 24年6月」に掲載されている「保護帽の20のチェックポイント」が有用と考えられますので、簡単に項目だけ下記にご紹介いたします 。

保護帽の20のチェックポイント

〔FRP製帽体 熱可塑性樹脂製帽体(ABS・PC・PE等)〕
①亀裂、ひび、カケ等が認められるもの
②衝撃の跡が認められるもの(損傷、ひび、白化、変形など)
③すりきずが多いもの
④汚れ等の付着物が著しいもの
⑤使用者が改造したもの
⑥ガラス繊維が浮き出しているもの
⑦内装取付鋲等が欠損したもの
⑧著しい変色及び光沢がなくなったもの
⑨取り付け部(ブラケット・フック等)に異常があるもの
⑩変形しているもの〔衝撃吸収ライナー(発泡スチロール等〕
⑪変形しているもの
⑫著しく汚れているもの
⑬きず、割れが著しいもの〔着装体〕
⑭使用者が改造したもの
⑮ハンモックが伸び又は著しく汚れているもの
⑯縫い目がほつれているもの
⑰ヘッドバンドが損傷しているもの
⑱著しく汚れているもの
⑲あごひもが損傷し、又は、著しく汚れているもの
⑳ハンモックが損傷しているもの

(3)正しい着用の指導

保護帽は、その目的に適したものを選択、用意したうえで、労働者に正しく着用させなければ意味がありません。筆者は、大型店舗の納品口でトラックから荷卸しをしている光景に出くわしたり、物流現場の前を通ったりすると、職業柄ついついその様子を見入ってしまうことがよくあります。多くの作業者(ドライバー)は、ヘルメットをきちんと着用して作業をしておりますが、時折、ヘルメットを極端に後ろに傾けていたり、明らかに“あご紐”をかけずに頭にヘルメットを載せているだけのような人を見かけます。トッラクドライバーの場合、事業所を出発してしまうと、運転状況はデジタコやドラレコなどで事業者が確認できますが、荷役となると、作業時間の確認はできても、その様子の把握は容易でない面があります。

そこで、事業者として、トラックドライバーに対して正しい着用を日々指導することが重要になります。たとえば、運行前点呼において、安全運転に関する諸注意に加え、現地で荷役作業が発生し、安全衛生規則で着用義務がある場合やその他危険を防止する必要がある場合は、運行管理者が安全帽の正しい着用についても指導するように徹底を図る、あるいは運行後点呼で着用実績を確認するなどの対応が考えられます。

荷役作業における保護帽の着用時のポイント

➣ 作業内容に合致した保護帽を着用する
  貨物自動車における荷役作業は、基本的に「墜落時保護用」を着用

➣ まっすぐに深くかぶり、後ろに傾けてかぶらないように着用
  (いわゆる「阿弥陀かぶり」(※)をしない)

➣ ヘッドバンドを頭の大きさに合わせて調節して確実に固定して着用
  (ヘッドバンドの調節が悪いと、使用中にぐらついたり脱げやすくなったりする)

➣ あご紐をしっかり確実に締めて着用
  ※阿弥陀かぶり・・・笠や帽子などを後下がりの格好で被ることで阿弥陀の後光に喩えた表現

(4)ヘルメット性能の過信の防止

既に紹介したとおり、産業用保護帽には、労働安全衛生法第42条の規定に基づく、型式検定があり、市販されているものは、その基準に基づいて製造されたものになります。具体的な基準については、「保護帽の規格(昭和50年9月8日労働省告示第66号)」に定めらており、詳細は割愛しますが、概要は次のとおりです。

ヘルメット性能の過信の防止

以上、専門的な用語が多く、イメージが湧きにくいかもしれませんので、一般社団法人日本ヘルメット協会のホームページに掲載されている「作業における頭部保護の重要性」の内容を引用して説明させていただきます。

保護帽を被らずに、上記の規格性能試験方法で紹介した質量5kgのストライカを1mの高さから落下させた時の頭にかかる衝撃は、39kN~49kN(キロニュートン)に達するとのことです。過去の研究では、人間の致死域は約19kNとされており、保護帽を着用することにより、頭部に受ける衝撃を約1/10以下にまで軽減できるのとのです。試験性能の基準が衝撃吸収性能で衝撃荷重が9.81kN以下であることを踏まえると、まさに約1/10まで衝撃を軽減できていることになります。また、50cmの高さから鉄板の上に転倒した時の衝撃荷重を計測すると、保護帽なしでは17kNにもなり、この衝撃は脳しんとうを超えて頭蓋骨骨折を引き起こすほどの値であるとのことです。しかし、墜落時用保護帽ならば、衝撃荷重は約5kNを下回るまで軽減され、さらに転倒の高さを倍の1mにしても衝撃荷重は約7kN程度に抑えられるとも説明しています。

このようにヘルメットの着用は、頭部への衝撃を軽減に非常に有用であることがわかります。まずは、労働者に対して、ヘルメット非着用(誤った着用方法含む)の危険性と着用の重要性について十分に認識させる必要があります。

一方、ヘルメットの着用は墜落時や転倒時に一定の安全を保ってはくれますが、墜落する高さが増せば、当然に衝撃荷重は増大しますし、墜落時の勢い(速度)や態勢などによって損傷の大きさが異なってくる点にも留意する必要があります。そして、何よりも、厚生労働省の「保護帽の規格」は、頭部の安全を確保するための最低限度の規準を定めたものであって、自ずから保護性能には限界があることも事実です。この点を労働者に十分に認識、理解させる必要があります。つまり、保護帽を正しく着用することが必要条件であるものの、それだけでは、必ずしも安全という十分条件は担保されないということ、保護帽の安全性を過信は禁物であることも十分に指導しなければならないということです。

荷役作業などを行う際は、保護帽の正しい着用に加えて、安全確認をしっかり行い、決められた安全作業手順を遵守し、墜落等の事故を未然に防ぐことが何よりも重要になることを繰り返し指導していくことが何より重要になります。

おわりに

今年もまなく夏の季節がやってきます(本稿執筆時点)。報道によると、世界気象機関(WMO)が今年(2024年)3月に公表した報告書では、昨年は観測史上最も暑い年になったとしたうえで、今年はさらに暑くなる可能性が高いと警告したと伝えられています。日本でも、地域によりますが、ここ数年は人の体温に迫る、あるいは超えるような気温の日が珍しくないような状況になりつつあります。

そこで、夏場に向けて、特に注意が必要なのが、トラック車内での保護帽の放置です。JAF(一般社団法人日本自動車連盟)のホームページでは、真夏の炎天下で車内温度がどのように変化するのか、についてのテスト結果が公表されています(URL下記※参照)。テスト内容は、8月の晴天で外気温35℃の状況下において、昼12時から16時の4時間、車内温度を測定するというものです。窓を閉め切った車両(黒色のボディ)では、エンジンを停止させてわずか30分後には車内温度は約45℃を記録し、さらに約3時間後には55℃を超えてしまうという衝撃な結果になっています。筆者もダッシュボード上にヘルメットを置いて走行している大型トッラクをよく見かけます。乗用車と異なり、大型トッラクの場合、JAFのテストとは温度上昇に差があるかもしれません。しかしながら、高温になる場所や直射日光を受ける場所にヘルメットを放置するのは避けるべきです。一般社団法人日本ヘルメット工業会の改訂版24年6月の「保護帽の取扱いマニュアル」においても、注意事項として、「夏季の自動車内や暖房器の近く等のような50℃以上の高温になる場所や、直射日光のあたる場所に長時間放置しないで下さい。(材質が変質し、変色や変形を起こし、性能が低下します。)」との記載があります。

事業者は、トッラクドライバーの安全に関しては、どうしても交通事故防止、安全運転面に注意が集中しがちです。しかし、ドライバーの安全を守るという意味では、保護帽にも注意を向け、貸与している保護帽が墜落時保護用か、耐用年数以内か、傷などはないか、を確認したうえで、正しい着用と高温等の場所での放置の防止を指導していくことも重要な役割、使命であることを改めて認識していただければと思います。

https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-trouble/subcategory-prevention/faq250

(この記事は、2024年5月30日時点の状況をもとに書かれました。)

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