eB/L(電子船荷証券)時代に備える:変革する貿易と国際物流
貿易書類のデジタル化が進む中、B/L(船荷証券)は依然として紙ベースが主流です。本ブログでは、B/Lの電子化が進まない理由、eB/L(電子船荷証券)のメリット、今後の展開について解説します。
1. B/Lとは
まず始めにB/Lの基本的な機能について触れてみたいと思います。B/Lは、貨物の輸送を担当する輸出地の船会社によって発行される書類で、以下の4つの機能を持つ大変重要な書類です。
① 運送契約の証拠:運送の詳細や引き渡しの条件を明示する
② 貨物の受領書 :船会社が輸出者の貨物を受け取ったことを証明する
③ 有価証券 :裏書きによって実質的に他者に貨物の所有権を譲渡する
④ 貨物の引取証 :荷揚港で貨物を引き取る(荷受人は裏書きが必要)
このように、B/Lが運送契約の証拠として機能し、B/Lの保持者が該当する貨物の所有者であることが証明されることで、「支払い」と「引き渡し」の両方が確実に行われることが保証されます。
2. B/Lが抱える課題
貿易や国際物流において必要不可欠なB/Lですが、その性質から様々な課題も抱えています。まず、海外と紙(原本)でのやり取りとなるため、紛失や破損、書類の遅延リスクが存在します。さらに、盗難が発生した場合では、貨物の所有権が第三者に移転してしまうといった損害も考えられます。特に、昨今ではアジア域内など航海期間が短い海上輸送において、貨物が揚げ港に到着しているにも関わらず、B/Lが届いていないために貨物が引き取れない事象も頻繁に発生し、「船荷証券の危機」とも言われています。
このような問題は、B/Lが物理的な交換を前提としていることで生じているものといえます。これら課題を解決するためにB/Lの電子化が求められており、データでの取引が可能になることでリスクを軽減することが可能となります。効率的かつ安全な取引を実現するためにはB/Lの電子化が不可欠であり、貿易および国際物流の発展が促進されることが期待されます。
次に、船荷証券を電子化したものである「eB/L(電子船荷証券)」について、その定義や役割、期待されるメリットなどを解説したいと思います。
3. eB/L(電子船荷証券)とは?
eB/Lは、従来の紙のB/Lの内容をデジタル化し、B/Lに関する発行、権利移転、回収等を電子的に実行できるようにするものです。つまり、紙のB/Lで行われている現在の業務を全く異なる運用に置き換えることではなく、そのままデジタルで再現しようとするものです。eB/Lの運用によって、次のようなメリットを享受できると考えられます。
①業務効率の向上
・入力、転記、出社して署名するなどの作業が不要になる
・記載ミスなどによる不備書類が少なくなる
・これまで数週間を要していた原本の受け渡しに比べて大幅に時間を短縮できる
・システムの導入によって属人化の解消、業務効率化ができる
②管理コストの削減
・紙管理にもとづく煩雑さ,一元的な情報トレースの難しさ,紙に依存した権限管理といった煩雑な処理が不要となり、管理コストが削減できる
③セキュリティの向上
・紛失や盗難といった紙のB/Lで顕在化していたリスクを軽減できる
④環境負荷の軽減
・デジタル化で紙の利用が減るのと、焼却時のCO2排出を抑えることができる
4. eB/Lを利用するための仕組み
現在、貿易手続きをデジタル化するための貿易プラットフォームサービスの立ち上げが世界で活発化してきています。この貿易プラットフォームには、大きく「貿易・金融」と「物流」の2つの区分(種類)が存在します。「貿易・金融」ではインボイスや保険証券といった貿易文書や決済手続きのデジタル化を、「物流」では物流手配のオンライン化やB/Lの電子化といったように、複数の企業がそれぞれの区分においてプラットフォームサービスを提供しています。
貿易・金融の区分には「KOMGO」「CONTOUR」「Marco Polo」「R3」といったプラットフォームがあります。一方、物流の区分には「BOLERO」「CargoX」「IQAX」「edoxOnline」「essDOCS」といったプラットフォームが存在しています。eB/Lの生成・譲渡は、「BOLERO」や「CargoX」といった物流のプラットフォームで行われ、貿易・金融のプラットフォームでは、物流のプラットフォームで生成・譲渡されたeB/LをAPI等で吸い上げ、ミラー情報として貿易・金融のプラットフォームで見られるという仕組みが主流となっています。よって、各プラットフォームでeB/Lを利用するには貿易・金融と物流のプラットフォーム間でのデータ連携が必要となります。そして、輸出入取引の関係者は、これらプラットフォームのサービスプロバイダーの規約に同意した上で、eB/Lを利用できるようになります。
次に、eB/Lは大きなメリットがあるにもかかわらず、依然として普及していない現状について解説していきましょう。
5. eB/Lの利用を阻害する要因
①異なるプラットフォームの連携といった技術的な問題
貿易プラットフォームには様々なプラットフォームが存在することは上記で紹介しましたが、eB/Lの生成、譲渡、保管のためには、異なるプラットフォーム間の統合や相互連携など、技術的な課題の解決が必要となります。また、不正行為などがあったとしても、改ざんが困難で、多数の参加者に同一のデータを安全に保持できるための「ブロックチェーン技術」といった仕組みが必要となりますが、eB/Lの普及を促進するにはこれらの技術的な基盤が整備される必要があります。
②法律の整備
B/Lは、貿易取引の中で裏書され、流通する有価証券でもあるため、電子記録で実行される裏書行為が有効だと法的に認められるかどうか、現在でも議論されています。eB/Lは、すでにいくつかのプラットフォーマーによってサービスが実用化されていますが、それらはあくまで当事者による当該プラットフォームのサービス規約への”同意”をその法的効力の根拠としており、eB/Lが各国で「権利証書」として法的に認められるかどうかは不透明なままです。各国でeB/Lが法的に認められなければ、サプライチェーン全体の電子化は進まないでしょう。
③ビジネス上の課題
今後複数のプラットフォームが乱立していった場合に、輸出入の関係者にとっては複数のプラットフォームの導入コストが大きな障壁となります。1つの取引のために複数のプラットフォームに登録しなければならないといった無駄は省く必要があり、各プラットフォーム間の情報連携が進んでいくことが望まれます。
また、取引相手の電子化が進んでいない場合には、先行企業は従来の業務を維持しながら、電子化も並行して行わなければなりません。現時点では取引相手によってeB/Lへの切り替えが有効になるか分からず、投資が無駄になる可能性があるため、eB/Lの導入に躊躇している企業も多いことでしょう。
最後に、上記のような阻害要因がある中で、eB/Lを取り巻く環境が今後どのように変化していくのか、そしてeB/L化に向けた企業の対応について示唆をしていきたいと思います。これにより、読者の皆様が今後のB/L電子化の進展を理解し、適切な準備を進めるための指針を提供できれば幸いです。
6. eB/Lを取り巻く今後の環境変化
①貿易プラットフォーム(貿易・金融)
「貿易・金融」では、船荷証券(B/L)以外の書類はほぼ電子化されているか、電子化の見通しが立っています。eB/Lの確認や買い取りについては、物流のプラットフォームとのAPI連携を通じて貿易・金融のプラットフォームに取り込む仕組みが主流になると考えられます。2024年から2027年にかけて、物流のプラットフォームとの連携が進んでいくことが見込まれます。
②貿易プラットフォーム(物流)
一方、「物流」では、現在バルクカーゴ1を中心とした記名式B/L2の電子化が進んでいるものの、第三者への権利移転が可能な指図式B/L3のeB/L化は実証実験段階に留まり、本格運用には至っていません。物流のプラットフォームで生成されたeB/Lの確認や買い取りについては、上述した「貿易・金融」のプラットフォームとのAPI連携により引き渡す仕組みが主流になりますが、このプラットフォーム間の連携は、①と同じく2024年から2027年にかけて進展していくことでしょう。
③法律の整備
2017年7月に、UNCITRAL(国連国際商取引法委員会)は、貿易プラットフォームの利用が先行している実態に対応するため、B/Lと為替手形、約束手形、倉庫証券の電子化を想定した電子商取引に関する「モデル法4」を採択しました。そして、2018年11月に バーレーンがこのモデル法を採用し、世界で初めて国内法化しています。次いで、2021年2月にシンガポールでもモデル法に基づき、改正電子取引法を成立させています。そして、イギリスでもモデル法をもとに、2023年7月に「電子貿易文書法(Electronic Trade Documents Act 2023)」が法制化され、デジタルの貿易文書が紙の文書と同等の法的効力を持つことが認められました。イギリス法系の国々では、UNCITRALのモデル法を国内法化するアプローチで、法整備が進んでいくことでしょう。一方、中国ではロッテルダムルールをモデルにしたeB/Lの国内法制化を検討しています。
日本においては、現在eB/Lの導入とそれに伴う規制を検討している段階であり、2025年内に電子船荷証券(eB/L)法に関する法案が国会に提出される予定で、2027年中の法制化が見込まれています。
7. eB/L化に向けた今後の対応
以上のように、eB/Lを取り巻く環境は2027年を目途に大きく改善されると考えられます。そのため、各企業におかれましては、今すぐ電子化を急ぐ必要はありませんが、各プラットフォームの機能や法制化の進展状況を注視しつつ、B/L電子化に対して柔軟に対応していくことが求められます。
eB/Lの本格的な運用にはもう少し時間がかかるものの、B/Lの電子化は情報の正確性向上や管理業務の効率化をもたらします。取引先のニーズを考慮し、eB/Lの普及や法制化の時期に合わせて、電子化を見据えた社内のワークフローを見直しておく、自社や取引相手の状況を鑑みてどのプラットフォームを選定するべきかの情報収集を進める、事前に取引相手と相談しながら導入時期を検討していくなど、“電子化の準備”を進めておくことが重要となるでしょう。
図:eB/L化に向けた時間軸のイメージ
出所:各種情報よりNX総研作成
注:あくまでイメージであり、この通りになるとは限りません。
(この記事は2024年7月4日の情報をもとに執筆しました。)
- 「バルクカーゴ」とは、鉄、鉱石、穀物といった原材料など、包装せずに船積みされる貨物をいう
- 「記名式B/L」とは、受取人が最初から指定されている船荷証券で、第三者への譲渡はできない
- 「指図式B/L」とは、輸出者が裏書することで第三者へ譲渡することができる船荷証券
- モデル法(MLTER:The Model Law on Electronic Transferable Records=電子的転送可能記録のためのモデル法)は、各国が自国の国内法の一部として制定するための指南書として国連よりリリースされた立法テキスト
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