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「Logistics Academy」(物流センター管理者の育成プログラム)の成果と期待

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シニア・コンサルタント

坂東 隆史

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図 1:Copilotにより筆者作成

はじめに

物流2024年問題の真っ只中、いよいよ多くの企業で対策が取られているかと思います。これまで物流に係わることは、メーカー・小売業(荷主)の物流部門や3PL※ 業者、物流業者に任せていれば良かったかも知れませんが、これからはCLO(物流統括管理者)の設置など法制化も進み、荷主と物流業者が協力して現状の改善を進めて行く必要があります。それにはやはり、上流からの変革と合わせ、物流現場で働く人たち、またはその所長、リーダーたちの意識や知見、技術のレベルアップも図る必要があります。そこで、NXグループの日本通運とNX総研では2023年6月より「Logistics Academy」と称して、物流センターの業績改善を継続的に推進できる人材の育成を目的とするプロジェクトを開始し、1年が経過しましたのでその概要と筆者の所感を述べます。
※「Third Party Logistics」一般的に荷主に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託し遂行すること

Logistics Academyの概要

日本通運では三層構造の教育訓練プログラムを実施し、ロジスティクスソリューション事業のスループット拡大を図っています。
1階層目:Logistics boot Camp_ロジスティクスリーダーの育成
2階層目:Logistics Academy_物流センター管理者の育成
3階層目:e-learning_Logistics Operation

Logistics Academy(以下、LA)は、物流センターの所長、課長等の管理者を対象とし、業績改善を推進できる人材を年間100名育成することを目的としています。
また、受講者はNX総研の「ろじたん※」を利用し、KPIマネジメント・作業記録・データ分析・改善の実践を行うことで、下記の3つを到達点としています。

・物流センターの業績向上を妨げる原因を特定し、顧客や各ステークホルダーとの協議・交渉を通じて、対策の策定・実行ができる
・TOC(制約理論)を用いてオペレーション上のボトルネックを特定し、「フロー」を改善することにより、物流センター全体の処理能力向上を実現できる
・数値管理によって改善効果を検証すると共に、継続的に改善活動を推進できる

ろじたん紹介動画

LAのSessionカリキュラム

LAでは毎年100名が受講しますが、グループを4つに分けて1グループ25名~30名程で纏め、1グループ~4グループまで2カ月毎に順次受講開始し、各受講者は全9回のSession+現地実践の形式で半年近く受講を継続します。

当社はこのカリキュラムに合わせて、責任者1名、コンサルタント5名、事務スタッフ4名で担当し、下記の役割を担っています。

①時間計測ツールとして使用するろじたんの説明・導入・分析のサポート・最終レポート作成支援
②各セッションの提出物の確認(提出物の追い出し、内容の形式チェック、採点)
③ヘルプデスク

受講者である物流センターの所長や課長、リーダーは当然のことながら各自現場の通常業務(物流業務は通常と言いつつイレギュラー対応が多い)を行いながら半年間の受講を進めるため、相当な負荷がかかります。それぞれ物流現場のプロではあっても、データ分析や課題提出のためのITスキルアップなど、これまで対応する機会がなかったことにも取り組まなければなりません。
但し、実際に物流現場で働く方の多くは「前任者からこの業務フローで引き継いだから」「顧客(荷主)から言われているから(契約だから)」と業務を進めざるを得ないケースが多いです。ともすれば本当にその作業が適正で適切なのか、荷主との契約内容と比べてどうなのか、生産性は考えられているのかなど、検討する余地を与えられない現場が多いため、LAを通して、受講者が顧客や現場スタッフとデータに基づいた折衝や改善を進められるように、当社が伴走しています。

ろじたん導入~分析レポート作成支援

図 2:NX総研作成企画書から抜粋

提出物の確認

図 3:NX総研作成企画書から抜粋

課題図書:ザ・ゴール、ザ・ゴール2(エリヤフ・ゴールドラット著)

受講者はLAのカリキュラムとろじたん導入によるデータ分析結果から「改善のための打ち手」を複数実施していきますが、打ち手を実施するには荷主や現場スタッフの理解も事前に得て、周りを巻き込んで行かなければ、大きな効果は期待できません。そのため、受講者はある程度の事前知識も備えておく必要もあります。
また、LAを受講開始するにあたり、受講者はSession毎に課題を提出していかなければなりませんが、読者の皆さんの中に物流センターの管理者がいらっしゃる場合、どれぐらいの方が「今」この段階で全てを把握されて、ご自身で完結できますでしょうか。「以前からデータと現状は把握して改善を実施している」という方はそのまま進めて頂ければと思いますが、そうではないケースが多いかと思います。そこでLAを受講する方は全員が図4のザ・ゴール、ザ・ゴール2を読んで取り組むことを必須としています。この本は今から40年前の1984年に出版されたビジネス小説で、製造業向けに「制約条件の理論(TOC:Theory of Constraints)」を読みやすい小説仕立てで説明されています。2001年に日本語版も出版されて、今も人気のシリーズとなっています。筆者自身もこの本から多くの事を得て、今も役立てています。

図 4:課題図書「ザ・ゴール」「ザ・ゴール2」表誌

本書の内容を筆者抜粋

・ボトルネック工程を突き止め、スループットを最大限にするため、全員で改善に集中する
・ボトルネック以外の工程ではボトルネック工程と同じペースで進める
・サプライチェーン全体で考えると、上流がボトルネックであることも少なくない
・時に既成概念を打ち破ることも重要である(引継いだ手法を変えなければ改善はできない)
・ボトルネックは解消しても、また新たなボトルネックが現れる

本書内の稲垣公夫氏解説から筆者抜粋

「本書の目的はTOCという、従来の考え方とは大幅に異なる革命的な改善手法を世の中に普及させるのを主目的として書かれたのだが、もう一つ重要なメッセージが込められている。それは、TOCを使って現場改善を行うことによってできた時間を家族や個人の生活を豊かにするために使いなさいということである」

日本では人口減少に伴い、労働力不足が深刻化していますが、物流センターでもスタッフ不足に直面している現場が多いです。そのため、どうしても売り手市場となってしまい、スタッフには辞めてほしくないことから、無駄があっても見過ごすことや無駄を見つけようとしないケースが散見されます。または、残業代が減ると他の会社に転職してしまうため、残業代を稼ぐために遅くまで残っているスタッフがいても、咎めない現場が多く、改善には手が付けらないこともあります。
但し、本書の通りTOCを使ってボトルネックを突き止めて改善を行うことで、スループットを最大化し、自社も顧客も利益拡大に繋げることが、実は現場で働くスタッフの残業代の代わりに給与や時給UPにも繋がることや、無駄な時間を見つけて解消していくことが、家族や個人の生活がより豊かになることに繋がることを再確認できるため、ビジネスマンであれば一度は読まれることをお勧めします。

最終分析レポート

図 5:最終分析レポート_サンプル表紙

レポート内容

1.対象拠点の紹介 2.これまでの課題の整理 3.分析結果と目標数値 4.課題に対する打ち手/改善結果 5.まとめと今後の取組み

受講者は約半年のカリキュラムの最後に最終分析レポートをPowerPointで作成し、提出することになっていますが、全国の拠点にいるため、当社コンサルタントはオンライン会議や対面での打合せを併用しながら、レポートフォーマットのサンプルに従い受講者が作成した資料に対してアドバイスをする形式で完成させます。ここが受講者と担当コンサルタントの腕の見せ所でありクライマックスです。それまでの期間でどれだけ早くデータ分析を進められたか、周りを巻き込んで打ち手をいくつ実施できたかによって、改善できる内容や効果も違いますが、当然レポート内容や質も大きく変わります。

最後に

LAの1年を通して、筆者は「受講者がどれだけ積極的に取組んだか。データに基づいて自社の常識や既成概念を打ち破ろうとしたか」が改善結果を左右すると感じています。会社員である限り「上司が言うから」「顧客とは昔からそのやり方で進めているから」と進めてしまうケースが多いかと思います(筆者もその部分は依然として残ります 笑)。しかしそれが、勘や経験ではなく、データドリブン(Data Driven)で考えられ、従来は解析できなかったデータを詳細に分析し、戦略の策定や意思決定に積極的に事業へ活用していくことで、少しでも現状が良くなれば幸いです。また、物流センターの所長の上司である経営者の皆様、顧客(荷主)の皆様にも、部下や物流業務を委託する取引先からデータに基づいた改善提案であれば、前向きに検討していただくよう、筆者からもお願いしたいと思います。

今年(2024年)からLAは国境を越え、海外の拠点でも実施する計画となっています。10年続くプロジェクトとして継続的に改善と発展を遂げていき、受講者が合計1000名を超えたとき、受講者はもとより物流現場で働く方々の技量も向上し、モチベーションアップにも繋がっていること、取引先を含めて関わる方が明るい未来となっていることを願い、引続き筆者も伴走して行きたいと思います。

(この記事は、2024年7月16日時点の状況をもとに書かれました。)

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