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【倉庫改善】事例から学ぶワークサンプリング実践上の3つのポイント

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取締役 兼 リサーチ&コンサルティングユニット4
ゼネラルマネージャー

井上 浩志

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ワークサンプリングは、簡易かつ定量的に現場を把握することができる優れた計測ツールです。その実施上のポイントは①仮説を持ち調査目的を明確にする、②計測中に気が付いたことはメモ書きする、③定量的・定性的に把握した課題と解決策を構造化する、の3つです。この記事ではワークサンプリングの3つのポイントについて詳しく説明させていただきます。

企業の概要と経緯

A社は、売上高45億円で従業員80名を要するアパレル卸です。A社の外部環境は厳しい状況でした。例えば、流通加工の要求の高度化、商品アイテム数の増加、低価格要求かつ品質の高度化、安心・安全・環境の要求、中国企業の脅威など対処すべき事項がいくつもありました。

コンサルのキックオフの段階で、A社の社長より現在の経営課題として、①拠点の集約化、②漏れなく確実な売買の計上(計上ミスの防止)、③在庫回転率の向上、④システム在庫と棚卸し在庫の一致、⑤合理的な物流活動(流通加工、不要作業、在庫管理、人員体制等)、⑥品質要求とコストのバランス、の6つを伝えられました。

今回のテーマであるワークサンプリングは、分散している物流センター機能の見直しと物流活動の効率化を目的に、現状把握を簡易に行うための手法として採用しました。ワークサンプリング(Work Sampling)法とは、人の活動、機械の稼動などを、瞬間的な観測を多数回繰り返し(ランダムな時間間隔)、実用上満足な信頼度と精度で、対象となる現象の発生率を推定する方法のことです。IE(Industrial Engineering) の分野の中で、稼働分析の手法として使用されています。

ポイント1)仮説を持ち調査目的を明確にする

A社のワークサンプリングでは、現地視察後に仮説を立て、調査目的を明確にしてから実施をしました。調査目的の裏返しが仮説だと思って下さい。今回の調査では、①時間別の作業項目(作業場所)とその人数の把握、②通常業務を阻害している付帯業務や突発業務の把握、③不要業務の存在の把握、④計測結果より各作業項目における稼動状況の推測、の4つです。

調査目的を明確にすることで、計測対象となる作業項目(作業のかたまり)を設計することができます。計測する作業項目で今回の目的が達成できるのか否かは、ワークサンプリングの成否の重要なポイントになります。調査方法を図表1のように、また、作業項目を含んだ調査記入シートは図表2の通りとしました。

図表1:調査方法

図表1:調査方法

図表2:調査記入シート

図表2:調査記入シート

ポイント2)計測中に気が付いたことはメモ書きする

A社の予算との兼ね合いもあり、3名の調査員で1日に限定した調査としました。本来は3日~5日程度行う方が望ましいと考えますが、ここはやむを得ず割り切りです。また、ワークサンプリングでは、計測を通じて作業実態を目視確認することができるため、気が付いたことをメモ書きすることも有効です。本調査では1日の計測を通じて次のような気付きを得ることができました。

・コンテナ、トラックの入荷直後にエレベータ待ちが発生している。
・1Fと7Fでは、商品を置く場所が無いため、既に置いてある商品を移動して置き場を確保している。
・1Fの保管のフロアーにて、出荷商品の保管場所が分からず担当者が探している。
・地方卸向けケース割れ保管場所で、長時間電話のやり取りが複数回発生している。
・入出荷バースには複数台の車輌が駐車できるものの、構内スペースが非常に狭いために、荷物が構内に滞留し、荷捌きの作業効率が低下している。
などがありました。このような観察で分かった情報も合理化を検討する上でヒントとなりますので、気になったことは必ず書き留めるようにして下さい。

計測後に調査記入シートをデータ化します。これは少々骨が折れる作業です。面倒ではありますが、紙の調査記入シートに基づきEXCELへ手入力してデータ集計を行います。集計結果の一部として、図表3と4を例示します。

図表3は入荷プロセスの時間帯別の作業人員数(正確には換算人時)をグラフにしたものです。9時と10時に0.5人時~1.5人時のエレベータ待ちが生じていることが分かります。付加価値に直結しない、いわゆる付帯作業と呼ばれる運搬や移動にも多くの時間を費やしていることが分かります。荷捌きエリアが狭く多層階構造が原因と考えられます。このような付加価値に直結しない作業は、優先的に改善対象として取り上げて下さい。

図表3:入荷プロセスにおける時間帯別の作業人員数

図表3:入荷プロセスにおける時間帯別の作業人員数

図表4は、物流センターのエリア別に稼働する人員数を表しています。ワークサンプリングでは、作業以外にもエリア別の人員数を把握することも可能です。近年ではBLE(Bluetooth Low Energy)のビーコンを使った位置情報の取得も盛んになっていますが、図表4のような、ゾーンレベルの計測であればアナログで行うことも可能です。

図表4:時間帯別のエリア別作業人員数

図表4:時間帯別のエリア別作業人員数

ポイント3)定量的・定性的に把握した課題と解決策を構造化する

ワークサンプリングで定量的に把握できたこと、計測を通じ目で見て感じたことを集約課題として整理します。ただし、ワークサンプリングはA社のコンサルのごく一部でありましたので、それ以外の現状把握として、ヒアリングやオーダー情報に基づく業務分析や情報システム機能などにも触れています。図表5のように課題と取り組みテーマの関係性が分かるように表現することも論理的に理解する上で効果的です。

図表5:課題と取り組みテーマ

図表5:課題と取り組みテーマ

最終的にワークサンプリングで把握したことを含めて、物流センターの集約後のレイアウトを提示しました。入庫やピッキングでエレベータを使った上下移動を伴う運搬や場所を探すケースが多数発生していたことから、出荷頻度に応じて、補充エリアとピックエリアを明確に分けるダブルトランザクション構造としました。

なお、納品先カテゴリー別のエリア分けではなく、アイテムの出荷頻度別に保管エリアを分けることを提案しました。これにより、在庫置き場を明確化してモノを探す作業を軽減し、エレベータによる上下移動のロスを最小限に抑えることを目指しています。図表6が提案したレイアウト構造となります。

図表6:レイアウトの組み換え案

図表6:レイアウトの組み換え案

まとめ

このようにワークサンプリングは、あくまでも短時間かつ限られた期間からの推計とはなるものの、簡易かつ定量的に現場を把握することができる優れた計測ツールです。1)仮説を持ち調査目的を明確にする2)計測中に気が付いたことはメモ書きする3)定量的・定性的に把握した課題と解決策を構造化する、この3つを意識することが、具体的な改善への近道となります。現場の改善活動部門に所属する方であれば、是非一度お試しください。

※ワークサンプリングを簡単、スグ、低コストに行いたい方は、倉庫作業分析ツール「ろじたん」が便利です。

「ろじたん」とは、スマホアプリとWebの連携により、倉庫内の作業時間を計測するツールです。

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