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環境対策だけではない、物流業界に求められるSDGs

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シニア・コンサルタント

大原 みれい

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はじめに

近年、我が国でもSDGsへの注目度が高まってきており、物流業でも取り組みが進んでいます。SDGsの取組みは、CSRやESGだけでなく、BCP、働き方改革、生産性向上、ダイバーシティ推進など、今まで個別に取り組んできた対策の集大成であるといえます。

SDGsとは

持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)は、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs: Millennium Development Goals)の後継であり、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている国際目標です。地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、2030年を年限とする17のゴールと169のターゲット、232の指標により構成されています1
近年、我が国でもSDGsに対する注目度が高まっており、多くの企業において、SDGsの目標達成に向けた取組みが進められています。カラフルなSDGsロゴを街中や広告で目にすることも増えてきました。

図 SDGsロゴ

図 SDGsロゴ

(資料)国際連合広報センター

世界のSDGsランキング

各国におけるSDGs達成状況を測る指標として、UN Sustainable Development Solutions Network (SDSN)とベルテルスマン財団が2015年以来毎年発行している”The Sustainable Development Report (SDR)”があります2 。SDRはSDGsの公式なモニタリングツールではないものの、SDGsに関する各国のパフォーマンスをモニタリングし、ランク付けするためのデータを提供しています。SDRの2021年版は2021年6月14日に発行されました。
各国のSDGs達成状況は、総合スコア(Overall score)で比較することができます。総合スコアは17のSDGsを達成するための全体的な進捗状況を測ったもので、SDGs達成のパーセンテージとして見ることができ、スコア100はすべてのSDGsが達成されたことを示します。
2021年版では、165ヵ国のうち3、最もSDGsが進んでいるのはフィンランドで85.90でした。次いでスウェーデン(85.61)、デンマーク(84.86)など、上位20位のほとんどはヨーロッパ諸国が占めています。これは、ヨーロッパ諸国では、SDGsが始まる前からサステナビリティやジェンダー平等、ライフワークバランスに対する高い意識が根付いていたことなどによるものと考えられます。

表 SDGsランキング

表 SDGsランキング

(資料)Sustainable Development Report2021を基にNX総研作成

日本の世界ランキング

日本は第18位とアジアでは首位でありますが、年々順位が下がっている傾向にあります。ゴールごとのスコアを見たところ、日本は、「目標1:貧困をなくそう」、「目標4:質の高い教育をみんなに」などのスコアが高い一方で、「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」などが低い結果となっています。
ジェンダー平等について、日本は、世界経済フォーラムが公表するジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index)でも毎年低評価となっています。ジェンダーギャップ指数2021では、日本は156ヵ国中120位と、先進国の中で最低レベルであり、ASEAN諸国よりも低い水準に止まっています4
ジェンダーギャップのスコアは、0が完全不平等、1が完全平等を示しており、日本は、「健康 (Health and survival)」 と「教育 (Educational attainment)」でのスコアはそれぞれ0.973、0.983と高いものの、「経済 (Economic participation and opportunity)」が0.604、また「政治 (Political empowerment)」が0.061と極めて低いことが、ランクを下げる大きな要因となっています。
本レポートでは、政治分野については女性の参加割合が低く、国会議員の女性割合は9.9%、大臣の女性割合も10%程度に止まっていること、また、経済分野についても、管理職の女性割合の低さ(14.7%)や平均所得の男女差(女性の平均所得は男性の平均所得より43.7%低い)、パートタイムで働く女性の割合が男性の倍以上(男性22.2%、女性50.8%)であることなどが指摘されています。
厚生労働省が公表している「産業ごとの通常の労働者に占める女性労働者の割合の平均値」では、産業計が25.5%であるのに対し、運輸業・郵便業は11.8%、「女性の通常の労働者の平均継続勤続年数の平均値」は、産業計が9.6年のところ、運輸業・郵便業は9.0年、「管理職に占める女性労働者の割合の平均値」は、産業計が10.2%であるのに対し、運輸・郵便業は4.2%と低くなっており5、わが国全体だけではなく、物流業界にとってもジェンダーギャップや女性活躍は重要な課題であるといえます。

日本におけるSDGs企業ランキング

週刊東洋経済では、①人材活用、②環境、③社会性、④企業統治の4つのカテゴリーにおける90の評価項目でSDGsに取り組む日本企業をランク付けしています6
カテゴリーごとの項目数および配点の合計を見ると、①人材活用カテゴリーは26項目・75点、②環境カテゴリーは22項目・67点、③社会性カテゴリーは22項目・64点、④企業統治カテゴリーは20項目・54点となっており、女性活躍や働き方、人権尊重などが含まれる①人材活用が比較的重視されているとも取れます。
なお、本ランキングでは、項目により配点が異なり、①人材活用カテゴリーでは、有給休暇取得率や勤務形態の柔軟化に関する諸制度、②環境カテゴリーでは、環境問題を引き起こす事故・汚染の有無、環境分野・CO2排出量等削減への中期計画の有無、③社会性カテゴリーでは、社会貢献活動支出額、ボランティア休暇、④企業統治カテゴリーでは、内部通報件数などの配点が高くなっています。

SDGs=環境対策ではない

日本では、SDGs達成に向けた取組みとして、温暖化への対応策、すなわち環境面にフォーカスされることが多いように感じられますが、前述の2つのランキングからもわかるように、SDGsは環境対策だけに焦点を当てたものではありません。SDGsでは経済成長・社会的包摂・環境保護の3つの核となる要素の調和を図ることが求められており、複数の目標に対する包括的なアプローチが必要とされています。
我が国にとってはジェンダー平等がSDGs達成の大きな課題となっていますが、一方で、帝国データバンクによれば、SDGsの17の目標の中で、現在力を入れている項目として「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」を選択した企業の割合はわずか10.1%でした(複数回答)7。最も回答が多かったのは「目標8:働きがいも経済成長も」(32.0%)であり、次いで、「目標7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」(22.3%)、「目標12:つくる責任つかう責任」(20.9%)、「目標13:気候変動に具体的な対策を」(19.5%)など、経済や環境に関する項目が上位に挙がっています。

物流企業の取組事例

外務省では先進的な企業の取組事例を紹介しており8、運輸・物流業としては、佐川急便(株)、シーアール物流(株)、(株)商船三井、ダイワ運輸(株)、日本航空(株)、藤森運輸(株)などが掲載されています。
各社においては、技術革新や物流効率化による生産性向上、安全運行/運航、働き方改革、人材育成、ダイバーシティ推進、地球温暖化対策など、多岐に渡る取組みを実施していますが、物流企業ならではの取組みをいくつか紹介したいと思います。

まず、物流企業の多くは、モノを運ぶ手段としてトラック・鉄道・船舶・航空機などの輸送機器を日々使用/利用しています。
運輸部門のCO2排出量は我が国全排出量の約2割を占めるとされており、多くの物流企業においては、輸配送の効率化(積載効率の向上やルート最適化によるトラック等の台数や走行距離の削減など)、低公害車等の導入、クリーンエネルギーへの転換などが図られています。排出量の多い航空機や自動車輸送を、環境負荷の小さい船舶や鉄道による輸送へ転換するモーダルシフトも推進されています。
このような、これまでCSRやESGなどで取り組んできた環境対策がまず挙げられます。

生産性向上への取組みとしては、例えば、シーアール物流(株)の例では、物量シミュレーションや配送シミュレーション等、科学的物流管理に基づく物流サービスの提案や、運び方改革として、独自車両の開発やRPA の推進、オペレーションの効率化などが進められています9
また、生産性だけでなく、労働時間の削減や職場環境の改善を含め、従業員にとってより働きやすい環境を整備することも重要です。

そして、前述のとおり、物流業界では女性従業員比率が低いことなどから、男女比や格差の是正、さらなる女性活躍などに向けた取組み、さらにジェンダー以外にも、外国人、高齢者、障がい者などを含めたダイバーシティ推進に取り組んでいる企業もあります。

(資料)マストアークス(株)ホームページ

(資料)マストアークス(株)ホームページ

コロナ禍においても、物流の社会インフラとしての機能の重要性が再確認されましたが、災害発生時の緊急物資輸送対応などの社会貢献のほか、顧客のサプライチェーンを途絶させないための代替輸送の構築などの取組みも、SDGsの「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」に含まれる「強靱(レジリエント)なインフラ」や、「目標11:住み続けられるまちづくりを」に直結します。これには各社におけるBCPの策定も欠かせません。

(資料)浜松倉庫(株)ホームページ

(資料)浜松倉庫(株)ホームページ

おわりに

私たち日本人にとっては、開発途上国の貧困削減がターゲットとされたMDGsはどこか他人ごとのように感じられた部分もありましたが、SDGsは途上国だけでなく、先進国を含めた目標であり、私たちや地球の未来のためのものです。
こうして見ると、SDGsの取組みは、CSRやESGだけでなく、BCP、働き方改革、生産性向上、ダイバーシティ推進など、今まで個別に取り組んできた対策の集大成であるとも言えるのではないでしょうか。
これまで、自社や自社の従業員、グループ会社や取引先、地域の企業や消費者など、身近な人たちがより働きやすく、よりハッピーになるように進めてきた各社の対策が、SDGsの名のもと、また、SDGsが掲げる「パートナーシップ」(目標17)のもと、横断的かつ総合的な推進目標になったと考えられます。その多くは、例えば、就業時間管理、安全運行・運航の徹底、エコドライブ、コンプライアンスの遵守、従業員間や取引先とのコミュニケーションなどにおける日常の一コマ、一項目であり、SDGs達成に向けた大きな目標が掲げられている中でも、詰まるところは一人ひとりの日々の努力の積み重ね、ということになり、目標達成には、私たち一人ひとりがSDGsを自分ごととして捉え、日々行動していくことが重要であると考えられます。

写真 SDGsカラーが取り入れられたシャッター(都田流通センター)

SDGsカラーが取り入れられたシャッター(都田流通センター)

(資料)浜松倉庫(株)提供

(この記事は2022年3月31日の情報をもとに書かれました。)

  1. 外務省ホームページ
  2. UN Sustainable Development Solutions Network (SDSN) ホームページ
  3. 国連加盟国193ヵ国のうちデータの取得が可能であった国数
  4. World Economic Forum “Global Gender Gap Report 2021”
  5. 厚生労働省雇用環境・均等局長「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく認定制度に係る基準における「平均値」について」(2021.6.24)
  6. 東洋経済新報社、週刊東洋経済「特集 SDGs 日本を代表する500社」(2021.7.3)
  7. 帝国データバンク「特別企画:SDGsに関する企業の意識調査(2021年)」(2021.7.14)
  8. 外務省ホームページ
  9. シーアールグループホームページ

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