物流業界でも女性活躍は進むのか?そのカギは?~倉庫業編~
2016年4月に女性活躍推進法が施行されました。これまでの物流業界では男性が中心的な役割を担ってきましたが、少子高齢化社会の進展が加速しており、このままでは将来事業継続が困難となる可能性もあります。そこで、345 万人といわれる女性の潜在労働力、およびダイバーシティ経営の観点から、女性労働力の活用への期待が高まっています。この記事では、倉庫業における女性活躍の事例をご紹介させていただきます。
女性フォークリフトオペレーターの積極的な採用
明治40年創立の浜松倉庫(株)は、静岡県にて倉庫業・通運業・一般貨物運送業・不動産賃貸業を営む老舗企業です。同社の中山社長は、約15年前に、将来男性正社員の雇用が厳しくなる可能性を予想し、2005年より女性フォークリフトオペレーターの採用を開始しました。女性をフォークリフトオペレーターとして採用するということは、当時は斬新な考えだったかもしれませんが、フォークリフト作業は手荷役作業が少ないため、女性が活躍しやすい職種であること、また、浜松には大学が少なく若者が首都圏に出てしまう傾向にあるため、若年層の人材確保戦略として、高卒の女性に着目したそうです。さらに、2013年より、将来の幹部候補となる総合職でも大卒の女性を採用しています。
図1 女性フォークリフトオペレーターの活躍
写真提供)浜松倉庫
女性活躍の3R(採用、定着、育成)にかかる取り組み
「採用(Recruit)」については、浜松倉庫は、高校を訪問して会社の説明を行ったり、高校生のインターンシップを受け入れたりするなど、特にフォークリフトオペレーターの獲得に向けて、積極的な働きかけを行っています。実際、高校の新卒採用者では、学校の先生からの紹介や、入社した先輩からの口コミなどをきっかけに入社した社員が多いそうです。
「定着(Retain)」に向けては、女性社員の意見を取り入れながら、職場環境の整備を進めました。女性専用トイレと更衣室の設置、特にウォシュレット付きトイレの設置については、女性社員より大変感謝されているそうです。人事制度面では、産休・育休、時間短縮勤務制度といった仕事と家庭の両立支援制度を整備しており、毎年4名程度が産休・育休制度を活用しながら長く働き続ける女性社員が増えています。
「育成(Raise)」面では、女性社員の採用を開始した直後は、女性社員の扱いや配置について色々試行錯誤があったそうですが、現在では、身体能力的にどうしても持つことができない超重量物を除いて、業務上の男女差はありません。業務だけでなく、研修についても男女の区別なく受講させたり、フォークリフトコンクール等においては女性を積極的に参加させたりするなどしています。
同社が女性正社員に対して実施したアンケート調査結果によると、「働きやすさに繋がっていること」として、事務職、現場職ともに「女性社員が多いこと」、「子どもがいる女性社員が複数人いること」が最も多く挙げられました。そのほか、事務職では「女性社員が役職に就き男性と同等に活躍できていること」、現場職では「男女関係なく業務指導を受けることができる」、「男女関係なく同じように働いていること」などが挙げられています。
このことから、人事制度や職場環境の整備だけでなく、役職者として働く女性、あるいは、家庭と両立しながら働く女性など、社内に複数のお手本社員(ロールモデル)がいることが、女性社員の働きやすさに繋がっていると同時に、後輩女性社員の励みになっていることがわかります。
図2 浜松倉庫の女性活躍推進に向けた取り組み
取り組みの効果
約15年前からの女性社員雇用推進のための取り組みにより、同社の女性比率は、倉庫部門では30%超、全社では40%超と高くなっています(総務省労働力調査によると、運輸業・郵便業全体の女性比率は19.7%)。社内の雰囲気が明るくなったほか、顧客からは「会社全体が華やかになった」と評価されているようです。
男女平等に研修や業務経験の機会を提供することの成果としては、フォークリフト運転競技大会の女性部門にて上位入賞を果たしたことがあります。また、他社でもよく聞かれますが、女性現場社員が増加したことにより、事故発生率が減少したという効果がありました。
また、これらの取り組みが評価され、同社は平成28年度第1回「浜松市ワーク・ライフ・バランス等推進事業所」認証を取得しました。これにより、採用や社員の意識にもプラスの効果が表れています。
おわりに
浜松倉庫の事例から学ぶべきことは、継続的な取り組みの重要性であると考えます。人事施策の効果は短期間では出にくいことが多いですが、すぐに効果が出ないからと止めてしまうのではなく、試行錯誤を繰り返しながら、粘り強く継続的に取り組むことが重要です。
浜松倉庫でも、女性フォークリフトオペレーターの採用開始直後は、扱いや配慮の仕方に試行錯誤があったそうですが、社員の意見も取り入れながら改善を重ね、現在では女性社員の定着も進み、女性社員の多くが「働きやすい」と思える職場となっています。また、中山社長のように、女性社員を人材不足の穴埋めではなく「戦力」として育てるというトップの考え、ひいては、女性活躍の推進を福利厚生ではなく「経営戦略」として捉え、トップダウンで推進する姿勢も女性活躍推進のカギとなっているのではないでしょうか。
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