救援物資ロジスティクスの今
日通総研ニュースレター ろじたす 第15回ー②(2016年7月19日号 )
【News Pickup】救援物資ロジスティクスの今
平成 28 年熊本地震 過去の教訓はどこまで生かされたのか
過去の大規模災害では常に「救援物資が避難所に届かない」、すなわち救援物資のロジスティクスが円滑に機能しないという問題が発生してきました。本年4月に発生した平成 28 年熊本地震(以下「熊本地震」)においては、この救援物資ロジスティクスの実態がどのようなものだったのか、過去災害の教訓はどこまで生かされたのか等について、現地調査の結果などに基づき整理したいと思います。
◆過去災害で示された課題とその対応策
過去災害における救援物資ロジスティクスの基本的体制は図1のとおり、物資要請に関する情報は避難所→市町村→都道府県→国という順に上げられ、その逆の順番で、要請に対応した物資が輸送されていきます。
図:過去災害における救援物資ロジスティクスの基本的体制
この体制において発生してきた問題およびその解決のために実施されてきた対応策は次のとおりです。
① 災地の物資拠点に物資が滞留してしまう
過去災害では被災地の都道府県・市町村の物資拠点で物資が滞留してしまい、避難所まで流れないという事態が度々発生しました。これは、物資拠点となった施設が主に県庁・市役所などの自治体庁舎すなわちオフィス型施設であったため、物資の出し入れ機能・保管スペース等が十分ではなかったこと、物資の取扱い作業を不慣れな自治体職員が行ったこと等が原因でした。過去災害ではこの事態を、物資の取扱いに適した施設である倉庫等を物資拠点とし、そこでの業務を物流事業者に委託することで解決してきました。
この教訓を踏まえた対策として、災害時に物資拠点として倉庫を確保し、そこでの業務を物流事業者に委託する体制づくりを平時から行うため、自治体と都道府県のトラック協会・倉庫協会との災害時協定締結の取組みが積極的に行われてきました。ただし、災害時に倉庫が空いているとは限らないという問題があることから、自治体が保有し、かつ床荷重が大きく天井が高いなど、物資拠点としてのスペックも優れている産業展示場(東日本大震災では、岩手県が産業展示場の「アピオ」を物資拠点に転用して成功しました)が物資拠点に指定されるようになりました。また、そもそも混乱した被災地ではなく、被災地に隣接した地域に物資拠点を設置することも検討されるようになりました(活動歴の長いボランティア団体は、従来から被災 地近隣エリアに物資拠点を設置するようにしています)。
② 被災地自治体からの要請が無ければ、物資を送り込めない
東日本大震災発生時まで、災害対策基本法では被災地からの要請に基づいて物資を送り込む「プル型支援」のみを行うことになっていました。そのため、東日本大震災のように被災地自治体の被害も大きく、要請を出すこと自体が困難になった場合、物資が必要なことが明らかでも、国等は勝手に物資を送り込めませんでした。そのため、東日本大震災を機に災害対策基本法が改正され、国等が被災地自治体の被害状況から必要な物資量を推測して送り込む「プッシュ型支援」が可能となりました。
◆熊本地震における救援物資ロジスティクス
熊本地震では図の「都道府県物資拠点」に関する業務を、指定公共機関である日本通運・ヤマト運輸が倉庫で行い、実際には熊本県近隣の佐賀県、福岡県にある倉庫が使用されました。このように、物資の取扱いに適した倉庫で物流事業者が業務を行うことにより、救援物資ロジスティクスは大きく効率化され、さらに被災地外に物資拠点を設置したことにより、被災地内への物資の流入のコントロールが容易になったとされています。
また、今回の震災では初めてプッシュ型支援が行われ、大量の食料が国の判断で被災地に送り込まれました。初めてのことであり、ある程度の混乱も発生したようですが、そこで示された課題の検証を十分に行い、今後に生かすことが望まれます。
このように、熊本地震では過去災害の教訓が生かされた部分も大きかったと言えます。ただし、市町村の物資拠点では、やはり物資の滞留等の問題が発生してしまい、これが報道されているような「物資が避難所に届かない」という事態につながったようです。その原因の一つとして、上記の佐賀・福岡県の物資拠点を経由せず、企業・個人等が熊本県内に直接運び込んでしまう物資の量が膨大だったことがあげられています。 また、熊本県では過去の教訓を生かして、産業展示場である「グランメッセ熊本」を市町村用物資拠点に指定していたのですが、吊り天井が落下したことで使えなくなってしまいました。この市町村の物資拠点における混乱は、過去災害と同じく、倉庫を物資拠点とする(写真)こと等により収拾に向かいましたが、今後は被災地への物資の持ち込みをコントロールするための広報の徹底、物資拠点として使用予定の施設における吊り天井等の非構造部材(従来は耐震基準が定められていなかった部材)の強化等の対策が望まれます。
写真:市町村の物資拠点
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