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救援物資を避難所に届けるために

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シニア・コンサルタント

矢野 裕之

日通総研ニュースレター ろじたす 第7回ー②(2015年11月24日号)

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【News Pickup】救援物資を避難所に届けるために

災害用救援物資の物流における「定番トラブル」

先の東日本大震災をはじめ、阪神淡路大震災、新潟県中越地震など、我が国で発生した大規模災害では、常に「大量の救援物資が被災地に送り込まれているはずなのに、それが避難所に届いていない」という事態が発生してきました。
そのような事態になる理由には様々なものがありますが、その中でも、大規模災害では必ず発生してきた「定番トラブル」と言うべきものを今回はご紹介したいと思います。

定番トラブルについて理解するための基礎知識として、災害時における救援物資の一般的な流れを下図に整理しました。
国、あるいは被災していない他の自治体や企業等から供給された物資は、都道府県の物資拠点に届けられ、その後は市町村の物資拠点、避難所という順番で物資が流れていきます。

そして、災害用救援物資の物流に関する定番トラブルとは、この流れの途中にある都道府県、もしくは市町村の物資拠点で物資がせき止められてしまうというものです。そのようなトラブルが発生する主な原因は次の通りです。

図:災害用救援物資の一般的な流れ

図:災害用救援物資の一般的な流れ

まず、過去の災害において被災地の自治体は、県庁舎・市役所等の自治体施設を物資拠点とする傾向にありました。その結果、災害時はそこに物資を満載したトラックが数十台、数百台と到着してしまい、県庁・市役所の回りを膨大な数のトラックが「とぐろを巻いて取り囲む」という状況になります。
そうなると、県庁・市役所の職員は、総出でトラックから物資を降ろす作業に追われることになります。

しかし、県庁・市役所には、企業の物流業務で使われる倉庫等と違い、フォークリフトなどの荷役機器が無く、職員はバケツリレー方式で必死に物資を運びこむことになるため、効率が悪く、トラック1台分の物資を降ろすだけでもかなりの時間がかかってしまいます。
そうしている間にも、物資を積んだ新たなトラックが次から次へと到着します。

そもそも県庁・市役所の物資保管スペースは会議室などに限られており、県庁・市役所の中はあっという間に廊下まで物資で溢れ返ります。このような状況では、物資を改めて水・食料など品目別に仕分けし、さらに避難所別にまとめて送り出すという作業が困難になります。
このようにして、県庁・市役所での物資のせき止めが発生してしまうのです。

筆者は新潟県中越沖地震が発生した頃から、災害時の救援物資物流に関する調査を行うようになり、この「定番トラブル」の存在を知りました。
その後、主に自治体の防災関係者の方達が参加する勉強会で、この定番トラブルについてお話させていただく機会があり、かなりの数の自治体にご理解いただけたのではないかと思います。
ただ、今にして思えば、そのような勉強会に参加された自治体は、関東から西の自治体がほとんどでした。そのため、東日本大震災の被災地となった自治体では、この定番トラブルに関する理解が十分に浸透していなかったと思われます。
たとえば宮城県では、東日本大震災において、県の合同庁舎で物資を受け入れ、パンク状態になってしまいました。
そのため、過去の災害における同様のケースでもそうだったように、物流事業者が倉庫を提供し、そこで物流事業者のスタッフがフォークリフト等を使った物資拠点業務を受託することで、状況が大きく改善されました。下の写真では、そうした倉庫の一つを示しており、自衛隊のトラックが接車しています。

写真:宮城県の物資拠点となった倉庫 ※筆者撮影

写真:宮城県の物資拠点となった倉庫 ※筆者撮影

しかし、東日本大震災発生以降、国の検討会等において、この定番トラブルが改めて問題となり、災害時には救援物資を自治体庁舎ではなく、物流事業者の倉庫等で受け入れる体制の構築に向けた対策が取られるようになってきています。

ただ、この定番トラブルを事前に防ぐ上で最も大切なことは、災害が発生した際、たとえ善意によるものであったとしても、企業や個人が被災地の事情を確認しないまま物資を被災地に持ち込むのを控えるということです。
そのためには、災害発生直後から、行政がこの点についてメディア等を通じ十分なアナウンスを行うことが重要と思われます。

http://www.jta.or.jp/rodotaisaku/kyogikai/pdf/Shipper%20recommendation%20system%20Leaflet.pdf


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