倉庫や物流センターの節電の取り組み ~ 電気料金高騰の影響を回避するために改めてチェックすべき事項 ~
はじめに
昨今、毎日のように物価高騰に関する新聞記事やニュース報道に接しています。家庭への影響もさることながら、企業への影響も少なくありません。当然、物流業界へ影響は直接的かつ深刻なものがあります。株式会社東京商工リサーチは、2022年(1月‐12月)の企業倒産に関して、2023年1月16日付で「道路貨物運送業の倒産、前年比4割超と急増 4分の1が燃料費などの『物価高』」」という見出しで実態情報を公開しています。道路貨物運送業の場合、燃料費(軽油やガソリン価格)高がコスト上昇に即直結することは誰もがイメージできることでしょう。燃料のもとになる原油については、原油需要の高まりの中での原油産出国で組織される石油輸出国機構(OPEC)の増産見送り、ロシアのウクライナ侵攻などの国際情勢、為替の円安基調など様々な要因により価格高騰、高止まりが続いています。そして、この原油高に加えて輸入品価格の上昇などもあって物価高騰に繋がっているとされています。そうした中、最近は電気料金の値上げに関する話題をよく耳にします。これにもウクライナ情勢による石炭や液化天然ガス(LNG)の輸入価格の上昇などが背景にあるようです。物流企業にとって、トッラクなどの燃料費の高騰は言うまでもありませんが、電気料金の高騰も非常に深刻な問題です。とりわけ多くの電気を使用する倉庫や物流センターのなど物流施設にとっては、大幅なコストアップを招きます。節電については、料金だけではなく、環境問題対策の観点からも推進されてきました。したがって、打てる対策は全て実施済みとの見方もあるかもしれません。しかし、見落としている部分や不十分な部分が皆無でないかもしれません。また、大きな効果が期待できないといった理由などで実施を見合わせている内容もあるかも知れません。そこで、「塵も積もれば・・・」の観点で改めて確認することは必要ではないでしょうか。本稿では、道路貨物運送業の倒産状況を確認し、多くの電力を消費する倉庫や物流センターにおいて実施済みであるかを改めてチェックする価値があると考えられる基本的な節電対策の取り組みなどを紹介したいと考えます。
道路貨物運送事業者の倒産
株式会社東京商工リサーチの「年間全国企業倒産状況」によると、2022年(1-12月)の全国企業倒産(負債総額1,000万円以上)は、件数が6,428件(前年比6.6%増)、負債総額は前年比2倍増の2兆3,314億4,300万円(同102.6%増)とのことです。件数では、2019年(8,383件)以来3年ぶりに前年を上回り、負債総額では、5年ぶりに前年を上回って、2017年(3兆1,676億3,700万円)以来2兆円を超えたとしています。また、2022年の「新型コロナウイルス」関連倒産は、2,290件(前年比36.7%増)で、前年(1,674件)の1.3倍に増加。産業別では、燃料費の高止まりが続く運輸業が324件(前年比35.5%増)と2年連続で前年を上回り、このうち、道路貨物運送業が248件(同46.7%増)と急増したと公表しています。さらに道路貨物運送業の倒産に関して、2023年1月16日付の同社の公表資料では、もう少し内容が詳細になっています。それによると、道路貨物運送業の2022年(1-12月)の倒産件数は前述のとおり248件(前年比46.7%増、前年169件)で、2年連続で前年を上回り、件数が200件台に乗ったのは、2015年の240件以来、7年ぶりということです。このうち、燃料費高騰など物価高を要因としたものは69件(構成比27.8%)で、4分の1を物価高に関する倒産が占めており、外部環境の悪化が道路貨物運送業者を直撃しているとの見方を示しております。負債総額は379億1,000万円(前年比115.0%増)で、2年ぶりに前年を上回り、2014年(473億5,300万円)以来、8年ぶりに300億円以上となり、2013年以降の10年間では3番目に高い水準との内容です。
公益社団法人全日本トラック協会が令和4年3月に発行した「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2022」に掲載されている「一般貨物運送事業損益明細表(全体の平均値)」によると、令和2年度の場合、営業費用のうち、最も高いのが人件費の39.8%で、次いで高いのが燃料油脂費の12%(内訳:ガソリン代0.5%、軽油費11.2%、その他0.2%)となっています。トラック輸送の原価の中で1割以上をいわゆる燃料費が占める実情を踏まると、燃料費の高止まりは、トッラク事業者の経営に直接的かつ極めて深刻な影響を与えることがより明白になります。今後も燃料費の高騰や高止まりが続き、コストアップ分の運賃料金への転嫁ができないと道路貨物運送業者の倒産が加速化することが懸念されます。
倉庫業者等への影響
道路貨物運送事業者と並んで物流の中核を担っているのが倉庫業者などです。この倉庫業者なども道路貨物運送事業者と同様にコスト上昇による業績悪化が強く懸念される事業者と考えらます。もう少し具体的に表現すると倉庫や物流センターなどの物流施設の運営事業者です。原油だけでなく、石炭や液化天然ガス(LNG)の輸入価格の上昇、高止まりなどを背景として、電力料金も上昇しています。倉庫や物流センターなどの物流施設は、多くの電力を消費します。その要因は、いろいろありますが、まず製品や商品の日焼け防止やセキュリティなどの観点から窓が少ないことから照明に要する電力を多く使用することが挙げられます。また、保管効率や荷役効率を考慮して天井が高く、スペースも広いことから空調・換気に要する電力も多く使用します。
東京都環境局東京都地球温暖化防止活動推進センター(クールネット東京)がネット上で公開している業種別省エネルギー対策テキスト「倉庫・冷凍冷蔵倉庫の省エネルギー対策」(平成28年2月(第2版))では、定温倉庫と冷凍冷蔵倉庫の用途別電力使用比率が掲載されています。それによると、定温倉庫の電力消費量の内訳は空調・換気と照明・コンセントがそれぞれ25~30%を占めており、冷凍冷蔵設備も20%程度を占めるとのことです。冷凍冷蔵倉庫は、冷凍冷蔵設備に費やす電力が大半であり、70~80%を占めているとのことです。
この比率に関しては、倉庫の種類や果たす機能によって多少異なったり、温度管理をしない倉庫や物流センターなどは、マテハン機器の使用で動力比率が高くなったりなどの違いはあると考えます。しかし、照明や空調は、物流施設では必須と言っても過言でなく、この両者には相当のコストが発生していることは事実でしょう。さらに近年は自動化、IT化の動きもあって、物流施設における使用電力量が増えているのではないかと推察できます。筆者も、以前に物流センターの電気代の額を知らされて額の多さに驚いた経験があります。また、夏の暑さは毎年厳しさを増しているように感じます。そうした中で、昨今の電気料金が高騰する中での真夏の冷凍冷蔵倉庫の電気料金は事業者にとって非常に大きな負担になることは容易に想像できます。事実、2022年の時点で一般社団法人日本倉庫協会や一般社団法人日本冷蔵協会などは、電気料金の高騰を踏まえ、寄託者へ協力をお願いする文書を作成したことも発表されています。こういった取り組みが功を奏すことを望まずにはいられません。しかし、相手先にも事情があったり、これまでの経緯や他の取引との兼ね合いがあったりなど容易に進展しないことも想定されます。また、協会の会員でない物流センターの運営事業者などの場合には、協力交渉はさらに簡単でないケースが多いと考えられます。そこで、自助努力が限界を迎えている状況であることは承知の上ですが、少しでも改善の余地が残されていないか見定める意味で倉庫や物流センターにおける基本的な節電の取り組みを改めて確認したいと思います。
節電の取り組みに向けた体制構築
節電対策の取り組みについては、倉庫や物流センターの運営コスト面だけでなく、環境面への配慮の観点からも既に実施可能な対策は実施済みという見方が一般的かもしれません。ただ、なかには、大きな効果が期待できないのではないかといった理由などで取り組みが未実施だったり、実施していても不十分であったりする内容があるかもしれません。これまで申し上げてきたとおり、昨今の電気料金事情を踏まえると、小さな取り組みであっても実施すべき状況下にあると強く感じています。節電対策に関しては、ネット上に数多の掲載があることは周知の事実です。その中でも、大掛かりな工事や高額設備の導入が不要で一定の効果が期待できる基本的な対策について紹介してみたいと思います。
節電対策に取り組む際の第一歩は、節電に向けての管理体制の構築です。もちろん倉庫や物流センターで働く従業員ひとり一人の意識と行動が最も重要なことは言うまでもありません。しかし、それだけでなく、長期的に取り組むためには、全員がベクトルを合わせ、目標と成果を共有していく必要があります。そして、そのためには組織的な取り組み、体制構築が不可欠です。また、既に管理体制が構築されていても確実に機能しているかを常にチェックすることを怠ってはなりません。
次に倉庫や物流センターで電気使用量の中で大きなウェイトを占める照明と空調の節電に関する基本的な取り組み方策を改めて確認したいと思います。
照明設備の基本的な節電対策
照明の節電で効果が高いのは、誰もが知るところのLED照明への変更ですが、本稿ではそれ以外の方策について確認していきます。照明の節電を考える場合、いくら節電といっても作業や職場環境に支障が出るようでは本末転倒です。つまり、適正とされる明るさを保った上で節電することです。言葉を変えれば「適正な照度管理」ということになります。照度について基準が設けられていることは、多くの方がご存じだと思います。具体的には、労働安全衛生規則604条に「綿密な作業」「普通の作業」「粗な作業」の3区分で規定されています。適正な照度管理とは、粗な作業場所に綿密な作業に必要とされる照明が設置されていないか確認し、その場合、作業内容に支障がない照度まで明るさを落とすということに他なりません。本稿をお読みいただいている若い方には伝わらないと思いますが、筆者は、適正な照度管理という言葉から「便所(トイレ)の100ワット」という言葉を俄かに連想した次第です。(意味や由来に興味のある方はご自身でお調べください。)また、労働安全衛生規則以外には、倉庫、事務所、更衣室、階段など主な作業領域・活動領域の照度範囲を示したJISZ9110(照明基準総則)の規定があります。いずれにしても倉庫や物流センター内の各所の照度を客観的に照度計で測定し、基準と比較した上で、安全性、効率性など実際の作業、業務内容への影響を総合的に勘案して照度を調整することが重要です。
【照度の調整方法例】
・自然採光の利用 窓から入る光を利用して消灯(オフィスの会議室などでも効果的)
・電球や蛍光灯などの間引き 使用しないスペースで照明器具から外して消灯
・タスク・アンビエント照明 全体(アンビエント)照明と、局部(タスク)照明を併用する照明法で節電(部屋全体の照度を低く抑え、作業面や商品などを局部器具で明るくすることでの節電)
照度に関する次の取り組みとしては、必要な時だけ点灯する、必要でない時は消灯することです。「何を当たり前のことを言っている!」とお叱りを受けそうですが、意外と盲点であることが少なくありません。二つほど例を挙げると、一つは照明スイッチ一つでの点灯範囲が広く、照明が必要ない範囲まで一斉に点灯するようなケースです。スイッチの点灯範囲を細分化することで節電につながります。この場合、配線工事などが必要で、一時的にはコストがかかりますが、長期的にみればそれに見合う効果が期待できます。スイッチを細分化したら、照明スイッチに「点灯マップ」(照明スイッチと点範囲の対応表示)を表示してムダな点灯が生じないようにします。
二つ目は、いわゆる消し忘れです。倉庫などの夜間作業で屋外照明を点灯する場合に、明るくなってからもしばらく点灯しっぱなしというケースや人が居ない洗面所や更衣室などの共有スペースなどでの点灯です。もちろん「こまめな消灯の徹底」ということで各人の意識と行動に頼ることも考えられます。しかし、自動的な点灯、消灯ということでのセンサーの採用も効果的です。屋外では「明るさセンサー」(いわゆる街路灯の自動的点灯、消灯に採用されている類のセンサー)を採用し、屋内のスペースでは「人感センサー」(単なる点灯タイプ以外に調光(人を検知して照度を調整できる)タイプもあります)を採用することも一つの方策です。これも工事が必要ですが、ムダな点けっぱなし状態は確実に防ぐことができます。
また、照明器具の節電に関しては、この他にも法令で常時点灯が義務付けられている避難口誘導灯や通路誘導等を高効率LED灯に変更することも効果的です。ただし、高効率LED灯に更新する場合は所轄消防暑への届出が必要となりますので、注意が必要です。
空調設備の基本的な節電対策
空調設備で節電効果が高いのは、家庭用エアコンと同様に最新の省エネモデルに交換することですが、これには多大な費用がかかります。ここでも比較的に簡単に取り組むことができる基本的な方策を確認していきます。空調で消費電力に大きな影響を与えるのが設定温度です。したがって、適正な温度管理をする必要があります。冷凍冷蔵倉庫をはじめ定温倉庫では、当然に実際の庫内の温度計測を日常行っているはずです。しかし、普通の倉庫や物流センターでは、空調設備の設定温度任せになっているケースがかなりあります。空調設備の設定温度と倉庫や事務所の実際の温度が必ずしも一致しているとは限りません。実際の温度をきちんと把握した上で空調設備の運転、温度設定をすることが基本になります。また、費用は多少かかりますが、デマンド装置を使用する方法もあります。デマンド装置とは、電気代を決める基準となるデマンド値を把握する装置です。デマンド装置は予め設定した電気使用量を超えると警告が出るため、過剰な使用を抑制することができます。警告機能までは別としても、電力使用量を見える化、把握することは非常に効果的と考えられます。
おわりに
倉庫や物流センターなどの物流施設の節電に関しては、照明や空調以外の節電に目を向けることも当然必要です。筆者がこれまでに目にした上記でご紹介した以外の主な対策としては、日中の自動販売機の照明OFF、自動販売機の加熱、冷却停止時間の延長、休憩時間の一斉消灯、ノートパソコンの昼間時間帯のバッテリー利用(夜間充電)、パソコンのスリープ機能活用など枚挙に遑がありません。ひと口に節電といっても、それぞれの倉庫や物流センターによって条件が異なるため、適した節電対策に絶対のものがないことも事実です。従って、数多く具体的な節電対策の情報を集め、その対策が実施済みか、未実施であれば自社に適するか否かの検討を積み重ねていくことが重要です。また、一つの対策で満足することなく、対策を「足し算」していくことで節電効果が高まっていくことも忘れてはなりません。
もう一方で、従業員の節電に向けた意識のあり方が成否を左右します。いくら設備を良くしても、効果的な対策を打ち立てても、そこで働く従業員の節電意識が低く、それ以外の部分で電気を無駄に消費しているようでは、期待どおりの節電効果は得られないでしょう。節電というのは、設備や運用などの見直しだけではなく、従業員の節電に対する理解と協力、意識の統一が不可欠です。それには、経営者自らがリーダーシップをとることはもちろんですが、既に申し上げたとおり節電管理体制を構築し、目標を設定し、その結果を見える化、共有することが極めて重要であると考えます。
(この記事は2023年2月10日時点の状況をもとに書かれました。)
〖コラム〗 ショートサーキット
ショートサーキットは、住宅業界で使用されることが多い言葉です。ショートサーキットとは、給気口と排気口の位置が近すぎて、狭い範囲で空気が循環してしまう現象を言います。
これは、空調設備においても同様のことが室外機・室内機ともに発生します。室外機では、例えば冷房時に室外機から出る暖まった排熱が、吸気側で取り入れて冷気にするための新鮮な空気に混ざり合ってしまい、室外機の運転効率が低下するケースがこれに該当します。簡単に言えば、エアコン室外機の前に障害物があって吹き出した熱気がそのまま吸い込み側に回り込んでしまっているような状態です。また、室内機の場合、暖気や冷気の吹き出し口の近くで換気をしているような状態です。
馬鹿げた話のようですが、実際はショートサーキットをしていると気づかずに運転している場合も少なくありません。特に施設の外に設置された室外機の配置などはあまり関心が向かないところだと思います。このショートサーキットついて改めて一度は確認してみることも必要かもしれません。当然ですが、ショートサーキットを防ぐためには、給気口(給気ファン)と排気口(排気ファン)の位置をできるだけ離し、対角線に設置するなどの工夫が必要です。
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